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北米留学上級技術マニュアル - TESL留学志望者のための、大学選びの着眼点


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「英語が得意だからTESLへ」なんて大間違い

 「中学、高校、大学と英語が好きで得意だったから」というだけの理由でTESL学科に留学したいという人がいる。はっきり言って、一番よくないパターンである。TESL学科は英語の習得過程や教授方法を体系的に研究するところであって、そういう問題に関する学問的な興味や職業的な目標を持っているのでなければ、さして役にたつような内容ではない。「外国語テスト」の授業をとったら、統計学の勉強までさせられる。「こんなはずじゃなかった」と学期が始まってから泣いても遅い。英語力を徹底的に鍛える目的で留学するなら、他の学科をお勧めする。

TESL学科の情報源

 「大学の情報を集める」の章でご紹介した諸種の情報源に加えて、

Directory of Professional Preparation Programs in TESOL in the United States and Canada. Teachers of English to Speakers of Other Languages, Inc. (1600 Cameron Street, Suite 300, Alexandria, Virginia 23314 USA)

には必ず目を通しておくべきだろう。さらに、日本にはJapan Association of Language Teachers (JALT)という語学教師の団体があって、北米の大学院で応用言語学を学んだ人達が多数加入している。大学だけでなく会話学校などの先生も多いこともあって、わりあいフランクで入っていきやすい雰囲気である。全国大会の他、地区例会も活発におこなっている。外国人の会員が多いのでも有名で、例会の発表は原則として英語であるので、英語力の強化のためにも顔出ししておかれるとよかろう。年次大会では、上記のTESOLの刊行物をはじめ、各種の洋書が展示即売される。一方、The Japanese Association of College English Teachers (JACET)という団体もあるが、こちらは大学の英語の先生(ほとんど日本人)の集まりだけあってJALTよりは堅苦しく、その中で情報網を築くにはいささか時間がかかるかもしれない。

 とりあえず修士以上のレベルで規模の大きいTESL/応用言語学関連学科がある大学をあげておくと、

  • University of Hawaii at Manoa, Department of English as a Second Language (ESL)
  • University of California at Los Angeles,
  • University of Pennsylvania,
  • Georgetown University, Departmnt of Linguistics (Applied Linguistics Concentration)
  • University of Texas at Austin, Foreign Language Education Center
  • University of Illinois at Urbana-Champaign, Division of English as an International Language (EIL)
  • Columbia University, Teacher's College

というあたりであろうか。このうちUniversity of Illinoisには応用言語学専門の学科がないので、Illinoisで博士課程をやりたい人は、教育心理学科、言語学科などに進むようである。

大学選びの評価基準

Practical vs. Theoretical

 理論重視の学科と応用重視の学科の違いははなはだしい。内容をよく調べて自分の興味にあったところを選ばないと、後で後悔する。応用に重きを置いて勉強したいなら、教育実習の機会があり、充分な指導をしてもらえるかどうかも重要な選択基準になる。

博士課程はあるか

 将来博士課程までやりたいと思っているなら、修士課程から引き続いて同じ大学で勉強できる方が能率がいいことは間違いない。新しい学校に移ると、学科内のpoliticsやさまざまな慣習、手続きを一通り頭に入れなおすだけで1年近くかかってしまうものである。(といっても、違う大学に移ることで新たに経験できることも多いのであるが。)

学科が大学内で高く評価されているか

 University of HawaiiのDepartment of ESLの教授達は肩で風を切って歩いていて、どちらかというと隣あわせの言語学科の方が小さくなっていたような気すらする。州の財政難で大学に予算カットの波が押し寄せた時も、Department of ESLは比較的軽い被害ですんでいたようである。ところが、University of Illinoisなど多くの大学では、ESL関係の学科は言語学科からは完全に格下に見られている。教授の中にも何とか早く「まともな」言語学科の仕事を見つけて移りたい、とチャンスをねらっているむきもいたようである。どうせ行くなら羽振りのいい学科に行った方が精神衛生上いいし、Financial aidsのチャンスなども多いであろう。

