北米留学上級技術マニュアル - 論題の決め方
目次
- 選ぶことへの不安
- 9大原則
- 専門分野外の学科で仕事を探す場合の追加2原則
- 研究計画評価表
- 「人気のトピックを組み合わせればいい研究計画になる」とは限らない
- 「大研究」を狙うべきか
- それでも不安が拭えない貴方のために
選ぶことへの不安↑
阿川咲「 東京にいったい何人 男の人がいるの?この人がたった一人の人だって、どうして決められるの?」(NHKテレビ連続ドラマ『青春家族』平成元年(西暦1989年)放映より)
二十歳になったばかりの咲は結婚式の当日、父親にこの言葉を残してウエディングドレスのまま花嫁控え室から姿を消してしまう…それがこの往年の人気ドラマの発端である。一家をはじめ周囲を巻き込んだ大騒動になったのはもちろんだが、それでも、納得のいかないまま式を挙げたあげくやがて破局に至るよりはよかったのかもしれない。
ともあれ、自分の研究テーマを何にするか真剣に考えたことのある人にとって、咲の迷いと不安は他人事ではないだろう。膨大な数の候補の中から「たった一人の人」を、限られた時間と労力の範囲内で一意的に確定できるアルゴリズムが存在するかどうかは知らないが、それなりに納得のいく研究テーマ選びの基準とステップを考えてみよう。ある碩学は「選ぶ」ことについて、咲よりもずっと楽観的な見通しを吐露している。
Choosing a thesis is a lot like choosing a mate ---there are thousands upon thousands of thesistopics with which you can live happily ever after.After you have chosen and settled down withyour thesis, the odds are that it will seem likethe perfect one. Because there are so many goodthesis possibilities for you, it is easy to finda topic if you search actively.Robert L. Peters (1997). Getting what you came for (p. 178)
9大原則↑
論文のトピックを選ぶにあたっては、当然ながら、
- やっている本人が「おもしろい」「有意義だ」と思える研究
をするのが最重要である。長丁場の学位論文研究の過程で、「なんでこんなにつまらないテーマを選んだんだろう?」と後悔しながらやっていたのでは、精神的に、もちこたえられない。やっとの思いで卒業した後も、研究テーマの選択を一生後悔し続けることすらある。また、将来研究の結果を口頭発表する時も、「私はこんなに面白い研究をしたんですよ!どうか聞いてください!」という気持ちがあるのとないのとでは迫力がまるっきり違う。たとえ口下手でも、相手に伝えたいという強い気持ちに裏うちされた発表は不思議と胸をうつものがあるものだ。
この気迫のあるなしは特に、素人を相手に発表する場合に非常に重要である。研究分野と就職進路によっては、全くの素人を相手に研究発表をしないといけない場合もある(例えば、言語習得の研究者が外国語教師の職を求める場合)。技術的な詳細がわからない門外漢は、まさに門外漢であるからこそ、講演者の意気込みのほどを敏感にかぎとってしまうものである。
もっとも、場合によっては「とにかく早く卒業したい」ことを優先してテーマを選ぶことや、指導教官に言われたテーマをそのまま論文で扱うこともあるが、それが「本道」とはいえないだろう。
その他、少なくとも次の点を考慮するべきである。(といっても、これらを全部満たすようなテーマに行き当たることは稀だから、最終的にはどれかを優先して決断を下さなければならないことが多い。)仮にも学術論文なのだから多少なりとも
- 学問的に価値がある(分野の研究の発展に貢献する)
画期的な新理論を提唱する必要は必ずしもないが、従来の仮説を新しい対象で検証したり、データベースを広げたり、何らかの形で次なる研究の足場になるものであることは要求される。
のは当然として、
- 将来の就職につながる
- 研究を通じて新しい技術や理論が学べる(特に、指導教官から多くを吸収できる)
もちろん、自分で新しく勉強した枠組みや技法を使って論文を書いてもいいのだが、身近にいる一線の研究者から多くを学び取る(あるいは盗み取る)ことができれば、その方がトクである。
