北米留学上級技術マニュアル - 留学生の将来設計
目次
- 進路を考える基本
- 卒業してから、就職を
- 卒業式
- アメリカでの就職
- 就職活動の常識
- 英文就活本の世界
- Resume/Vita (履歴書)の基本
- Cover letter(送り状)の基本
- Recommendation(推薦状)の基本
- Cold calling
- 応募書類をしっかり作らないといけない理由
- 就活スケジュール管理の超基本
- 民間企業−−外国人にもチャンスを 与える アメリカ企業
- 大学--publish or perishの世界
- 日本での 就職
- そのほかの国での 就職
- アメリカで さらに 勉強したいとき−−転校は 当たり前
- 母校を離れるにあたっての準備
- 海外の大学に就職したら
- 留学カウンセラーにならなかった理由
筆者が留学に先立って一番心配したのがコレ。何の係累もないのにいきなり単身異郷に渡り、卒業した後の生活の保証もこれまたないというのでは不安に感じるのが当たり前ともいえる。これも万能薬はないが、少しでも不安を軽減する方法を考えてみた。
進路を考える基本↑
菊子「 咲ちゃんも大地くんも、大切に生きてちょうだいね。私は若いとき、乱雑に生きたから、だから、だから、とてももったいないと思うのよ。あんたたちはそんな後悔してほしくないから。」(平成元年(西暦1989年)放映 NHKテレビ連続ドラマ『青春家族』より)
岐路は突然やってくる↑
長期にわたる留学中には、何度か将来に大きく影響するような重要な選択を迫られることがある。かくいう筆者も、そういう場面が数多くあった。次はほんの数例:
- 日本語科のTAと教育心理学科のRA(コンピューターラボの管理担当)と いう二つの仕事のオファーをもらってどちらを選ぶか迫られた時。この時は結局日本 語TAの方を選んだが、それが現職にもつながっているので今から考えても正しい選 択だったと思っている。
- ただし、その後数年間TAを勤めた後でCenter for the Study of ReadingからRA のお誘いがかかった時は、色々な経験を積むために思いきってRAをやってみるべき だったと後悔している。(夏の間だけRAをすることも可能だったのだが、その時は そういう知恵も働かなかった。)
- また、イリノイ大学から一学期間のフェローシップがもらえた(その期間はアシスタント をしないでも授業料を免除してもらえるうえ月々の生活費も支給される)ときも、今にして思えば思いきって半年ぐらいTAの仕事を離れ、どこか学内あるい は他所の提携校のラボで武者修行してくればよかった。(もっとも実際問題として、 フェローシップが決まったのがぎりぎりになってからだったので必要な下準備が間に 合わなかったという事情はあったのだが。)
- アリゾナ大学でLinguistics Summer Institute (LSI)があった夏のこと。アリゾナでは言語心理学の大家が目白押し で授業を出す予定で、筆者もそれを楽しみに参加するつもりでいた。ところがちょう どその年の夏、日本の某大学で日本語の夏期集中講座を教える仕事が転がり込んでき てしまった。行けば報酬はン十万円(税込み)。もちろん、日本での日本語教育関係 者にコネを作る絶好のチャンスでもある。履歴書にも「〜大学講師経験あり」と書ける。迷いに迷った挙句、アリゾナを袖にして日本に行くことにした。果たしてそれで よかったのか、いまだに確信がもてない。アリゾナで勉強した方がよかったかもしれ ない、という気がする一方では、アリゾナに行って後悔していたかもしれない、とも 思う。
- 最後に、一番まずかったと後悔しているのが、博士論文を書き終わらないまま一年契 約の中途半端なポジションに就職してしまったこと。その結果、その職場の仕事が異 常に忙しくて地獄の苦しみになってしまい、論文の完成がさらに遅れたことから次の 年度にテニュア=トラックの仕事を探す上でも不利になってしまった。
- 結局、辛うじてオファーをくれた大学にその次の年度から就職したが、この時は思いきって母校イリノイ大学にもどり、もう一年充電した上で再起を期すべきだった、という気が今でもしている。(六月には既に博士論文の口頭試問を終えてしまっていたのだが、最終稿さえ提出しなければ「学生」の身分を保ったままもう一年居座ることが可能だった。)
ふりかえってみると、後悔していることの方が多い。ことにあたって的確な判断ができなかったのも 元をただせば、いざという時のものごとの優先順位をはっきりさせておく努力を普段から怠っていたからでもあろう。また、こういう時に相談で きる信頼できる友人/先輩や情報源多数を確保しておくのも大切だ。 「優先順位をはっきりさせる」ためには、やはり普段から先輩と親しくなってどういう状況でどういう選択が必要になるかの実例を多く収集し、自分ならどうするかを普段から考えておくのが役に立つと思う。たとえその事例がそのままでくり返されることはなくとも、優先順位と対策を深く考えていればいろいろな局面に応用がきくものである。
特に、ことを始めるにあたって展開を読む場合、「いくら悪くてもこのぐらいはいけるだろう。」という状況よりさらに悪い展開を想定して、一応の心づもりだけはしておいた方がいい。「その時は首を吊ればいい。」と言って開き直ったつもりになっている人もいるが、実際にその場に及んで慫慂と首が吊れる人はほとんどいないものである。そんな時土壇場でじたばたして見苦しいところを見せたくなければ、最悪の事態の対処だけは考えておきたい。
また逆に、「いくらうまくいってもせいぜいこんなもんだろう。」というよりもう一段うまくいってしまった場合も一応考えておこう。禍福はあざなえる縄の如し、成功は失敗の母である。緒戦で予想をはるかに上回る大勝を収めたばかりに思わず戦線を限界以上に拡張してしまったという戦略的無定見がその後の惨敗につながったのは、太平洋戦争の日本海軍だけではない。かといって、なんでもかんでも「石橋を叩いて渡る」で消極策をとればうまくいくというものでもない。真珠湾攻撃の時は、湾内の米軍の戦艦を沈めた後でさらに徹底して港湾施設まで破壊しておかなかった戦術的不徹底がその後の米海軍の急速な立ち直りにつながった、という見方で戦史研究家は一致している。戦略的無謀と戦術的不徹底というこの両極端の事例に共通しているのは、「予想以上の成功」を収めた場合のシナリオをあらかじめ準備していなかったことである。
重要な岐路はしばしば突然やってくる。そして、数週間ないし数日間、場合によってはその場で決断をくださねばならないことすらある。「まだ遠い先の話さ」と悠長に考えて心構えができていなかった人を、運命は待ってくれない。そんな時に後悔しないよう、普段からの準備を心掛けたいものである。
周到・柔軟な計画を−−計画は変更するためにある(?)↑
どんなに慎重に計画を練ったつもりでも、長丁場の留学暮しを、一から十まで当初の目論見のまま乗り切れることはむしろまれである。必ずどこかで計画修正を迫られることがあると思っておいた方がいい。むしろそれだからこそ、最初にしっかり様々な選択肢を検討し、その優先順位や選択基準も考えておいた方がいいのである。計画というのは自分を縛るためのものではなく、行動決定の補助となる手段なのであるから。可能であるなら二兎を追うこともよいが、何かの事情で目的を一つに絞る必要が生じた時、何を捨てて何を最後まで残すかという戦略目標が明確でないと、戦技戦術のレベルでは挽回できないような窮地に陥ることが往々にしてある。
溺れかけた時の心得↑
池で溺れかけた時、何とか水に浮こうともがくと余計に水をのみ体力を消耗する。こういう時は覚悟を決めて一度沈んでしまい、水底を蹴って浮かび上がる方がよいことがあるらしい。キャリア選択も、「どう足掻いても今年はダメだ」という状況になったら思い切って一度「沈んで」しまう覚悟を決めた方が結局はいい結果に結びつくことが往々にしてある。(「沈む」というのが状況によっては「修了を一年延ばす」ことであったり、「一度日本に帰り、資金を貯めてから復学する」であったりしよう。)
大学への就職は風まかせ↑
大学院の入学願書なら早くから行きたい大学を徹底的に研究してそれに会わせた勉強をし、完璧な応募書類を出して第一志望校に進むことも努力次第で不可能ではなかろう。複数の大学から合格通知をもらった後、どれを選ぶか考える時間の余裕もかなりある。
ところが、こと北米の大学に就職するとなると、一番行きたい大学がその年に募集を出すとは限らない。運よく審査に通過して先方から「うちに来てください」(job offer)と言われると、大体2週間以内には返事をするよう要求される。Job offerを出す時期自体が大学によってまちまちなので、場合によってはある大学に「行きます」と返事をしてしまい、そのあとでもっといい大学からもらったofferを断わらないといけなくなる場合すらある。
もっとも、offerに対する回答時期はある程度延ばしてもらえることもあるが、いずれにせよ“最後まで待って申し込んだ全ての大学から返事をもらった上で、一番いいところをえらぶ”というような贅沢はなかなか許されない。七人の貴公子から同時に言い寄られる「かぐや姫」のような冥利はめったに味わえないのである。
結局、大学教官としての就職はかなりの程度偶然に左右されることを覚悟しておき、どんな大学に就職したにしてもそこで有意義で楽しい生活を送れるよう柔軟な生活/研究技術と姿勢を日頃から身につけておくにこしたことはない。行った先々で活用できるリソース(施設;器材;同僚;基金;などなど)を徹底的に調べあげ、それをどう活用するか常に最適の作戦を練る頭の柔らかさも望まれる。
実際、「絶対research universityに就職して朝から晩までばりばり研究するゾ!」と意気込んでいた人がめぐりあわせでliberal-arts collegeに就職してしまい、行ってみたらその家族的な雰囲気が結構気にいってそこでユニークな研究をなしとげた、なんて事例もある。
こういう時に柔軟な戦略がたてられるようにするためには、学生のころから色々な職場環境の情報を仕入れておくといいと思う。一番手っ取り早いのが、学会の席で既に就職している先輩から話を聞くことである。こういう場合、大抵は愚痴を聞かされることになるが、それが大事な情報なのだから真剣に聞いてあげよう。そうすればどんどん重要な情報をしゃべってくれる。なお、適当な知り合いがいなければ、アドバイザーに相談して人を紹介してもらうとよい。
上のように書いたからといって、「offerをくれた大学のどれかに必ず就職しないといけない。」と言っているわけではもちろんない。どうしても妥協できない点で最低条件を下回っており、negotiationしても改善の見込みがなければ、お断りするのがお互いにとり長い目でみて得策だろう。何が妥協でき、何ができないかをはっきりさせるためにも、あらかじめ先輩の苦労話をきくなどして事情に通じておく必要があるのである。これがはっきりしていないと、ずるずると相手のペースにはまって最悪の条件で就職させられてしまうこともありうる。