優れたスタッフがいるか

 学問的な意味で優れた研究者をかかえているかどうか知りたければ、最近3年ぐらいの間に教授陣が次の雑誌に何本論文を掲載しているか数えてみれば簡単に比較ができる。

  • Language Learning
  • Studies in Second Language Acquisition
  • Applied Linguistics
  • Second Language Research
  • Applied Psycholinguistics
  • Annual Review of Applied Linguistics
  • TESOL Quarterly
  • Modern Language Journal

 一方、ある教授が教師として優れているかどうかは、こういう公表資料からはうかがい知りようがないので、学内にいる人から聞き出すしかない。学生による教官の評価を図書館で閲覧できるようにしている大学もあるが、これも学外からではアクセスが難しい。

日本人学習者に関心を持っているか

 FloridaやNew MexicoにもTESLの分野で優れた業績をあげている先生がおられるが、いかんせん場所が場所だけに、必ずしもアジアに目が向いていない。研究の主流はスペイン語話者の英語学習になってしまい、日本人にとっては迂遠な話になりがちである。アジア指向の強い学科だと、クラスのディスカッションもアジア人の言語習得が中心になり、日本人として積極的に参加することが容易になる。

科目選択の自由はあるか

 大学全体として優れた教育研究機関であればあるほど、他学科の授業もとってみたくなるものである。学生が自分の興味にあわせて選択科目を選べるかどうか、吟味なされたい。関連学科の内容も検討するのは、もちろんである。

扇の要・言語習得理論

 理論に重きを置いて勉強したいのなら、教授陣の研究者としての質が極めて大切である。特に、最近の応用言語学はSecond language acquisitionが扇の要といってもいいような重要な役割を占めるので、そこに人を得ているかどうかが、ひとつのカギになる。

新しいテクノロジーをとりいれているか

 日本でも外国でも、マルチメディアやインターネットなどの新しいテクノロジーを外国語教育にとりいれる気風が高まりつつあるが、一方、TESL学科の取り組みはまちまちである。こういうテクノロジーの応用に興味があるなら、

  • 学科がそういう問題に目をむけているか、
  • 学科内に優れた専門家がいるか、
  • 関連する他学科のコース(教育工学など)をとることができるか、
  • 実地経験を積むための設備があるか、
  • ラボで働くチャンスがあるか、
  • 論文のテーマとして認められるか、
  • 語学プログラムとの研究協力は可能か、

なども入学前にチェックしておかれたい。なお、日本の英語教育界でのテクノロジー利用に興味がおありなら、net-langに加入なさるとよろしかろう。

教授経験は必要か

 やってみた実感として、外国語教授法の授業は、やはり教えた経験がないと内容を充分に咀嚼するのが難しい。ハワイ大学に在学していたころ、クラスメートのベテラン英語教師たちが活発に議論を展開する中、経験のない筆者はいつも取り残されてしまっていた。むしろ、言語習得や音声学、社会言語学のような理論的な科目の方がそういうハンディがなく、勉強すればするだけ成績に反映したように思う。「ビジネス実務の経験なしでいきなりMBAに入学しても事例研究の授業内容は吸収しきれない」という話を聞いたことがあるが、TESLでも事情は大同小異のようである。

 したがって、TESL学科に進んで教授法の粋を究めたいと思っておられるのなら、やはり留学前に少しでも多く教授経験を積むことをお勧めする。教員免許をおとりになるなら教育実習は英語でなさるのがよろしかろう。進学が何年間か遅れてもいいなら、中学高校の英語教師経験を積むはやはりプラスになるのではないかと思うが、これは筆者にその経験がないので自信をもって申しあげられない。学生時代にも進学塾や家庭教師として英語を教えるチャンスはあるだろうが、入試問題の解法テクニックを教える経験と、コミュニケーションを目的としたTESL教育とのギャップははなはだしいので、どの程度転移が利くか心もとない(もっとも、現在のTESL学科のトレーニングは基礎的な文法知識の説明などをあまりに軽視しすぎると、筆者は逆の意味で不満をもっているが)。むしろ、英会話教室(成人相手が最適だが、幼児・学童でも可)の講師などの仕事をなさっておかれると大学院に行ってから参考になる点があるように思う。あるいは、ボランティアでもいいから、日本にいる間に外国人に日本語を教える経験をなさっておかれると、コミュニケーションに直結する教え方をせざるをえないから、TESLの授業内容がピンときやすいのではないか。