- 結果を学会や専門雑誌で発表できる
- 現有の機材や予算内で実行可能である
- 所定の期間内で確実に終えることができる
- どんな結果が出ても、報告価値がある
- 卒業後の研究活動の基礎になる
なども選択の基準になる。
最後の二点について、少し説明しよう。
「どんな結果が出ても、報告価値がある」↑
ある仮説を検証するために実験や調査を行ったとして、それが立証されれば大発見だが否定されれば何の報告価値もない、というのでは危険が高すぎて学生の修士論文や博士論文のテーマとしてはお勧めできない。苦労してデータを集めてきて、それが予想していたのと逆の結果だったらその研究は徒労に終わる、というのでは、いつになったら卒業できるかわからないからである。そういうタイプの研究の一つの典型が、シュリーマンのトロイ遺跡発掘である。
したがって、どんな結果が出ても報告価値のあるような研究計画をたてておくべきである。シュリーマンとの対比でいえば、伊能忠敬の日本全土測量などまさにこの基準を満たすものといえる。
逆に、確たる仮説をたてず「とにかく様子をみる」という探索的な研究を学位論文のテーマに選んだあげく、出てきた結果をまとめようがなく四苦八苦している人がいる。分野にもよるが、概して探索的な調査や実験は本番前の予備研究として済ませておいた方が安全なようである。
徹底比較 19世紀 遅咲き研究者の東西二大スター 伊能忠敬vs.ハインリッヒ・シュリーマン
http://sa_yoshi.at.infoseek.co.jp/ocha/hoohoo/ResPlan/Ino-vs-Schliemann.html
「卒業後の研究活動の基礎になる」↑
一旦大学の教官として就職してしまうと、授業や雑用に追われて最初の数年はなかなか研究にまとまった時間をとることができない場合が多い。(一から新しい研究技法や理論を身につけるなど、なかなか時間が許さない。)しかし、tenureの審査は刻々と迫ってくる。忙しい毎日の中で業績をあげる為には、計画的に研究を進めることが不可欠である。したがって、大学院生の間に必要な研究の枠組み・方法論と分析手順を確立し、就職した後はそれを使っていろいろな対象サンプルや条件で継続してデータをとり、逐次その成果を発表していく、というのが一番安全な作戦である。博士論文は、規模は小さくても骨組みをしっかりし、あとで拡張できるようなものにしておけばいいわけである。
逆に、データ収集そのものに膨大な時間と労力がかかるため就職後あらたにプロジェクトをはじめるのは難しい、という分野なら、学位論文研究のついでに、その後数年かけて分析しなければいけないぐらいのデータを集めてしまうという作戦もある。(集めたデータ全部を学位論文の中で完全に分析しつくして全て報告する必要は必ずしもない。また当初の学位論文の研究デザインの枠をこえて追加データを収集する分には、必ずしも逐一主査の了承を得る必要もない。ただし、実験心理学などで学位論文研究に使うデータを取る前に同じ被験者に違う作業をさせるとそれが後の結果に影響をおよぼすことがあるから、その点には留意すべきである。)こうすると、一回のプロジェクトをネタにして、何本も論文が稼げるわけである。 現に、社会調査やフィールドワークなどによって研究データを集める研究者の中にはこれでtenureまで生き延びてしまう人もいる。Tenure がとれればその後半年ないし一年間のsabbaticalの間に、またしっかり充電すればいいわけである。
また、折角論文を書くなら、学会の注目を浴び将来いろいろな方向に発展の可能性があるテーマを選んだ方が何かにつけて有利なことは言うまでもない。とはいえ、そういうテーマは誰しも狙っていて激戦であることも確かである。また、既に卒業論文や修士論文で他のテーマを手掛け、そう簡単にそれを捨てることはできないと感じることもあろう。
そんな時、これまでのテーマと新しい領域の接点を探してみたらどうだろうか。そこから新しい学際的研究の領域が開けることだってある。
坪田医学博士の場合↑
たとえば坪田一男医師はドライアイ(乾き目)研究の第一人者だが、学会全体の動向を見渡すとこれからは脳研究の時代だと痛感なさったそうである。とはいえ、真正面から脳の研究にとりくむには莫大な設備投資が必要になる上、既に眼科医として重要なテーマを抱えていてそうおいそれと他のテーマには移れない。
そこで坪田医師が目をつけたのが「まばたき」の研究。ドライアイ治療に取り組む上で避けて通れない問題であるのはもちろん、脳の働きとも密接に関連している。しかも、これまで本格的に研究した人が少なく、いくらでも開拓の余地がある。眼科医としての学識を生かして、脳研究に新しい角度からの貢献をするチャンスでもあるのだろう。