最悪の事態、その年はどこの大学からもofferがもらえなかった(あるいは、とても受諾できる条件でなかった)場合、母校にもう一年居残る覚悟をしておいた方がいいかもしれない。その時に備えて、学位論文をしあげた後も学生として大学に残ることが可能かどうかを調べておこう。こういう準備と覚悟があると、negotiationにも余裕をもって臨むことができる。
もしもう一年大学に残ることになったら、翌年度は就職活動に精力を傾注すべきことはいうまでもない。Defenseを終えたPhD in handの方がまだ済ませていないABDよりも就職活動で有利なのは当然である。それとともに、博士論文の成果を一刻も早く雑誌等に発表して業績を築くべきである。
卒業してから、就職を↑
筆者は必要単位だけ揃えたあと、博士論文を残したまま1991年の秋に就職したのであるが、その後論文審査を終える1992年夏まではまさに地獄の一年であった。一旦就職してしまうと、思いもかけぬ野暮用に時間をとられたりして、論文を書いている余裕などなかなかない。論文完成のために使えるのが週1日だとすると、一日無駄な作業に費やすことは一週間の遅れを意味する。指導教官に頻繁に会えないのも不利である。母校のコンピューターにアクセスするのも簡単にはできない。(あてにしていたテルネットが使えなかったので、やむをえずデータ処理のために長時間にわたりモデム接続して、電話代を何百ドルもとられた。1990年代初頭のこと。今ならこんな原始的なことは必要ない。)
それに、PhD in handの方が仕事を探す上でも絶対有利である。ABDのままだと、たとえ口には出さなくとも「こいつは、本当に学位を終えられるのだろうか?」という懸念を常に周囲が抱き続ける。経済的になんとかなるなら、論文を仕上げてから就職なさることを強くお勧めしたい。「フルタイム経験ありのPhD in hand」が一番有利なのはいうまでもないが、もしtenure-track positionをめぐって「通年フルタイム教授経験なしのPhD in hand」と「通年フルタイム経験ありのABD」の争いになったら、やはり前者の方が有利なケースが多いといえる。
ABDで就職する人へのアドバイス↑
ただし、余程条件のいい仕事が見つかった、というのなら多少無理をする値うちもあろう。もしどうしても就職したいなら、adviserに事情を話して、着任までに論文が終えられるよう計画を練られたい。著しく論文の質が落ちてしまって後でとても人目にさらせない、というのでは困るが、多少は「安い手」になっても早くあがっておく方が人生すごろく全体の長い目で見て得な場合もある。そういう場合には、多少荒削りな箇所が残っているのに目をつぶってでも早く卒業させてくれる太っ腹なadviserもいるものである。これが無理なようなら、着任時期を一学期間延ばしてもらえないか、交渉してみてもよかろう。
万が一、論文を仕上げずに母校を離れないといけなくなった場合、この後どういう作業をすれば論文審査に通してもらえるか、こと細かくadviserとうちあわせておかれたい。母校と新しい勤務先が距離的に遠く離れていて頻繁に帰ってこられない場合はなおさらである。今後の作業の詳細について、項目だてをしてメモをとりかわしておくと安心である。やることがはっきり決まっていさえすれば、毎週少しずつでも先に進めていくことができるものである。母校を離れてしまった後で、adviserがわけのわからない要求をしてきてどうしたらいいかわからない、というのが最悪のケースで、こういう事態になることだけは絶対に避けないといけない。
データ分析にコンピューターを使うなら、どういう形で手持ちのデータを持ち運ぶか、赴任先に必要なシステムがあるか、母校のシステムを使わないといけない場合、どうやってアクセスするか、なども赴任前にきちんとつめておかないと後で泣きをみる。
なお、アメリカの高等教育界で生き残ろうと思ったら、学位を終わらないと一生下積みに終わる可能性が高いが、日本やオーストラリアへ行けば博士号のない教授が一杯いるので、博士課程中退というのが致命的なハンディになるとは限らない。現に、学位論文を残したまま日本の大学に就職してそのままになった方もおられるが、指導教官のご機嫌をとるために意に染まない論文を延々と書いているよりは、はやく自分の研究室を手に入れて、そこで納得のいく研究を始める方が有効な時間の使い方になる場合もあるかもしれない。このあたりは学問分野によっても事情が異なるようなので、読者がそれぞれご研究いただきたい。
就職後の博士論文執筆↑
先にも書いたとおり、博士論文を仕上げないままで就職してしまうとその後ついつい執筆がとどこおりがちになる。夜遅く疲れて部屋に帰ってきてから頭を切り替え、論文にとりかかるのは想像以上に大変な意志力と集中力を必要とするものである。意志力を強くするには座禅の修行でも積んでもらうしかないかもしれないが、少しでも研究にとりかかる「心の敷居」を低くするために筆者が励行していた方法は、自宅のコンピューターをつけっぱなしにして、常時論文関連のファイルを画面上に出しておくことである。こうしておけば、帰宅後ご飯が炊けるまでのちょっとした時間にでもコンピューターの前にすわって、何やらやってみようかという気にもなる。「使いもしないコンピューターにただ電気を流しておくのは資源の無駄使いだ」とお考えなら、使わない間スリープモードにしておくと電気代がかなり節約できる。
BOINC のコマーシャルです↑
それでもまだもったいないとお考えなら、この機会にSETIプロジェクトにご参加いただきたい。世界中のパソコンの空時間を利用して、宇宙から届いた電波情報を解析し地球外文明を探し当てようという壮大かつユカイな計画である。このソフト(無料)をインストールすると、コンピューターを使っていない時だけ自動的にデータの処理が進み、その間は画面上に固有のグラフィック動画が映し出される。(つまり一種のスクリーンセイバーになる。)最初にもらったデータの処理が終れば結果をインターネット経由で返送し、次のデータをもらう。いってみれば、インターネットを介して世界中のPCを結び、並列計算の原理によりバーチャルな巨大スーパーコンピューターにしてしまうのである。宇宙からの情報が自宅のパソコンでこうやって刻一刻と分析されていると考えるだけでも楽しい。ただし、このソフトを走らせるためには何十メガもの空きメモリー容量が必要である。(ソフトそのものは1メガ以下の小さなものである。)筆者の紹介だけだとうさんくさいと思われかねないので、Jody Forsterが主演した映画「コンタクト」の原作者・故Carl Sagan物理学博士もこの計画の熱心な推進者の一人であったことを付記しておく。
ネットワークコンピューティングのためのBerkeley Open Infrastructure for Network Computing (BOINC)
http://boinc.oocp.org/indexj.php
その他、PCの空き時間を使って癌の新薬開発や遺伝子情報の解析など様々なプロジェクトが進められているらしい。もっとも筆者の場合、こういう直接に「世のため人のため」になる(そしてそれに伴って金になる)プロジェクトが成功の暁にはその利益配分はどうなるのだろうか、というようなことが気になってしまう。筆者のコンピューターを使った計算結果からアメリカの製薬会社が画期的な特許を取得し、日本の製薬会社が(つまりは日本人の患者が)その後延々と特許料を払わされるとしたら、正直言って癪である。
百億分の一ぐらいの確率で厚生労働省や非営利機関の医事研究専門家がこのページをご覧になる機会があれば、こういう理由で二の足を踏んでいるユーザーが少なくとも約一名いることをご承知おきいただきたい。どこか信頼のおける機関・研究者が主宰し、ボランティア参加による解析結果は無償で世界に広く公開し革新的な医療技術の研究開発に自由に活用できるような仕組みができれば、筆者も喜んで参加するのだが。(もしそういう仕組みが既に存在しているのに筆者が知らないだけであれば―その可能性はかなり高い?―情報をご提供いただけたらこのコーナーで紹介します。)
閑話休題。落雷多発地域で留守中コンピューターをつけておくわけにいかないとかいう場合は、スイッチを入れると自動的に論文関連のファイルが開くように設定しておくとよかろう。そして帰宅したら、何はともあれコンピューターのスイッチをいれてしまう習慣をつけると、その後は意外に手が勝手に動いてくれたりするものである。
卒業式↑
万事カジュアルが好きなアメリカ人も、卒業式だけは日本以上の厳粛さでとりおこなう。中世さながらのガウンを着用して一人一人卒業証書をわたしてもらう儀式は、いまだに廃れることなく連綿と続いている。(ガウンを着ないことには、そもそも卒業生として式に列席することを許されない。まかりまちがっても鎧兜だの水着だのを着用しているのが表に見える格好で出席してはいけない。)
晴れの卒業式には家族を招待する学生も珍しくないが、既に別の土地の大学に就職していた筆者は卒業式に出席しなかったので詳しいことはわからない。とにかく、卒業式の前後は大学近辺の宿泊施設が混みあい、特に田舎街ではパンク状態になる。そのことを頭に入れ、式に出席なさる方は早目に手配をなさった方がいいだろう。卒業式の前後には大学近辺の交通も混雑する。
さて、卒業式に着用するガウン・ケープ・学帽だが、実は学士/修士/博士というレベルに応じて、また大学によってそれぞれデザインが異なる。とはいえ、学士や修士レベルのガウンは卒業後に着る機会がほとんどないから、わざわざ買わなくてもレンタルで安く済ますことが可能である。
一方、博士号をとって北米圏の大学に就職すると、あらたまった大学の行事の際にはガウンを着用することが求められる。自ら母校の歩く広告塔として「〜大学の卒業生ここにあり!」というところを見せたいなら、卒業の折りにでも奮発して自分のものを購入しておくのも悪くなかろう。値段は数百ドルというところで、記念品としては気が利いている。
なお、自前のガウンを持っている教授は大抵はふだんそれを自分のオフィスにおいているようである。大学以外では着る機会がないものだから、当然とも言える。
卒業式に出ない人は↑
卒業式に出られないなら、忘れずに大学に頼んで卒業証書を送ってもらおう。そのまま北米で就職するなら卒業証書の提示が必要になることはあまりないが、もし日本で 仕事を探すつもりなら、遅かれ早かれ「学歴を証明する書類」の提出を求められるか らである。そういう場合、証書のコピーを送るのが手っ取り早いことは言うまでもな い。なにしろ、就職関連の書類は2ヵ月前後の短期間で揃えないといけないことがしばし ばある。その時になって慌てて書類を集めはじめるのではなく予め準備をしておくの が、「卒業後まで見通した」留学プロの戦略というものである。