 言うまでもないことながら、いくら経験年数が長くても、自分で考えることなく他人に言われたことをそのままオウム返しに生徒の前でくりかえすだけなら、外国語教師としての力は一定以上には伸びない。英会話学校などでは学校の方針に従わねばならないのであまり勝手なことはできないかもしれないが、つねに「なぜこの学校はこのやり方を採用しているのか。」、「本当にこのやり方でいいのか。」と自分に問いかける姿勢を貫けば、教授法の文献を読んだり講義を聞いたりした時、その自問への答えやヒントを次々に発見することができるであろう。(すぐには答えが出ないような疑問は、ぜひメモしておかれることをお勧めする。大学院に進んでからそのメモを読みなおしてみると、それがresearch questionの宝庫と化するかもしれない。)

Financial aid は すくない

 理工系は言うにおよばず、文系の中でも心理学科などに比べるとTESL学科の学生へのfinancial aidsは限られている。英語のネイティブなら大学付属の英語学校で教えるというのが常套だが、外国人でそういう仕事をまかせてもらえるのはよほどの英語の達人に限られる。まずは、2年間を自費でやりくりする覚悟をしておいた方が安全であろう。

 Assistantshipの可能性があるとすれば、日本語TAが おもな仕事ということになる。多少なりとも日本語を教えることに興味があるなら、なるべく早く(できれば出願前に)日本語科の先生に連絡をとられたい。

金ヅルの医科学研究と軍務研究

 所属学生へのfinancial aidsが少ないということは、とりもなおさず大学内外から学科への助成が少ないということである。僻みだといわれようが、概して心理学科に所属する心理言語学の教授の方が応用言語学科や外国語教育学科の教授よりもずっと豊富な研究資金を手にしているのはまぎれもない事実である。広い意味ではどちらも人間の言語認知のプロセスを研究しているのであるが。

 観察するに、心理学科に所属する心理言語学者の主な金ヅルの一つは、Natinal Institute of Health (NIH)が主管する、医科学研究対象の連邦政府基金のようである。失語症患者などを研究対象に入れたり神経生理学的な研究テクニックを用いることによって、その受給対象となりうるような研究計画を組むことができる。医科学関連の研究助成は一口何十万ドルあるいは百万ドル単位での支給が珍しくなく、しかもいかに財政難といえども露骨に医科学研究費の削減を主張する度胸のある政治家は少ないから、予算カットからもかなり守られている。医者という強力な圧力団体の存在も大きいのかもしれない。(もちろん失語症は医療実践上も、認知理論的にもきわめて重要な研究分野である。別に金目当てに無駄な研究をしていると攻撃しているわけではない。)

 この手のきかないのが外国語習得・教育の専門家である。この分野で理論指向の研究にまとまった研究費を支出してくれそうな連邦機関はNational Science Foundation (NSF)ぐらいのものだが、いわゆる人文科学系の学問への支給は枠も額も限られている。さらにこのNSFが財政難のあおりをくって特に人文科学関係の予算を大幅にカットする動きにある。外国語教師と海外からの移民だけでは、圧力団体としての影響力もいま一つである。

 むしろ外国語教育の研究者が最近よくねらうのは、Department of Education(DOE=教育省)とDepartment of Defence(DOD=国防総省)の基金である。ただし教育省が金を出してくれるのは、マルチメディア教材の開発や初等中等教育の実態調査など、実用に直結するようなプロジェクトが大半である。一方、国防総省は一見したところ軍事目的とはほとんど関係のなさそうなところにまで金をばらまくので有名である。冷戦が終わって軍事予算が削られる中、国防総省の研究助成部門はむしろ学術全般の振興に組織の生き残りを賭けているようなふしすら見られる。

