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北米留学上級技術マニュアル - WASPという神話


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 “アメリカに住んでいる白人の大半はイギリスから渡来したアングロ・サクソン系であり、そのWASP (= White Anglo-Saxon Puritan)出身でなければアメリカでは支配階級に入れない”と信じている人も多いが、実態はどうか?

WASPのAS(アングロサクソン)

 案外知られていないことだが、今日ではアングロ・サクソン系よりもドイツ系のアメリカ人の方が数が多い。(建国当時の英国系住民の一族よりは、その後アメリカに移民として渡ってきた人達の子孫の方が数からいうとずっと多いのである。)
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/8600.html

たまたまアングロ・サクソン系が先に東部に入植して英語を共通語にしたからそれ以降に世界中からやって来た人達も順次英語を学び、その多くは祖先の言葉を忘れてしまったが、人口比率だけからいえば今ごろ英語ではなくドイツ語がアメリカの第一公用語になっていたとしても不思議がないほどである。現に、アメリカが第一次世界大戦に参戦するまでは、村ぐるみドイツ語を話す集落があちこちにあったそうである。(その名残は、今でも残っている。今日でもアメリカの地名にはPittsburghをはじめ一見して明らかにゲルマン語起源とわかるものが少なくない。そのものずばり、Germantownという地名もあちこちにある。)

 ドイツ系のアメリカ人がアングロ・サクソン系から差別を受けているという話もきかない。第一、アングロ・サクソン系とドイツ系では容貌からも見分けがつかない。皮肉なことに、第二次世界大戦における対独戦の総指揮官Eisenhower(後に大統領)はドイツ系移民の後裔である。(ただし、第一次大戦を境に米国内でドイツ語使用人口が減少したところをみると、やはり公衆の面前で敵国語を話すのははばかられたらしい。)

結局、人口統計から見る限り「アメリカ=WASPの国」というのはかなり誇張された神話である。WASPのうちASはもはやさほど重要な要因とは考えられない。もっとも、1988年の大統領選挙の時はギリシア系の容貌が民主党のDukakis候補(ギリシア正教徒)に不利に働いたという説もあるから、土地によっては白人同士の間でも微妙な序列のようなものが存続しているのかもしれない。

WASPのW(白人)P(清教徒)

 残るWとPのうちWについては、近い将来黒人や東洋人、Latino-Hispanic(あるいは女性)の大統領も政治情勢と人物によっては可能性があると思うが、Pはどうか?Catholic 教徒の大統領はJ. F. Kennedyが先鞭をつけたが、回教徒、仏教徒や無神論者が一般投票でアメリカ大統領に選ばれることはここ50年間は絶対にない、というのが筆者の直感的予測である。(ただし断わっておくと、筆者の直感はよく外れるので有名であるから、くれぐれもあてにしないでいただきたい。)

 というわけで、 人種・宗教にもとづく疑似身分制度もどきを想起させかねない"WASP"という表現は、たとえ100%ウソとまでは言えないとしても、かなりの誇張を含んでいるのではある。文字どおりに信じるのは幼稚だが、かといってメクジラたててまで反対するのもおとなげない、という意味では"WASP"伝説はまさに「神話」ということばがぴったりである。

WASP神話の「存在意義」

 しかし、そういう神話が根強く生き残っているのにも、それなりの理由があるようである。"WASP"という言葉の語呂のよさもさることながら(小文字の"wasp"は大型のハチのこと)、アメリカ国内の人種差別的極右グループは、「清教徒の聖地アメリカを異人種から守れ!」と主張するよりどころとしてメイフラワー号伝説にしがみつく。

 一方、両翼の反米グループも、「アメリカ社会では WASPでなければ陽の目を見られない。American dreamなんてウソっぱちだ。」とアジって溜飲を下げることができるわけである。それもただ単に「アメリカ社会の主流はキリスト教徒の白人である。」というだけでは「そんなの誰でも知ってることじゃん!」と一笑に付されてしまう。そこに「アングロ・サクソン」とか「ピューリタン」とかもっともらしい単語を挿入することで、何やら「反動マスコミに耳目を毒された愚民」には容易に知り難いアメリカ社会の裏の裏を知り尽くしたような気になり、悦に入れるわけであろう。

 敢えて「アメリカはWASP原理に支配されている。」というなら、そのWASPとは人種概念というより一種の価値体系と考えるべきだろう。アングロ・サクソン家系の出身か否かを問わず、「WASP的」とでもいうべきアメリカ独特の発想と行動様式を身につけることは、アメリカ社会で成功するために非常に有利な条件の一つである。実際、Anglo-Saxon系であれば当然whiteなのだから、WASPではなくASPと言ってもいいはずである。そこにわざわざWを入れているのも、特にヨーロッパ系アメリカ人(「白人」)の「典型像」(それが実像か虚像かはさておき)をAnglo-Saxon系が体現しているという思いからなのだろうか。

アメリカの「保守本流」

 ただし、ロックフェラーをはじめ東部で伝統的に力を持っていた金融資本家の主流(いわば、アメリカの「保守本流」)がアングロ・サクソン系プロテスタントの家系で占められていることは事実のようである。これは代々引き継がれた閉鎖的な財閥一族郎党で、アングロサクソン系のアメリカ人が大金をつかめば誰でもすぐに仲間入りできるというようなものではない。現に西海岸Seattleに本拠を置くマイクロソフトの総帥Bill Gatesはクリントン民主党政権時代、東部でたたかれっぱなしであった。共和党のブッシュ政権になってようやく一息つけたようである。

 このように"WASP"をアメリカの資本家階級の中でもさらに少数派である東部財閥系エスタブリッシュメントの属性をあらわす用語として用いるのなら、南部の農家出身でバプティスト(どちらかというと庶民・田舎者の宗派とみなされている)のジミー・カーターを、単にアングロサクソン系の新教徒であることをもって「典型的なWASP」と呼ぶのはまるっきりトンチンカンなことを言っていることになる。(それにくらべれば、先代のジョージ・ブッシュ=シニアをWASPの代表例とみなす方がずっと理にかなっている。)

 アメリカの保守の中でこの東部金融資本に対抗する最大勢力がRonald Reagan元大統領に代表される反エスタブリッシュメントの西南部新保守派(こちらの方が派出なパーフォーマンスが好きで、ロコツに「右」っぽい)で、特に1980年代以降、共和党内ではあきらかに後者の方が勢力を誇ってきた。Reaganの政治的地盤の南California、特にLos Angeles近郊というのは悪く言えば流れ者が寄り集まってできた成金天国の新開地で、建国当時以来綿々と受け継がれた同系同士の社交サークルなどというものは存在しようがない。相手の先祖がアングロ・サクソン系か、ドイツ系か、フランス系かなどとしつこく詮索してからつきあうかどうか決めるなんてことは考えられない土地柄である。(Reagan自身も純系WASPではなく、祖先はアイルランド出身だそうである。)その西海岸や南部に根城をおいて急発展を遂げているのが、21世紀のアメリカの国運を担うといわれるコンピューター・通信産業と航空宇宙産業であり、その中で東部金融資本は脇役に回ってしまっている。



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