いっぽう大学の側からみると、卒業証書をうかつに捨てるわけにはいかないから、何年もとりに来ない学生がいるとオフィスに余計な書類がたまって迷惑なのである。卒業証書は大抵分厚いカバーに入っているから、10枚もあるとかなりのスペースを塞いでしまう。
アメリカでの就職↑
就職活動の常識↑
英文就活本の世界↑
少し大きな本屋に行くと就活関係の本がずらりと並んでいるコーナーがある。筆者が参考にしたものを中心に何冊かご紹介するが、必ずしもこれらがベストな選択というわけではないし、これら全部に目を通す必要があると言っているわけでもない。
総合解説書↑
主に初心者向けに、就活全体をカバーした本が出ている。
次に、各段階ごとに詳しく説明した本を挙げる。
Resume(履歴書)↑
Cover letter (送り状)↑
Job interview(面接試験)↑
Follow-up↑
他に、面接後の礼状(thank-you note)などに特化した本もある。
就活本と大学への就職↑
いずれにせよ、この種の本のほとんどはビジネス界への就職を念頭に書かれている。もちろんアカデミック界の就職を目指す方にも参考にはなるが、そのままでは使えない部分もある。大学関係の就職に特化した就活資料は、学会が発行しているものもある。(「留学関連文献解題」を参照。)
Resume/Vita (履歴書)の基本↑
Resumeとvita↑
Resumeというのは、ビジネスマンなどが就職活動に使う、1〜2ページ程度の短い履歴書のこと。これに対し、より専門性の高い職種では履歴書が何ページにも及ぶことがある。こういうものをvitaまたはcurriculum vita(c.v.)とよぶ。大学専任教員の職を探すなら、当然vitaを提出することになる。
余談ながら、ゼミなどの配布資料を「レジュメ」と呼ぶのは日本独特の慣習で、英語圏ではhandoutといわないと通じない。
履歴書の基本パターン↑
いずれにせよ、日本と違って所定の履歴書用紙のようなものはないので、書き方は本人が自由に選んでよい。逆に言えば、履歴書の書き方により「何をアピールしたいのか」を採用側に伝えることが必要になる。
もっとも一般的なのは学歴や職歴を時系列順にならべる
- Chronological resume/vita
- chronological(古い情報から新しい情報へと並べる)
- counter-chronological(新しい情報を一番上に書く)
である。このやり方だと、いつからいつまで何をしていたのかが一目瞭然だが、専門が多岐にわたる場合、結局どういう分野でどういうトレーニングや経験を積んで来たのかが却ってわかりにくくなることもある。また、転職・転業を頻繁にしている人はそれを強調するような履歴書を出してマイナスイメージを与えたくないと考えるかもしれない。こういう場合によく用いられるのが、職務経験などを領域別にまとめた
- Functional resume/vita
である。たとえば、「コンピューターSE」「経営コンサルタント」「通訳・翻訳」など専門分野ごとに経歴や技能を整理して書く。
Chronological resume/vitaとfunctional resume/vitaを折衷したものもあり、これを
- Combination resume/vita
とよぶ。専門分野ごとに時系列順に職務経験を記したようなものがこれに相当する。
筆者の場合はChronologicalとCombinationを併用し、教歴においては初級・中級・上級の全ての日本語クラスの教授経験があることを印象づけるためにレベルごとに機関名・使用教科書や担当職務などを整理して書いていた。北米では大学院を出たてのnew PhDあるいはABDで日本語上級クラスの担当経験がある人は少ないので、これは結構インパクトがあったようである。(他のことが原因でよく落とされたが。)逆に将来こういう履歴書をひっさげて就活に臨むことが念頭にあれば、それに相応しい経歴が積めるよう学生時代から計画的に仕事や研究活動を選ぶことができる。
強調したいことを目立つ位置に↑
視覚的に目立つ位置とは、
- 最初のページ
- ページの上側
- ページの左側
である。したがって、これらの位置に重要な(=採用側に注目してほしい)情報を書くのが原則である。Research universityに就職を目指すなら、研究業績(採用側が最も重視する)を前半に入れた方が目に留まりやすいのは当然である。時系列順に情報を並べるなら、chronologicalよりはcounter-chronologicalの方がアピールしやすい。また、同じ項目が中途半端にページをまたぐのはできるだけ避けた方がいいだろう。
履歴書が長大なものになる場合、全体の要約(たとえば「〜学の博士号」「学術誌に単著〜本」「〜の研究方法に精通」など)を1ページ目に記載しておくなどの工夫も考えられる。
もっとも、圧倒的な名声と実績を誇る大学者なら、こんな細かいことは気にせず淡々と事績を書き連ねた履歴書が女王の風格を醸し出すこともあるのだが、その域に達しないならせめて見てくれだけでもよくするよう工夫しよう。寝起きの素顔を人目に晒す自信がなければ、外出する前にお肌のお手入れぐらいはしておきたいものである。
Cover letter(送り状)の基本↑
仕事に応募するには最低限履歴書に添えてcover letterを同封する必要がある。(その他、推薦状など必要な書類を募集側が指定する。)Cover letterの書き方については本がいろいろ出ている。数冊に目を通した限りではどれもそんなに大きな差はないようので、先輩の使ったcover letter formatを参考に作文したうえ、所属大学の就職担当相談員に文案をみせてチェックしてもらえば、大きな間違いはないだろう。
ただし、次のYateの本の旧版(新版は未確認)に載っていた"Executive briefing"というスタイル(下記の文例の"Your Requirements/My Experiences"以下の対比表の部分)は他の本には掲載されていないようなので、ここでご紹介しておく。他にもいろいろな就活本等から使えそうなフレーズを借用して作ったのが以下の文案である。
Dear Professor ... :
Several things you said in your ad for the Japanese language assistant professor position suggest you may be searching for somenone with my experience and background. I learned of the position from ... Currently I am ...
I share with you a very strong commitment to the quality and accountability of foreign language education. As you will see in the enclosed professional statements and vita, I have spent my postgraduate academic years preparing to be a professional of foreign language teaching and second language acquisition research. I meet your needs in the following areas:
| Your Requirements | My Experiences |
| ●Earned PhD | ●PhD specializing in Japanese language acquisition |
| ●Interest in language and culture | ●Specialization in second language acquisition |
| ●Participated in a team-teaching course of Japanese culture | |
| ●Commitment to proficiency-based teaching | ●Established task-centered curricula |
| ●Developed new Japanese language courses, teaching plans, course materials, and oral/written examinations | |
| ●Expertise in instructional technology | ●Supervised a multimedia language lab |
| ●Conducted a CAI development project | |
| ●Promoted Internet exchange projects | |
| ●Fluency in English | ●12 years' residence in English-speaking countries |
| ●Fluency in Japanese | ●Native Japanese speaker |
I am willing to offer my heart and soul into furthering the strength of your program and the high reputation which it carries. I believe that my academic training, teaching experience, enthusiasm for both teaching and research, and willingness to assist younger teachers in developing their abilities and careers as language instructors can help me to make a visible contribution to your institution in that regard.
Your consideration of my candidacy would be sincerely appreciated.
P.S.
I will be available for an interview at...