実は坪田氏は「まばたき」の他に「涙」の研究も候補として検討したのだが、データのとりやすさなど様々な観点から総合的に判断して「まばたき」の方を選んだのだそうである。
坪田一男『理系のための研究生活ガイド』(1997)講談社ブルーバックス
一方、もし学生の間にこれまでのテーマとは全く違うことを試してみたいと思うなら、コースのタームペーパーやindependent study、Research assistantshipなどがいい機会になる。失敗してもともと、何か一つでも学べればいいという気持ちでたまには思いきって新しいことをやってみるのも悪くはないと思う。ただしResearch assistantとして研究の手伝いをしたいなら、何か核になるような研究技術なり基礎知識なりを一つでも持っていた方が仕事がとりやすいことはいうまでもない。
…というようなことを書くと、「そんなセコいテクニックにこだわっていたら、優秀な研究者が若いころからリスクを背負って独創的な研究にうちこむことができなくなる。」とお叱りを受けそうである。おっしゃるとおり!!北米の大学システムの業績(=出版件数)第一主義とtenure制度は結局のところ、若いころに大テーマにうちこむことを妨げるという欠点もあわせもっている。このことは、日本の大学院に進むか、留学するか、迷っておられる方には特にご留意いただきたい。(なお、上で御紹介した坪田医師は慶應義塾大学医学部を卒業した「メイド=イン=ジャパン」の、世界に通用する医学者である。)
天才のお話↑
もっとも、そういうハードルを乗り越えて20代〜30代にして画期的な大理論を作りあげる天才もいるから、ご自分が天才(あるいはそれ以上の存在)であると確信しておられる方に対してはこれは無用の忠告であろう。因に、史上最年少のノーベル賞受賞者は受賞時に25歳だったとのこと。博士論文がそのままノーベル賞受賞研究となった例も何件かある(矢野暢『ノーベル賞』中公新書)。
また、近代数理経済学の泰斗Samuelson(1970年ノーベル経済学賞受賞)は大学院在学中から既に俊英として鳴り響いていた。氏が博士論文の口頭試問を受けた際には、その答えがあまりに高度過ぎて審査教官の方がそれを全く理解できず、Samuelsonが試問室を出ていった後、ある試験官が同席した他の教官たちを見渡して"Did we pass?"と言ったそうである。念の為に申し上げておくが、Samuelsonの論文審査に当たった教授陣の方も、それぞれ経済学史に名を残した高名な硯学揃いである。
専門分野外の学科で仕事を探す場合の追加2原則↑
上記9つの条件を満たしていれば、通常は学位論文としては充分といえよう。(というより、これらを全部満たすような論文テーマを練りあげることができたら、それだけで非常に幸運であるといえる。そういうテーマにたどり着くに至るまでの御研鑽、御精進にも敬意を表したい。)
もし読者が自分の専門分野外の学科で仕事を探す場合(言語習得理論を専攻していて将来日本語教師として就職したい、なんていう場合)、それに加えて
- 素人にわかりやすい
- 実用に結び付く(あるいは、結び付くように見える)
という基準も時には重要になる。例えば、外国語教育の世界は文学研究者と言語学者が主流をしめていて、言語習得の実証的な研究に通じている人はまだほとんどいないといっていい。そういう人たちが集まって次の採用の人選をするわけであるから、素人にわからないような言語心理学の話をしても、全く通じないのである。自分の研究分野の専門家に評価されるというだけでは駄目で、専門外の人をも納得させられるような研究発表をしないと、仕事が回ってこない。教育に重きをおくポジションの場合、研究の成果が実用化できるような印象を与えることができればさらに効果的である。まともな仕事が見つからない限り研究の継続が難しいことを考えると、場合によっては、論文が専門雑誌に掲載されるかどうかよりもこちらの方が大事だという気すらする。 できれば、文学研究者の前で話す時は文学との関係を強調し、言語学者の前で話す時は言語学理論との関連を軸にする、というところまで演出できれば言うことなしだが、ここまでやるのは「上級技術」をも越えた超高等テクニックである。(そういうノウハウを確立なさったら、是非ご自分のホームページに載せて、公開していただきたい。筆者もそういう達人に教えを乞いたい。)
研究計画評価表↑