 因みに、日本では大学教授が防衛関係の金をもらって何か研究をはじめたらたちまち「左」の人達から総攻撃をうけそうだが、アメリカでは軍の金をもらうのが手を汚すことになるになるという感覚はない。あの反体制派の論客でかつてベトナム反戦の中心人物だったノーム・チョムスキーでさえも、初期の著作"Aspects of the Theory of Syntax"は軍から出た金で出版にこぎつけているぐらいで、そのことは同書の巻頭にも明記してある。他にも、国防総省から助成金が降りるのを一日千秋の思いで待ち焦がれていた「左翼」の教授を筆者は個人的に知っている。

日本語教師の道もある

 Asian studiesやLinguisticsの学位とならんで、TESLの修士号をもっている日本語教師もかなりいる。言語習得理論などの素養は言語の壁を越えて参考になるものだが、ある程度相手に英語の知識があることを前提にしているTESLと、まったく白紙の学習者を相手にする外国語教育とでは、かなりの違いがあることも頭に入れておかれたい。

TESLの トレ−ニングは 将来役に立つか

 日本に帰って大学の英語の先生になるつもりなら、非常勤の口を見つける分には言語学専攻でも文学専攻でもさしたる違いはないようである。常勤となると、TESLをまともな学問とみなさない学科もある(いわゆる、「伝統」のある大学に多い)。どちらかというと、新設の私立大学の方が形式にとらわれず、真剣に語学教育に取り組む先生を求めているように見受けられる。

 北米に残って日本語教師になる計画なら、修士号をとってlecturerレベルで就職するのが「売りごろ」かもしれない。そのレベルなら、概してteaching specialistとして一生懸命教えてくれる先生が好まれるから、語学教育専攻というのはうまく売り込むことも可能である。(ただし、博士号がないと、アメリカの大学では一生下積みになる可能性が高い。)

 ところが、博士課程を終えてassistant professor待遇の仕事を探すとなると、応用言語学専攻は決して有利といえない。事情は日本での英語教師職と大同小異で、応用言語学をまともな学問として認める外国語学科はまだ少ない。むしろ、文学や言語学を教えられる人の方が学科のニーヅに合う場合が多いのである。教授法専攻ならまだしも日本語教師養成課程をおく学科に職を得る可能性もあろうが、second language acquisitionのように直接に応用の利かない分野に深入りしてしまったら茨の道をたどることになると、覚悟なさっておかれた方がよかろう。

 なお、ごく稀に(北米大陸全体で数年に一度ぐらいの頻度)、応用言語学プログラムが日本語または東洋語の専門家の求人広告を出すことがある。応用言語学専攻の大学院生、特に博士課程の学生の育成を念頭においてのことである。こういうポジションなら言語習得を専攻する者にもチャンスがある。ただし、講義科目のコマ数合わせの都合上、採用された人物が当面undergraduateの語学のコースを教えさせられる場合もある。

 そうはいっても、こういうポジションの選考では外国語を教えた経験や技量は重要視されない。極端な場合には全くの未経験者が採用されて、当座の間外国語のコースを教えた例すらある。(外国語学科が概して応用言語学に無関心であるのと同じぐらいに、名のある応用言語学者の中にも教育実践を軽く見ている人がいるようである。)そのかわり、野球でいえば指名代打に近いような仕事だから、「打撃」すなわち研究業績に関しては打率3割3分、ホームラン25本ぐらいの大活躍が期待される。応用言語学の世界では、さしずめinternational academic journals にsingle authorまたはfirst authorとして出すfull-length articleが毎年最低1本(できれば2本以上)、全国規模の学会での発表が3〜4回、そして日本語応用言語学者として全米でリーダー的な声望、というところであろう。一方「守備」(教育実践)では、いくら情熱と実力と実績があっても、ほとんどプラスにならないと思っておいた方が安全である。

 したがって、こういうポジションを一筋にねらうなら何をおいても名の知れたrefereed international journalに研究論文をたくさん出しSecond Language Research Forum (SLRF)やAmerican Association of Applied Linguistics(AAAL)など研究者のための専門学会で発表して名を売るしかない。なまじ外国語教師として生き甲斐と責任感を感じてカリキュラム開発や教材作成などに精を出すあまりpublicationが遅れてしまうと、自分の首を絞める結果になる。善し悪しは別にして、それがこの世界の現実である。(「口でキレイ事を滔々と並べたてる人に限って結局自分の得にならないことはしない」というのが筆者の実感である。)