このように対比表にして「アンタ達が求めている条件(募集要項に書いてある応募資格)は全て満たしているんだから、アタシを候補に入れないわけにはいかないでしょ!」と迫るのは、かなりパンチが利くように思う。ただし、相手が提示している条件(qualifications)を満たしていないがそれでも応募したい場合には(←実際、それでも採用される場合が稀にある)、こういう書き方をしても得にならないだろう。
この文例ではそれ以外の文章表現も終始「読み手の目線にあわせる」ように努めているのがおわかりいただけると思う。(ここは、機能主義心理言語学の応用になっているつもりである。)総じてかなり気合いの入った文面になっているので、「これではやり過ぎ」と感じる方は目的にあわせ調整していただきたい。
なお、応募する職名を明記するのは("your ad for the Japanese language assistant professor position...")、それ以外の職位の公募もしていたり、途中で方針が変わって違う職位での募集に切り替える可能性がゼロではないので、混乱を防ぐためである。ただし、募集はassistant professorレベルだが貴方が既に他大学でテニュアを得ていてassociate professorでの就職を狙いたいような場合、わざと職位をぼかして"for the permanent position..."と書くという高等戦術もある。
また、「どこで求人情報を得たか」を明記するのは("I learned of the position from ...")、求人側としては広告媒体の効果を知りたいものなのでそれに協力しているわけである。「現在何をしているか」("Currently I am ...")は履歴書を調べればわかるはずだが、送り状の最初に書いておいてもらえた方が読み手はラクである。
末尾の"I will be available for an interview at..."というのは、学会などで面接を受ける用意があることを示すものである。候補が学会に出席する「ついでに」面接を受けたいと希望しているなら、雇用者側は候補の旅費を負担しなくてもその人物が見られるわけだから、興味があれば会ってくれることがよくある。ここでアピールして、決勝戦たるon-site interviewに進むことを狙うわけである。したがって当然ながら、雇用者側が出席しそうな学会(日本語教師ならAmerican Council on the Teaching of Foreign Languages(ACTFL)やAssociation for Asian Studies (AAS))を挙げないと意味がない。
最後に、借用させていただいた表現の出典を以下に記しておく。
"Several things you said in your ad for (titlle of position) suggest you may be searching for somenone with my experience and background."
出典: Wynett, Stanley. (1989). Cover letters that will get you the job you want. Better Way Books: Cincinatti. p.14
"I share with you a very strong commitment to the quality and accountability of foreign language education."
畏友Lester Loschkyが添削してくれた文案をほぼそのまま使わせてもらった。
"As you will see in the enclosed professional statements and vita, I have spent my postgraduate academic years preparing to be a professional of foreign language teaching and second language acquisition research."
同上
"I am willing to offer my heart and soul into furthering the strength of your program and the high reputation which it carries."
同上
"I believe that my academic training, teaching experience, enthusiasm for both teaching and research, and willingness to assist younger teachers in developing their abilities and careers as language instructors can help me to make a visible contribution to your institution in that regard."
同上
Recommendation(推薦状)の基本↑
北米英語圏における推薦状についてはこれまでも「出願手続きの基本」「応募書類準備の実際」「Teaching assistantの生活と技術」「教授、スタッフとの関係」などの章で説明してきた。ここでは、特に就職にまつわる推薦状に特化した事項をとりあげる。
推薦状パッケージ↑
就職サポートのしっかりした大学だと、あらかじめ推薦人からの推薦状をとりそろえたファイルを大学が集約管理し、それをまとめて応募先に送ってくれるサービスがある。(手数料が必要。)応募するたびに毎回何人もの先生に推薦状を御願いし、期日までに送ってくれたか気を揉むだけでもかなりのストレスなので、こういうサービスがあると助かる。(一シーズンに50校に応募し、そのたびに3人の先生に推薦状を頼む手間を考えてみよう。)
しかも、集まった推薦状のうちどれとどれを送るか、選択させてくれる場合もある。通常、推薦状にどんなことが書いてあるか当人は知らないものだが、こういうサービスを利用すれば就職担当の係員が中身に目を通したうえ「これとこれには特にいいことを書いてくれているから選ぶべきだ」とアドバイスしてくれるのである。「ひょっとしたらあまり強い推薦文を書いてくれていないかもしれない」と不安に思う方には特に便利なシステムである。
ただし、親切な先生だと「応募先によって文面をアレンジしてやるから、こういうファイルを使わない方がいい」と言う人もいる。そういう先生からの推薦状は敢えてパッケージに入れず、個別に送ってもらうということも可能だろう。
推薦状の枚数↑
大抵の大学は3通の推薦状を送るよう要求するが、もう1〜2通余分に送ってもさほど奇異には感じられない。(さすがに10通も20通も送るのはやり過ぎである。)ただし、どれも同じようなありきたりの褒め言葉では意味が無い。それぞれ異なる角度から貴方がいかに素晴らしい候補者であるかを具体例つきで力説した推薦状を書いてもらえるよう、人を選んで頼もう。
同僚・生徒に推薦状をもらう↑
推薦状は指導教員やそれに近い立場の師匠筋からもらうのが正攻法だが、教育能力に関して強い推薦状が欲しいというような場合、むしろ同僚TAとして貴方といっしょに仕事をしたことのある人の方が具体性のある証言をしてもらえることがある。たとえまだ学生でも、こういう人からの推薦状を4通目に加えるとパンチが利くだろう。(その人が既に専任職を得ていればさらに信頼性が増す。)
また、北米の大学では大学教授が研究上の必要に迫られて(あるいは趣味で)外国語の授業を受講する場合も結構よくある。もし貴方がTAとしてその教授を教えたことがあるなら、その人に推薦状を頼むという裏技もありうる。某学科の正教授が「彼女/彼が素晴らしい教師であることを、私は生徒として身をもって体験した。」と書いてくれれば、審査する方は注目せざるをえまい。
Cold calling↑
Assistant professor以上の大学教員の職を埋めるにあたって公募広告が出ないことはほとんどないから広告が出るのを待って応募するしかないが、Post-doctoral fellowなら旧知の研究者の弟子を紹介してもらうなどのインフォーマルな経路で人を選ぶことがある。したがって、「そういうコネはないけれどあの先生のもとで研究してみたい」と思うなら先手を売って自分を売り込む手紙を相手に送るという作戦もありうる。こういうやりかた(cold calling)については、ビジネス関係の就活本に説明がある。
残念ながら筆者は成功経験が全くないので有益なヒントが差しあげられないが、公募以上に流動的なポジションなので、相手から反応があったら間髪を入れず返事をし、できれば面接のアポをとってしまうのが次に進むステップとして重要だろう。それで落とされても、「憧れの〜先生」に面接してもらって人脈が広がったとポジティブに考えよう。
応募書類をしっかり作らないといけない理由↑
みやすく整った書類を作った方が自分の研究実績や教育能力をアピールしやすいのはもちろんである。ことに書類審査にあたる選考委員会の教員は他にも仕事をたくさん抱えているので、中身はよくてもみづらい書類だと読む気がしなくなってしまう。視覚的にも読む気を起こさせる書類作りを心がけるに越したことはない。
さらに、ビジネスでもアカデミックでも事務書類作りはかなり重要な職務の一部なので、あんまり誤字脱字が多かったり不細工でみにくい書類を提出してくるようだと、それだけで「こいつは使えない」という印象を相手に与えてしまうのである。たとえリサーチ優先の仕事であっても報告書類づくりなどはついてまわるので、そこにダメな奴が入ってくると周囲に迷惑をかける。できればそういう人と一緒に仕事をしたくないのは人情である。逆に書類を通じて説得力のあるプレゼンテーションをすることに長けているなら、様々な資金を獲得して部署や機関に貢献することも期待できる。応募書類作りは「研究/開発/営業…だけでなく、書類作成も完璧にデキるヤツ」というイメージを与えるチャンスなのである。
そういうと、「就活の時は誰でも特別に頑張っていい応募書類を作るから、その出来映えだけで平素の書類作成能力を正確に推定することはできない」という反論が出そうである。確かにそういう面もあるだろうが、応募書類ですらヒドい出来のものを平気で送ってくるヤツがいることも事実である。
http://jibun.atmarkit.co.jp/lcareer01/rensai/e_resume01/e_resume01.html
就活スケジュール管理の超基本↑
就職活動をはじめたら、まずは表計算ソフトでスケジュール管理のファイルを作ろう。各応募先ごとに「募集要項掲載」「応募書類発送」「推薦状発送依頼」「先方よりコンタクト」「面接」「内定通知」「正式なオファーの到着」「諾否の回答期限」など時系列順に日付を記入していけば、うっかりして書類を送り忘れるなどの失敗も防げる。1シーズンを通じて就活のスケジュールの記録が残っていれば、何年か後で再び仕事を探す際にも作戦がたてやすくなるだろう。過去の経験に照らし「この時期にオファーがなくてもまだ焦らなくていい」とか「そろそろ手を打つ時期」とかいう勝負勘も働くようになる。
さらに、将来貴方が学生の就職活動にアドバイスをする立場に立った時も、こういう振り返りの材料となる記録を残しておくことは大いにプラスになるだろう。実際、振り返りの無い単なる経験は、意外に上達に結びつきにくいものである。
民間企業−−外国人にもチャンスを 与える アメリカ企業↑
アメリカ企業では外国人の重役も珍しくない。現地で採用されればアメリカ人と同じ土俵の上で業績や出世競争ができるあたり、原田泰さんのことばの通りアメリカ帝国主義は太っ腹である。
大学--publish or perishの世界↑
北米の有名大学は研究業績第一主義で、名の通った学術雑誌に論文を何本掲載したかでtenureがとれるかどうかが左右される。博士号をとったあとすぐ、なまじIvy League校などの一流研究大学に就職してしまうと、そのあとpublicationのプレッシャーで疲れはててしまう人も多いと聞く。むしろ、少しランクの下がる大学で確実にtenureをもらった後で、よりランクの高い大学にassociate professor として移る方が安全策とも言われる。詳しくはFeibelman の"A PhD is not Enough"を参照されたい。
老いを迎えたい街↑
筆者が毎週のようにアメリカの大学に招かれて採用面接を受けていたころのこと。就職先である大学のリソースや人間関係はもちろん最重要の要因であるが、それに加えて大学がおかれている街の印象も気になるところであった。仮に三十代のなかばで大学関係の職につくとすると、もし順調にテニュアがとれ他大学に移ることもしなければ、ことによると引退するまでその街で生を送ることになるかもしれない。「老いを迎えるならこの街で」と思えるような土地で就職できれば幸せだと思うのだが、読者はどう思われるであろうか?