以上のべてきたような評価基準を使って実際に研究計画を練る際に、筆者は次のような表に記入しながら考えることをお勧めしている。この表で「a: 研究計画の評価」とは「興味」「学問的意義」などの基準(一番左の列)ごとに評価した自分の研究計画を五段階で評価した評点である(高いほど、その基準を満たしている)。一方、「b: 各基準の重要性」とはそれぞれの基準自体があなたにとってどの程度重要かを評定したものである(高いほど重要、したがって重みづけが大きい)。aの数値は研究計画ごとに異なるが、bの数値は一個人内では原則として一定となるはずである。このaとbの積を行ごとに求めて累計すれば、その数値はある研究のあなたにとっての「価値」を大雑把に示す指数となる。(重要な基準に照らして高い評点を得ている研究計画ほど、合計得点が高くなる。なお、評点を五段階にしたのには深い理由はなく、このぐらいが使いやすいだろうと思ったからである。何なら10段階あるいは100点法にしても一向にさしつかえない。)
この作業を自分でやってみるとともに、知人数人にも同様の評価をしてもらうと、自分としては学問的意義が高いと思っていた研究が他人にとってはそうでもないことがわかったりして教えられるところが多い。もちろん、「学問的意義が低い」と評価されてもそこでがっかりして諦める必要はなく、自信があるならその研究がいかに重要な貢献を学界にするものであるかを納得させるべくさらに説明を加えるべきだろう。そうしているうちに、他人に自分の研究を理解してもらうのがいかに難しいものであるかがわかってきて、他日論文を書く際に非常に参考になる。(ひとりよがりの記述をしないですむ。)
テーマ:________________
リサーチクエスチョン:____________か?
手続き:___________________
結果のシミュレーション:
- __という結果が得られれば、__と結論/解釈できる。
- __という結果が得られれば、__と結論/解釈できる。
- __という結果が得られれば、__と結論/解釈できる。
| 評価 | |||
| a: 研究計画の評価(1〜5) | b: 各基準の重要性(1〜5) | a x b | |
| 興味 | 5 | 5 | 25 |
| 学問的意義 | 3 | 4 | 12 |
| 就職につながる | 2 | 2 | 4 |
| 研究の過程で多くを学べる | 4 | 3 | 12 |
| 学界での発表のチャンス | 3 | 2 | 6 |
| 実行可能である | 4 | 5 | 20 |
| どんな結果が出ても発表価値がある | 2 | 4 | 8 |
| 将来の研究の基礎になる | 3 | 3 | 9 |
| 素人にわかりやすい | 2 | 1 | 2 |
| 実用に役立つ | 3 | 2 | 6 |
| 総計 | ----- | ----- | 104 |
【ダウンロード】Excelによる評価シート
http://sa_yoshi.at.infoseek.co.jp/ryuugaku/ResPlanEval.xls
「人気のトピックを組み合わせればいい研究計画になる」とは限らない↑
一時期、モンタージュ写真の技法を芸能番組に応用して「日本で一番美しい鼻」「日本で一番美しい目」「日本で一番美しい口元」などをそれぞれ選び、それらを一つの顔に合成してみるというお遊びが流行ったことがある。さぞかし絶世の美女ができあがると思いきや、期待外れの出来映えに「はぁ?」と感じてしまう視聴者が続出したものである。
研究の世界でも、今注目を浴びているAというテーマを最新のaという理論枠組みにあてはめ最先端のαという研究方法で研究したら必ずうまくいくかというとそうは限らない。たとえば第二言語習得論の分野では最近「第二言語学習適性」への関心が再燃している。一方、認知言語学の成果を習得研究に援用した多義語の習得の研究も脚光を浴びている。それではこの二つの流行りのテーマを組み合わせて「多義語習得に学習適性が及ぼす影響」をテーマにすれば必ずいい研究になるかというと、そう単純なものではない。
- 「第二言語学習適性を研究する素材として多義語は適切か(多義語の習得過程を通じて、学習適性の重要な側面を浮き彫りにすることができるか?)」
または
- 「多義語習得研究の切り口として学習適性は有効か(学習適性を変数に加えることにより、多義語習得の重要な側面に光を当てることが可能か?)」
を綿密に検討する必要がある。こういう必然性がないのに無理矢理複数の要素をくっつけたような研究計画は、そのうちに破綻をきたす可能性がかなり高いのである。
「大研究」を狙うべきか↑