学際的研究が可能か

 言語学習の研究は色々な学問分野にまたがるから、学際的なアプローチをとっていることが将来の発展の鍵といえる。英語のみならず、様々な言語の習得を念頭に入れて研究を進めることの重要性も、近年とみに認識されている。そういう方面を目指したプログラム作りで先行したのが、

  • University of Arizona at Tucson, Second Language Acquisition and Teaching (SLAT)

のプログラムである。大学自体はどちらかといえば地味だが、second language acquisitionの大学院教育には、言語学、心理学、神経生理学などの専門家が参加しており、非常に強力なチームを形成している。もともと言語学や心理言語学では優れた陣容を擁する大学である。

  • Carnegie Mellon University, Department of Modern Languages

でも同様の構想でsecond language acquisitionの博士課程プログラムが始まったところである。何といっても強味はCMUやお隣のUniversity of Pittsburghの強力な心理学科と連携できる点であろう。ただしプログラムの規模はArizonaほどではない模様。「CMUは少数精鋭教育で、入学一年目から学生を積極的にプロジェクトに参加させ、在学4年で卒業してもらうつもりなので、自分が何がやりたいのかはっきりわかっている人に来てもらいたい。」というのが、担当の先生から伺ったお話でした。

  • University of Iowa

もやはりその種の博士課程を近々はじめる予定で準備中らしい。これも担当の先生から伺った話では、「うちは博士課程の学生を指導できるFLEの教授陣の層の厚さでは全米一です。」ということであった。

 さらに、

  • University of Oregon

もアジア学科の中で日本語のSLAの専門家を養成できるような体制をしいている。いずれも、優秀なスタッフを揃えている。この4校とも認知科学的なアプローチを強調していて、従来の狭義の応用言語学科とはかなり取組み方が異なるようである。

 ただし、上記のプログラムはいずれも、TESLよりも外国語教育の方に重きをおいている。こういう大学で勉強すれば確かに学問的には実のある勉強ができると思うが、将来の就職にどう結び付くかは今のところ未知数だと思う。英語習得を専攻すれば日本での英語教師職に直結するとも言えるが、なまじ日本語習得の研究などやって日本語教育の方に軸足を移してしまうと、先々、日本語教育界と応用言語学界のギャップの大きさに悩む結果になりかねない。

心理学科や言語学科・教育学部でも外国語習得の研究ができる

 語学教師の専門分野といえばこれまでは文学/言語学/応用言語学のどれかと相場が決まっていて、最近ようやく教育学部出身者が進出しつつあるが、外国語教師としての教授法などの訓練は必要がなく理論的な観点からのみ外国語習得の研究をしたいのなら、心理学科や行動科学科でも可能である。

  • Rochester University (Elisa Newport)
  • University of Virginia (Jacquiline Johnson)
  • University of California, Berkeley (Susan Ervin-Tripp)
  • Carnegie Mellon University (Brian MacWhinney)
  • University of Colorado at Bounder (Akira Miyake = 三宅晶; Alice Healy; Lyle E. Bourne, Jr.)
  • Louisiana State University - Baton Rouge (Janet McDonald)
  • University of Michigan - Dearborn (Michael Akiyama)

などで、そういう研究がなされている。教育学部では

  • Harvard University (Catherine Snow; Courtney Cazden)
  • University of Illinois at Urbana-Champaign (Gary Cziko; Elica McLure)
  • University of California, Berkeley (Linda Wong-Filmore)
  • University of Toronto -- Ontario Institute for Studies in Education (OISE) (Merill Swain)

 言語学科では

  • University of Oregon (Russel Tomlim)
  • McGill University (Lydia White)

など。

 成人の外国語習得というのではないが、バイリンガリズムの研究ならさらに多くの心理学科や教育学部で行われている。なんといってもメッカは

  • McGill University

ただし長らくMcGillの心理学科教授として活躍していたバイリンガル研究の権威Fred Geneseeは、最近

  • University of California, Davis (Division of Education)