インターネットで職探し↑
欧米の大学はインターネット利用が進んでいて、主要な求人情報はインターネットでカバーされる場合が多い。印刷されたNewsletterが郵送されてくるよりも情報が早いぐらいである。就職探しを始めたら、週一回はこれらの情報源をワッチしておかれたい。
採用審査の仕組み↑
欠員が生じたり新しいポジションができたりして人を雇うことになったら、まずその学科所属の教員を中心にして選考委員会(selection committee)が結成される。(他学科からも1〜2名参加する場合がある。)この人達がまず応募書類に目を通し、誰を面接に呼ぶかという選定作業をおこなう。「面接にきてほしい」などという連絡は、この委員会の委員長あるいはその人をサポートする事務局員(secretary)からくる。
いざ面接となったら、この選考委員会の面々に対し貴方を雇うことのメリットを納得させるのが最重要である。そのため、委員会のメンバーには必ず会わされる。
面接が終わったあと、「誰を雇うか」という案を委員会がまとめ、それを学部長(Dean)に上申し、正式決定を仰ぐ。給与待遇を判断するのはDeanなので、書類上はDeanの裁可が必要なのである。ただし、Deanに上申した案が覆されることはほとんどないので、委員会としての結論が出た時点で「内定しました」と教えてくれる場合が多い。
なお、最初に何人の候補を面接するかを決めて順次招き、全員の面接が済んでから決定を下す場合と、意中の人物が決まった時点でオファーを出しそれ以上は候補を招かない場合とがある。前者の方が「正攻法」で最優秀の人材を選べそうだが、候補者にしてみれば面接のあと延々と待たされることになり迷惑に感じるケースもある。
返事は迅速に↑
「面接にきてほしい」「電話インタビューをしたい」などという連絡が入ったら、すぐに返事をして興味の有無を知らせよう。メールが届いたり留守番電話にメッセージが残っていたら、間髪を入れずに返事をした方がよい。日程に関しては「確認します」「調整します」と決定を後に延ばすことも可能だが、とにかく面接を受ける意思があることを伝えておかないと他に話が回ってしまって二度とチャンスは与えられない可能性もある。(審査委員も忙しいので、早く仕事を片付けたいのである。)
On-campus interview↑
就職面接は日曜帰還便↑
大学が面接のため自校キャンパスに招いてくれる(on-campus interview)場合、費用(旅費・宿泊費・食費)はたいてい先方負担である。ただし旅費を節約するため、「土曜の夜を過ごしたあと日曜日の便で帰ってくれ」と言われることが多い。ウイークデーに移動するのは金に余裕のあるビジネス客が多いのに対し、土曜の夜をまたぐ週末の国内便は私用客中心なので航空会社が割引料金を設定しており、余分に一泊分のホテル代を払ってもトータルでは安上がりになるからである。水曜日あるいは木曜日の午後に現地について日曜日の朝の便で帰ってくる、というのが典型的な就職面接(on-campus interview)日程である。
大学でのインタビューが金曜日の夕刻までに終わってしまうと、土曜日は一日ぽっかり空いてしまう。中には土曜日の夜、パーティーに招いてくれる先生もいるが(ただしこれも非公式の面接の一環なので、言動には気をつけよう)、そういう予定も入っていない場合は、一人で大学図書館に入ってみたり近隣の住宅事情をみてまわったりして就職後に備え、有効に時間を使うようにしよう。ただし「こんな大学に二度と来るか!」というような思いをしたなら、ホテルの部屋でせっせとパソコン相手に次の面接の作戦を練った方が得策かもしれない。
面接日が仕事とぶつかったら↑
大学での就職面接は週末にかかることが多いので週の後半、特に金曜日にはTeaching assistantなどの仕事を入れない方が自由に動けるのだが、どうしても予定がぶつかってしまった場合には仕事の日程を調整する他ない。その日の仕事は誰か他のTAにかわってもらい、そのかわり後でその人が教えるはずのコマを担当するというのがよくある対策である。(こういう事態に備え、お友達とは仲良くしておこう。)たまたまその日が中間テストにあたっていた場合、同じ時間帯にテストを実施するクラスのTAに頼んで2クラス合同でテストを実施する(つまり試験監督だけを他のTAに頼む)と、実害が少なくてすむ。逆にそういう調整ができる週にインタビューに呼んでもらうよう、先方に依頼するのも交渉術の一部である。
キャンパスマップとタウンマップ↑
最近では大学の構内地図ぐらいホームページから入手できるから、印刷して持参した方がいい。(現地にいけば支給してくれることが多いが。)
それとともに、大学街周辺の地図も印刷して持って行こう。空港からの送り迎えの道すがら、「アパートを借りるならこのあたりがいい。」とか「生鮮食料品はこのあたりが安い。」とか親切に説明してくれる人がよくいるが、位置関係が全くつかめていないと単に景色を眺めるだけで終わってしまいかねない。地図上で位置を確認した方が、情報を定着させやすいわけである。こういう用途ならあまり詳しい地図を用意する必要はなく、インターネットからダウンロードできるマップで充分である。
学生寮に泊まる↑
On-campus interview に呼ばれた場合、通常は先方の大学が高からず安からず(あるいは、高からず高からず)のホテルやモーテルを予約してくれる。(筆者の場合、学科長が自宅に泊めてくれたことも一度だけあった。)
しかしもし貴方がこの機会に学生生活の実態を見聞したいと思うなら、率直に理由を説明し学生寮の空き部屋に泊めてもらえるかどうかきいてみたらよいと思う。いくら何でも相部屋にされることはあるまい。(ただし、部屋に備え付けのテレビがない、シャワーが共用、週末の夜は結構騒がしいなどの条件が我慢できない方は避けられた方がよかろう。)いざ就職してしまうと学生寮に寝泊まりする機会など普通はまず無いから、これがまたとないチャンスだったりする。
できれば朝食も学生食堂でとろう。うまくいけば周囲に座っている学生から大学に関する率直な意見や情報が聞けるかもしれない。
大学側から候補者に対し「学生寮に泊まってくれ」と頼むのはさすがに失礼なので切り出しにくいが、候補者の方から話を持ち出す分には礼儀の点でも問題ない。それどころか本音では「経費が節約できた」と嬉しいはずだし、たとえ寮が満室であるなどの理由で断られたとしても、機嫌を損ねることはまずない。むしろ学生教育にかける貴方の意気込みを買ってくれるはずである。
会いたい相手の希望を出す↑
こちらから何も希望を出さなければ、on-site interviewの間に学科の教員および審査委員との面接のほか、図書館や関連施設を案内してくれるのが通例である。しかしもしこの機会にぜひこの人に会いたいとかこの施設を見たいとかいう希望があれば、できるだけ早い段階で遠慮なく先方に伝えるとよい。何万人規模の大学の学長に会いたいといってもなかなか希望は通らないが、他学科所属で自分の研究分野に近い教授に会いたい場合など、結構席を設けてくれたりするものである。こういう希望を出すことで、あなたが先方の大学のリソースをよく研究していることをアピールすることもできる。
研究発表↑
面接によばれたら、大抵は「研究に関するプレゼンテーションをしてくれ」と言われる。(それを要求しないなら、よほど研究を軽視していると考えてよい。)あなたが博士課程在学中なら「今書いている博士論文について話をしてくれ」と言われるのが慣例だが、これを真正直に受け取って学会発表のようなプレゼンをやると聴衆によっては全く受けないことがある。もし手持ちのネタがいくつかあるならそのうち相手校のニーズに一番合いそうなトピックを選ぶとともに、標題やイントロのしかたもTPOにふさわしいものを考えよう。
筆者がイリノイ大学に在学中、はじめて某大学から面接によばれておこなった博論研究のプレゼンは
"Form-function mapping of interlanguage Japanese sentence processing strategy"
というような、専門用語むきだしで教育との関連が全くわからない標題だったように記憶している。これを日本語プログラムのコーディネーター(世話役)を探している文学系の先生方の前で話したのだから先方はさぞ面食らわれたことだろうといたく反省している。
その後あちこちの大学に呼ばれては同じような失敗を重ねるうちに少しは知恵がついてきて、最後には
"Seeking a psycholinguistic basis for foreign language instructional system development: A cognitive-functional perspective"
というもっともらしい標題におちついた(ただし内容は、基本的には最初のプレゼンと同じ流れの研究である)。聴衆の中に居る可能性のある語学教師、心理学者、言語学者、教育学者すべてにアピールするステキなタイトルだと自負しているのであるが、いかがであろうか。ちなみに、賢明なる読者諸氏は既にお気づきと思うが、"Seeking..."としたのは「今探しているところです、答えが出せなくてもおこらないで」という逃げ文句のつもりである。