「学位論文がそのままノーベル賞を受賞した例が過去にある」と聞いて「よし、それなら是非オレも!」と奮い立たれたなら、まずはその闘志に敬意を表したい。一方、「大研究を狙って時間を費やすべきか、それともこじんまりとした研究でもいいから確実に仕上げて早く卒業すべきか」と迷っている方は、自分が研究者としてどういうタイプかを考えることからはじめてはいかがであろうか。
野球には、はじめからホームランを狙って打てる天性の長距離打者もいれば、コンパクトに振り抜いてヒットを目指す延長が長打につながるタイプもいる。後者のタイプは、はじめから「ヒットはいらない、ホームランだけ狙え」と言われるとフォームが崩れてしまって却ってホームランはおろか打率まで落ちてしまいかねない。また、長距離打者をずらりと9人揃えたチームが常勝かというと、そうは限らないのが野球の面白いところ。内野安打で出塁して足でかきまわす一番打者や小技を鮮やかに決める二番打者の機関銃部隊がいるから、四番打者の大砲の破壊力が倍増するのである。(もし筆者がプロ野球チームのオーナーなら、松井秀喜が9人いるチームよりもイチローが9人いるチームの方を経営してみたい。)
スポーツに限らず学問の分野でも、やはりこういういろいろなタイプがいるようである。もし読者が短/中距離打者タイプであると自覚なさるなら、最初は大向こう受けしなくてもいいから手堅い研究をこつこつ重ねることを念頭においた方が結局は成果があがることが多いと思う。とにかく手持ちのリソースでできる研究を小規模でもいいから重ねていると、結構周囲が評価してくれるようなこともある。そういう場合、方向性を見失わないためには、「今やっている研究がどういう形で次の研究の準備になるか」を考えながら進めるのも一案であろう。例えば修士論文のデザインを考える時にはそれが博士論文研究の準備になるかどうかを念頭におき、博士論文の計画を練る時は、それが就職やその後の研究活動の出発点になるように留意するのである。
そうやって確実に「ヒット」を稼ぐ中で方法論や方向がはっきり見えて「これでいける!」という確信が持てたなら、その時こそ大きな研究基金に応募して大規模な研究に挑んでみるのも悪くないと思う。(莫大な研究費がないとはじめから研究が始められない、という分野ではそんなことは言っておられないが。)実際、大きな額の研究費をもらって器材を買い込んだり助手を雇ったりすれば、規模の大きい研究をすることは可能だが、金の力だけで「アイデア」を産み出すことはできない。せいぜいもらったお金を使って雑用の時間を減らし、じっくり考えるために使える時間を増やすぐらいであろう。
一方、御自分がホームランを狙って打てる長距離打者であると自任なさる方に対しては、筆者自身がそういうタイプでないのであまりいいアドバイスをさしあげることができない。とりあえず、自分と同じタイプの研究者を探してその人から助言をもらうことをお勧めしておく。
最後に、これは言わずもがなだが、「短/中距離打者タイプ」だからといって必ずしも学会の脇役に終始するとは限らない。実験手続きを間違えたところ思いもかけぬ結果が出てしまい、それを追いかけているうちにノーベル賞がとれてしまった、という類の例も案外よくある話である。
それでも不安が拭えない貴方のために↑
「それでもテーマを選ぶのが不安でたまらない」という方のために、いくつか気休めの口上を申し上げることにする。
同時に複数の相手とつきあえる↑
研究者と研究テーマの間には一夫一妻制度のような制約はないから、一人が複数のテーマを追っても非難されることはない。とはいえ、特に駆け出し段階であまり多くのテーマに手を出すのは危険なので、当面の主目標は決めた方がよいだろう。
相手は逃げない↑
人間と違って研究テーマは自分から逃げてしまうことがないので、キャッチセールスのように「今しかない!」と焦った気持ちでとびつく必要はない。
腕を磨いて再挑戦 ↑
一度はあきらめた高値の花のテーマでも、他の研究をやっているうちに研究能力をあげてから再挑戦してみると以前は思ってもみなかったような解決策がみつかることがある。
一芸は道に通ずる ↑
「狭いテーマに絞ってしまうと他の分野のことが全くわからなくなってしまう」という不安を持つ人もいるが、逆に一つのテーマを深く掘り下げると他の領域と地下水脈で繋がっていることがわかってくる。そうなればいやでも他の分野への視野も広げざるをえなくなる。逆にいうと、そういう深さのあるテーマを選ぶことにより、深い学識と広い視野をある程度両立させることも可能になるのである。
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