に移った。

心理学者の指導の下でバイリンガル研究ができそうな大学は他にも

  • University of California, Berkeley (Dan Slobin; Susan Ervin-Tripp)
  • Stanford University (Shirley Heath; Kenji Hakuta)

など数多い。たとえ自分ではことさらバイリンガル児の研究をしていなくても発達心理言語学者なら理論的な観点から幼児の二言語併用には大抵関心を持っているから、そういう研究をやりたいなら興味をもって指導してくれる可能性は大いにある。

 ところが、成人の外国語学習となると完全に「応用」(つまり「理論的な価値が乏しい」)分野とみなされてしまい、心理言語学の世界では傍流扱いである。この点カナダは国情を反映して多少ましだが、アメリカの心理言語学界は特にこの第一言語研究と第二言語研究の間の溝が深いように見うけられる。

 むしろ、心理学科で異文化間コミュニケーションを研究したい人にとっての「穴場」は、比較文化心理学(Cross-cultural psychology)ではないだろうか。

  • University of California, San Diego (Michael Cole)
  • University of Illinois at Urbana-Champaign (Harry Triandis)

ほか、多くの大学でその種の研究が行われている。 Cole やTriandisが直接にsecond language acquisitionの研究をしているわけではないから学生は自分で研究計画を作っていく必要があるが、インターネット全盛のグローバル化時代にあたって、外国語でのコミュニケーションを異文化の衝突場面としてとらえる視点の重要性は今後ますます増大するに違いない。

 卒業後の就職先の間口も心理言語学よりは比較文化心理学の方がずっと広い。心理言語学者を雇っておけるのは大学院のあるかなり大きい心理学科か言語学科に限られている上、言語学、心理学、教育学、コンピューター工学などさまざまな学科からこの分野に研究者が参入してくるので競争率が非常に高い。ところが一方、社会心理学者ならliberal-arts collegeも含めてほとんどの心理学科で需要がある。異文化教育という観点から、教育学者としての売りこみもねらえる。

 海外での勉学・教授経験のある人が日本に帰って大学関係の職を得た場合、「海外からの留学生の世話役をやってくれ。」と言われることがある。こういう場合も、重箱の隅をつつくような言語心理学の研究歴などよりは、異文化コミュニケーションに関する広い識見があった方がプラスになる。さらに文化交流を研究テーマにしていれば、どちらかというと「雑用」とみなされやすい留学生の世話役の仕事の経験を、研究の肥やしにすることも可能になるわけである。

 日本の大学の教育学部に就職した場合も、海外生活経験のある研究者が有利な研究分野の一つは、いわゆる海外帰国子女の再適応の問題である。ここでもやはり、比較文化的な観点が不可欠である。

 もし語学教師の道をめざすにしても、言語習得のように一般受けしないような研究分野よりは、かみくだけば素人にも「受け」をねらえる比較文化心理学のほうが、まだしも外国語学科から受け入れられやすい。文学専攻の教官の大半も、「大脳半球機能の局在化がどうこう」などという話よりは異文化交流の方に興味をもってくれる。比較文化論を軸にすえた日本語専攻の学位も、周囲をうまく説得すれば開発可能であろう。比較文化心理学に加えて社会言語学や比較語用論(cross-linguistic pragmatics)などの類縁分野も教えられるようにしておけば、鬼に金棒である。International businessやinternational studiesに力をいれている大学なら特に、異文化コミュニケーションの専門家としての実績は売り込みの材料になる。心理学に限らず、second culture and language acquisitionの研究には文化人類学や社会学の視点も絶対必要なはずである。

 さらに、異文化交流専門のトレーナー、コンサルタントとして公共セクターや民間企業で活躍するチャンスも、心理言語学者よりはずっと多いように思う──と力説するあたりで、筆者の僻みが露呈してしまった。ただし、比較文化論の理論枠組みはえてして哲学のように抽象的な話になりやすいので、その研究を素人にもわかりやすくおもしろく聞かせる技量を平素から磨いておく必要があろう。



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