正直なところ、当該の研究分野に馴染みのない聴衆がプレゼンの内容を全て理解してくれるとは限らない。そういう場合でも、プレゼンの標題やイントロと終結部分の決め台詞は結構印象に残るものなので、そこで受けを狙うのも就職面接技術の一つである。人選について上申権を持つのは審査委員会なのでプレゼンの聴衆の意見がそのまま通るとは限らないが、逆に聴衆から総スカンを喰うような候補にofferを出すのは誰しもためらうものである。
次の本は採用面接の一環としての研究発表もカバーしていて参考になる。訳文にはところどころ首をかしげる言い回しもあるが(p.220「助言教員」はacademic adviserのこと?)、原書より安いという低価格は魅力である。
達人弁士に学ぶ↑
自分のresearch presentationが受けていない、と気づいたら。その場では臨機応変に対処するしかないが、自宅に帰ったら次のインタビューに備え、作戦を練り直す必要がある。ことに研究の内容に関する専門的な評価よりもむしろイントロのネタの振り方などがまずくて不評を買っているのだとしたら、自分と同じ分野でプレゼンがうまいと定評のある先生のトークを研究し、使えるアイデアはどんどん借用させてもらうとよい。
実はこういう準備は職探しをはじめてからするより、それ以前の段階で積んでおいた方がよろしかろう。許可を得てその先生のトークを録音させてもらい、構成のしかた、例のひきかた、ジョークの使い方など、じっくり研究しておくと英語の勉強と専門の勉強の両方でプラスになる。筆者の場合、同じ分野の先達であるElizabeth Batesという碩学の講演をはじめて聞いた時は、「オレと同じ分野の話をしながら、この人がしゃべるとなんでこんなに説得力があるのか」と感動した記憶がある。
どんな質問をされるか↑
Heppner, P. & Downing, N. による想定質問の一覧を次のページに載せておくので参照していただきたい。臨床心理学者の職探しを想定しているが、他の分野にも参考になる。
ついでにこちらもご紹介しておく。
いざ自分が就職面接を受ける番になった時は、どんな質問をされたか、どのように答えたか、記録を残しておこう。面接中に「メモをとってもいいですか?」といえば、大抵は「どうぞ」と言ってくれる。とはいっても質問に答えながらでは詳しいことは書けないので、後でできるだけ早い機会に記憶をたどりメモを完成させた方がよい。こうやって自分のパフォーマンスをモニターすることで、自分なりのインタビュースタイルを確立し大崩れしない戦い方を身につけることができる。
もし貴方が本番の就職面接を受けるようになるまでにまだ何年(あるいは何ヶ月)かの余裕を残しているなら、これらの質問にすらすら答えられることを目指すことで、今後のキャリア作りの指針が得られるだろう。
エラい人との面接↑
On-site interviewの間には、学部長(Dean)クラスあるいはそれ以上のエラい人と会わされることがよくある。ここで専門領域のことについて詳しい話が出ることはほとんどない。先方はあなたの「人物」を見たがっている(もっと端的にいえば、おかしな奴でないことを確認したい)と思えばよかろう。
こういう席でたとえば「地域コミュニティーに対する日本語教育に興味がありますか」というような質問が唐突に出されることがある。相手の意図がわからないままあいまいに「はい」と答えてしまうと引き受けたとみなされてしまい、翌秋その大学に就職した時にはさっそくそういう仕事を割り振られてしまうこともあるので、受け答えは慎重にした方がよい。
同じようなやりとりは、就職して学長室や学部長室で辞令をもらう(小規模の大学に多い)際にも起こりうる。こういう時にもうかつに「はい」と答えたばかりに思いがけない仕事を引き受けさせられることがあるので、やはり安請け合いはしない方が安全である。
ただし、その大学が力を入れているプロジェクトについて水を向けるなどすると、管理職クラスの人が大学の方針を詳しく説明してくれるような場合もある。ハイパーテキストの研究開発に力を入れている某大学でDean(歴史学者)の面接を筆者が受けた時は、一言そのことに触れると「待ってました」とばかり滔々とプロジェクトについて説明してくれた。この時は「人文系の学者でもテクノロジーに造詣の深い人はいるのだなあ」と感激したものである。
面接官に喧嘩を売られたら↑
大学が面接に招いてくれる場合、一応こちらはお客様だからそれなりに丁重に扱ってくれる。アカデミックなことがらではある程度議論になったとしても、礼儀に外れたような物言いはしないのが常識である。
ところが、中には丸っきりケンカ腰で候補者に喰ってかかる変な審査官もいる。こういう場合、審査委員会の内部であなたに対する評価が分かれており、何とかしてあなたを落としたいという気持ちからそういう暴挙に出ていることが多い。
こういう大学からjob offerをもらってしまった場合、
- その大学に就職する価値があるか
- 審査委員会の中の対立は解消されたのか
- 就職した後も 件の問題児と頻繁に接触する必要があるか
- その人物は学内で影響力を持っているか
など、いくつかの要因を考慮した上で決定をくだした方がよい。「類は友を呼ぶ」というとおり、そういうおかしな人間が採用され生き残れているような大学には、それに見合った気風がある可能性もある。返事をする前に経験のある先輩に相談する他、先方の大学に対し単刀直入に「私を採用することに反対した人はいませんでしたか」「〜先生はどういう意見でしたか?面接時の印象では、私をネガティブに評価しているように感じました」と聞いてみてもいいと思う。
そしてもしその大学に就職した場合は、おかしな奴とはなるべく接触しない方が安全である。避けようとしても避けられないようなポジション(たとえば学科主任)に相手がいる場合、そういう職場に就職することは非常に危険である。
一方、offerを断ってしまったならもう後腐れはない。いやなことはさっさと忘れて次に進むことを考えよう。
ただし、どうしても腹に据えかねる場合は、学部長(Dean)あてに「貴校の面接官から然々の無礼な扱いを受けた。面接の機会をいただいたことには感謝するが、このような礼儀をわきまえない人物のいる大学では仕事ができないので辞退する。誠に残念かつ心外である。」と抗議状を出しておけば、Deanは血相を変えてその教授を呼び出し「大学の体面を汚した」として叱責するだろう。さらにワサビを利かしたければ、CC欄に然るべき所轄官庁等の名称を書いておくと効果倍増である。採用面接時の不祥事は一歩間違えば訴訟沙汰になりかねないので、大学側としても神経を尖らせているのである。学科長に対し、「今後はこの教授を採用人事に参画させるな」と命じるかもしれない。
もしこういう抗議状を出すなら、offerをもらってからの方が効果的である。ただし、もらったofferを受けてその大学に就職してからこういう話を持ち出すと、今度は「新任教員と先任教員の諍い」という次元で片付けられてしまい、上層部が真剣にとりあげてくれることは期待できなくなる。それどころか、職場での貴方の立場が悪くなりかねない。結局、「もらったofferを断る時」が一番パンチが利くのである。
こうすればたしかに溜飲を下げることができるわけだが、その場合は逆にあなたが面接先とことを構えたという噂も学界に広がってしまう可能性があるので、絶対に許せない(このままおとなしく引き下がってはあとあとトラウマになりそうな、あるいは天人ともに許し難い極悪非道な)相手に対する奥の手と考えた方がよかろう。
それを承知で敢えて一戦交える覚悟なら、記憶が鮮明なうちに相手の不埒な言動を事細かく記録しておいた方がよい。具体例があると抗議状もぐっと説得力が増す。万が一本当に裁判沙汰になった時も、こういう証拠が物を言う。
さて、on-site interviewの時にこういう変な面接官に出会ったにも関わらず、翌秋からの固定収入に目がくらんで就職を決めてしまった人がいる。その人がその後どんな目にあったかを、事項でご紹介しよう。
ヘンな大学に就職してしまうと↑
ある大学にLecturer待遇で就職したABDは、同僚と廊下ですれ違うたびに当然の礼儀として"Hello!"と挨拶を交わしていたが、一人の先任教授にだけは何度挨拶しても返事がなく無視される。それだけならまだしも、学科の主任教授に対し「あの新任講師はオレに会っても挨拶しない」と正反対の中傷をされ、それを真に受けた学科長から叱責を受けたそうである。この先任教授は学生に対しても「あの講師はすぐにやめる」と公言し、地声が壁越しに響き渡って本人に耳にも聞こえてきたとか。後になってわかったことだが、就職面接の際にただ一人採用に反対したのが案の定、件の先任教授だった。
この程度の「いびり」ですめばまだいい方で、もっと悲惨な目にあった人も少なくないらしい。特に日本人は「どうせ反撃してこないだろう」と軽くみられてこういう扱いを受けやすい。
電話面接の技術↑
大学によっては有力候補を自校に招いて「決勝トーナメント」にあたる面接審査をする前に、電話で「予選」をおこなって候補をさらに絞ることがある。そこで選ばれた候補だけが本面接に呼んでもらえるわけである。(候補を招待するお金がない場合、電話だけで決めてしまうことすらある。)大抵はconference call形式、すなわち数名の選抜委員会を相手に一人で立ち向かうことになる。相手の顔が見えないので、慣れないとそのうち誰と話しているのかわからなくなってしまうなど、通常の面談とはずいぶん勝手が違う。そのためややもすると慌ててしまい、しどろもどろになりがちだが、やりかた次第では向こうからもこちらが見えないことを有利に活かすことができる。
- 椅子のキーキーいう音は電話越しに響いて耳障りなので、そういう音のしない椅子にすわろう。
- 電話インタビューはなるべく広いデスクまたはテーブルを前にして受けよう。卓上には提出した出願書類、履歴書、自著論文、相手校に関する資料、現地の地図、PC、筆記具、電卓などを整理してならべ、いつでも必要な資料が手にとれるように準備しておく。
- 応募書類に関する質問に対しては、必ずその書類を目の前に広げてから答えるようにしよう。即答できそうな簡単な質問でも、書類を広げると書類作成の時の自分の想いが蘇ってきて、より適切な、アピール力のある答えがしやすい。
- PCは当然、ブロードバンド接続してあることが望ましい。途中でフリーズしないよう事前に一度リスタートし、スクリーンセーバーもオフにしておこう。SkypeなどPCを使った面接でない限り、スピーカーは音声が出ないように設定しておく。
- インタビュー開始直前の緊急連絡がメールで飛び込む可能性もあるのでアウトルックなどのメーラーは面接がはじまるまでは開けておくとよいが、面接がはじまったらすぐにQuitした方が集中できる。
- 先方の学科のホームページをあらかじめPCの画面上に出しておく。タブ式のブラウザーを使っているなら、関連するページをいくつか同時にオープンしておくと瞬時に切り替えられて便利である。インタビュー中に「今、貴学科のホームページを見ているのですが、そこに書いてあることによれば…」といっても機嫌を損ねることはない。
- 両手が自由に使えるよう、ヘッドフォン型の受話器を準備しておこう。
- インタビューに臨む相手の顔ぶれは、事前に知らせてくれる。それぞれの専門分野や職階を予めインターネットなどでしらべておこう。(審査委員会の中にも力関係や利害の対立がある。慣れてくるとこういうことも面接を受けている間にある程度察知できるようになる。また、相手の専門領域がわかっていれば必要以上に専門的な答えをしてしらけさせるなどの失敗も防げる。)
- なるべく大きい紙(できればA3サイズ以上)を準備し、審査委員の名前をあらかじめ、海のあちこちに浮かぶ島のように書き込んでおく。それぞれの委員からの質問とそれに対する自分の答えの概要を、それぞれの「島」の周辺に順次メモしていくのである。(相手が名前を名乗らずに質問してくるようなら、"Excuse me, who is this speaking?"と問い返そう。)A教授の質問への答えを受けてB教授がさらにコメントや質問した場合には、矢印などで話のつながりを示す。こうすることによりインタビューの流れが明確になり、場をある程度コントロールできるようになる。【このメモは後日のために保存しておく。】
- 採用のための電話インタビューはふつう「30分ぐらい」という時間枠ではじめられることが多いが、「この候補はよさそうだ」と感じたらどんどん話が広がり、予定よりかなり長引くこともある。インタビューの前後は時間に余裕をとっておこう。
- インタビューの終わりに「何か質問はありますか」と促されることが多い。アピールしそうな質問をいくつか準備しておき、インタビューの流れなどから最も適切と思われるものを最後に尋ねるようにしよう。
- 本稿筆者の場合はスピーキングよりライティングの方に自信があるので、頭の中にワープロ画面をイメージしそこに文を組み立てつつ音声化したらわりあいうまくいき、通算4校目の電話インタビューにしてはじめて採用のオファーをもらうことができた。(それでゲットしたのが、幸か不幸か豪州の大学の仕事である。)相手からの情報も音声のみ、つまり一次元的に流れてくる電話インタビューだからこそ使えたスキルである。ただしこういうノウハウにも向き不向きがありそうなので、自分の電話面接スタイルを確立するためにはあらかじめ予行演習をした方がよいだろう。頭の中で「書いた」英文をいかにも「話している」ように音声化するのにも慣れが必要である。
ビデオ会議面接↑
最近ではビデオ会議面接も技術的に可能になっている。筆者は経験がないのでわからないが、上に書いたような戦術の活用はかなり限定されてしまいそうである。自信がないなら「設備がない」とか「回線容量が足りない」とかいって通常の電話会議にしてもらうことも可能だろう。もし受けて立つなら、知人に面接官役を頼んで一度リハーサルをしておいた方が安全である。
憧れの グリ−ン=カ−ド↑
俗称Green Cardとはアメリカ永住権の証明書のことである。将来アメリカに残りたいと思っている人間にとっては、まさに憧れの対象である。この申請は結構面倒なので、通常弁護士を雇って代行させる。Tenure-trackの大学のポジションにつけば、大学がその費用を出してくれるのが慣例になっている。
日本での 就職↑
民間企業−−留学生への門戸を広げる↑
不景気とはいえ、真に優秀な人材にはチャンスがあるものである。
インターネットで情報収集↑
Web上の就職情報サイトが、多数できている。Internetで就職情報を提供する企業もあらわれてきた。中には、電子メールで応募が可能なところまである。こうなると、日本にいないことから来る情報不足の不利もある程度カバーできる。電子メールだけに頼るのはまだまだ危険だが、情報源のひとつとして心にとめておかれたい。
就職斡旋業者を 利用する↑
リクル−ト、ダイヤモンド、ディスコなど、様々な業者が留学生の就職斡旋を行っている。バブル経済崩壊以前は飛行機代、宿泊費丸がかえで全米から学生をニューヨークやサンフランシスコなどのホテル会場に招致し、派手な合同企業面接会をやったものであるが、さすがに最近は地味になったようである。とはいえ、定期的に求人情報を載せた冊子を送ってくるので、市場の動向を知る上でも参考になる。貴重な情報源には違いないので、先方の連絡リストに名前を載せてもらえばいいだろう。求人広告の出稿主は民間企業が中心なのはもちろんだが、まれに教育機関や政府外郭団体もこういう経路で求人を行うことがある。
大学↑
人脈↑
日本の大学というのはなんでも人脈がおそろしくものをいう社会だそうである。採用通知をもらった後で断わると、後にたたるらしい。ましてや、誰かの紹介で応募した場合など、その話を断わるということは紹介者の顔をつぶすことになるとか。よくよく時期と相手を選んでから応募した方がいいようである。
条件比較↑
勤務校や学科などにより千差万別なので安易な一般化は禁物だが、筆者がやっているようなマイナーな文系学問の場合は大雑把に次のような傾向があるといえよう。
| 日本 | 北米 | |
| 学科運営事務 | 多い | 日本よりは少ない(各学科に専任セクレタリー) |
| 委員会業務 | 多い | 日本よりは少ない |
| サバティカル | 「一生に一回」といわれる | テニュアが取れれば数年ごとに可能 |
| 個人研究費 | 一律支給あり | 支給されない大学が多い |
| 外部研究資金 | 文科省科研費は倍率4倍程度 | 厳しい |
| 大学図書館 | 書籍が少ない(特に洋雑誌) | 日本よりは充実 |
こういうわけなので、「事務作業に追われサバティカルも滅多に取れないが、年額百万円前後の研究費の範囲内で細々と好きな研究を続けたい」という方には日本の大学が、「事務はセクレタリーに任せ、しっかりサバティカルをとり、一か八かで巨額の外部資金を狙って大研究を達成したい」という方にはアメリカが向いているといえまいか。
くどいようだが、例外はたくさんある。日本でも科研のAやSをもらえば年額一千万円を越える研究費を動かせるし、アメリカでも毎年固定額を研究費として支給してくれる大学もある。
日本で教えるきっかけを作る↑
いずれは日本の大学に就職したいと思っているなら、まずは集中講義の非常勤講師として小手試しをするのもよかろう。(日本の大学は七月や九月によく集中講義を出すので、学期制によってはアメリカの大学が休みの間に日本で教えることも可能である。)一度でもこういう経験があると
- 日本の大学の雰囲気が多少つかめる
- 「日本で教えた」という実績ができる(←最初の常勤職を得るためには、こういう実績が結構ものをいったりすることもある。特に国立大学の場合、全く教えたことのない人にはうるさく「資格審査」を求めるので非常に面倒である。資格審査の必要がないとなれば、先方も負担が軽減できる。)
- 将来常勤職で就職した時に給料を高くしてくれる場合がある
そのほかの国での 就職↑
大学関係の仕事なら、海を越えての応募もめずらしくない。それ以外の分野もふくめて、インターネット経由で情報が回ってくることが多い。実は、筆者のオーストラリアでの勤め口も、インターネットで探したもの。採用インタビューは国際電話で受けた。
アメリカで さらに 勉強したいとき−−転校は 当たり前↑
修士課程を終わった後、同じ大学で博士課程に入学できれば能率がいいには違いないが、他所の大学に移ることで視野を広げるメリットも無視できない。北米圏では大学によっては「近親交配」が続くのを避けるため、自校で学部課程を終えた学生には、原則として大学院に居残ることを認めないこともある。これでは、日本流の学閥が育つ余地はない。
したがって、修士課程在学中の学生が自分のadviserに「博士課程は他所でやることも考えているんですが…。」と相談しても一向にさしつかえない。(もっとも、多くの心理学科のように、修士課程と博士課程がはじめから一体をなしているプログラムの場合は多少話が別である。)このあたりのアッケラカンとした雰囲気は、日本の大学からは考えられないぐらいである。そのかわり教授も、先々、私事にわたるまで弟子の面倒を細々と見るという慣習はない。(個人的に非常に親しくなれば別だが、それは子弟の関係とは一応別の、プライベートなものとみなされる。)要するに、人間関係が水臭いのである。「君子の交わりは淡きこと水の如」きをもってよしとしておられる方には、日本よりアメリカの方が居心地がいいかもしれない。
師唱弟随↑
師匠が他大学に移るにともなって、大学院生も一緒に転学するということがよくある。長期にわたる大口の研究助成金を獲得してアシスタントを雇っている教授の場合、そのプロジェクトのことをよく知っている大学院生に離れられると研究に支障をきたすこともあるわけである(そういう場合は、大抵教授の方から「一緒に来ないか」と誘ってくれる)。移転先での単位認定、財政援助などの条件をよく確かめるべきことはもちろんだが、是非ともこの師匠と一緒に研究を続けたいと思っているなら、前向きに考えるべきだろう。
母校を離れるにあたっての準備↑
成績証明書の申し込み用紙をもらっておく↑
卒業後、いつなんどき在校中の成績証明書が必要にならないとも限らない。そんなとき、申し込み用紙を一々請求していては時間の浪費である。大学を離れる前に、申し込み用紙をがっぽり(少なくとも10枚以上)まとめてもらっておこう。(もっとも、最近ではインターネットで申し込める大学もあるらしい。それならこんな心配は無用である。)
健康診断書↑
就職先から健康診断書を求められた場合など、設備の整った病院で検査を受ける必要がある。ところが、アメリカの大病院はいきなり出かけても診察をしてくれない。検査といえども開業医の紹介状が必要になる。したがって、まず近所の医院のアポイントをとり、そこで紹介状を書いてもらってからようやく本命の大病院の診断予約が入れられることになる。非効率このうえない(そして、医者もそのことはわかっている)が、大きなシステムの一環なのでそこだけ変えることは難しいらしい。とにかく、こういう二段階を踏まなければならないので健康診断書が必要になったらできるだけ早目に動き出さないと期限を逃しかねない。
帰国/転居前の準備↑
身辺整理↑
無事勉学を終えて帰国するなり、他校に移るなりする時には、転居の手続きをしておこう。
- 定期購読している雑誌社に、購読打ち切りをしらせる。(または、転居先を知らせる──連絡用の葉書は郵便局でもらえる。)
- 郵便局やアパートの管理人、寮の事務局に転居先を知らせる。(郵便局に連絡しておくと、その後1年間は無料で転送してくれる。)
- コンピューターのファイルのバックアップをとる。
- ノートPCを持っているなら、当面継続しないといけない仕事はその上でできるようにファイルを移しておく。(PCは引っ越しの際も携行する。)
- 最寄りの領事館に転居の旨を知らせる。
- 知人に転居/転籍を知らせる。
- 電話、水道、電気を解約する。
- 車を売るなら、自動車保険を解約する。
- 電子メールの転送手続きをする。(あるいは、WebMailの使い方を調べておく。)
- 長期に渡って電子メールが使えなくなる場合、購読しているメーリングリストを解約するか、NO MAILにしておく。
- 居室の鍵の返却方法・掃除の必要の有無などを早めに確認しておく。
- 出発の前日まで引っ越し作業で忙しくしているのは嫌だ、というなら数日前に荷物を搬出してしまい、モーテルなどに移った方が精神的にも体も楽である。
- 置き捨て荷物を整理する。
ハンガーなどの必需品は大学寮に寄付しておくと、次の学期に入居する学生に有効利用してもらえる。
引っ越し日までたっぷり時間があるなら、持って行けない大きい家具や電化製品をガ レージ=セールに出して買い手がつくのを待つ余裕もある。
しかし時間が切迫していたらそんな悠長なことは言っておられない。もし「金はいら ないからとにかく余分なものを整理したい」という希望であれば、Salvation Armyな どのボランティア団体に電話してトラックで引き取りに来てもらうのも一案だろう。引き取った 荷物は全て売りに出され、その収益はホームレスの援護など篤志目的に使われる。
もちろん、友人にただであげて引き取ってもらうことも可能だ。ただし、「たとえ親 しい友人といえどもただであげるべきではない。」というスジ論を述べる人もいる。 「全くただということになればついつい要らないものでも取り込んでしまうのが人の性なので、結局は必要とする人の手に入らなくなり財貨の最適分配を妨げる。」という経済学的合理性を踏まえ た理屈である。もし「その理屈には賛成だが、知人にものを売るのはやはり気がひけ る」というなら、売り上げはどこかの篤志団体に寄付することをあらかじめ告げた上 で「募金」としてわずかでも対価を出してもらうことも可能だろう。筆者の場合、売り上げを全額アムネスティインターナショナルの支部に寄付してさばさばした気持ちで引っ越しを終えることができた記憶がある。(アメリカやオーストラリアのアムネスティは政治目的に人権運動を利用したり人権問題と直接関係のないアジビラのような文書を会員に流したりするようなことがなく、概して「まとも」である。)
引っ越し荷造り・居所の退去↑
大陸内での転居の場合、少量の荷物なら郵送した方が安いこともあるが、ある程度以上の分量だと業者に頼まざるをえない。大学と提携している業者だと格安で運んでくれる場合があるので、確かめてみられたい。3社ぐらいにそれぞれ見積りを出させた上でどこに頼むか決めるのが定石である。
- 引っ越し荷造り用のダンボール箱は業者からも買えるが、大学のブックストアなどに行って頼むと、ただでもらえることが多い。ただし、学期末には転居を控えた学生がつめかけるので、早めに行って箱を確保しておくようお勧めする。
- 業者からダンボール箱を買う場合、余った(=使わなかった)箱は返品できるかどうか確認しておく。
- 論文のコピーの類は平素から引っ越し用の段ボール箱にいれて保管しておくと、いざという時に簡単に荷造りがすむ。(レターサイズ紙やマニラフォルダーがぴったり収まるような段ボール箱がある。これだと、箱からとりださないでも中味が調べられるので便利。簡易キャビネットとして、整理整頓にもなる。)
- テープのローラーを手に入れておくと、一々鋏でテープを切らなくてもよいので段ボールに封をする作業が素早くおこなえる。何十箱もある場合、これだけで大幅な時間の節約になる。 筆者が愛用していたのはCaremail Tape Dispenserである。
http://www.epinions.com/offc-Supplies-All-MANCO_INC_Caremail_Tape_Dispenser
ここまで本格的なものでなくても、はさみを使わずにテープを切れるカッターがあれば充分である。なお、荷造り作業が遅れた場合にそなえ、業者にもテープとローラーをもってきてくれるよう頼んでおくとよい。(相手はプロだから、こういう作業は素早く片付けてくれる。)
- 逆に荷物を運び入れる際は、鋏かカッターナイフを準備してすぐに梱包が開封できるようにしておきたい。
- 部屋の掃除を終えて退出する際には、ドアとメールボックスにも転居した旨を告げるはり紙をはっておくとよかろう。(転居してしばらくは仕分け担当者も慣れていないので、旧住所の郵便受けに手紙が入れられて転送が遅れることがよくある。)
- 誤配物の転送を頼める人がいるなら、転送先の住所が載ったアドレスラベルを印刷して渡しておこう。こうすれば、ラベルを貼付けるだけで転送指示が済む。
個人輸入↑
海外で使い始めた健康食品や薬剤を帰国後も使い続けたい、しかし日本には取扱業者がない、あるいは仲介業者の取るマージンが法外だ、と御困りの方。「個人輸入」という奥の手がある。航空便の送料を払ってもなお仲介業者から買うよりは安い、ということがよくある。ハワイやカリフォルニアに店舗を持つ販売会社では注文を日本語で受け付けてくれることすらあるが、これは留学経験者には無用の心配であろう。とはいえ、こういう業者は日本への出荷業務に慣れているだけ、話が早いことは確かである。とりあえず、日本人観光客向けの商品チラシをみかけたら店に問い合わせてみてもよかろう。
決済はもちろんクレジットカードが簡単。最近ではインターネットで発注することも可能になってきているしセキュリティー技術も向上しているが、それでもカード番号をインターネットで伝えるのには抵抗がある、というなら、そういう情報だけをファックスで送ると精神衛生上よかろう。さらに念を入れるなら、番号の一部をメールで知らせ、残りをファックスで送れば万が一間違った相手に届いても悪用される危険は軽減される。
一回払いと分割(リボ)払いを兼用しているカードの場合、支払い方法については念を押して確認しておかれたい。一回払いのつもりだったのに勝手にリボ払いにされてしまい払いたくもない利息を払わされた、というような話を時折聞くからである。一回払いしかできないカードを使うのが一番安心である。
最後に、注文したい商品が日本で禁制品になっていないことを確認するのが客の責任であることは言うまでもない。
海外の大学に就職したら↑
これから留学をしようという方には気が早すぎる話だが、「先の見通し」をつける一助としてご紹介しておく。学生の立場で教授の頭の中を推測する手だすけにでもなれば幸いである。とはいっても、ここから先の技術は筆者も未熟で、こちらが教えを乞いたいぐらいである。とりあえず読者のご参考までに、これまでの失敗経験から学んだ経験則を以下にご紹介しておこう。
条件交渉↑
(準備中)
職階名↑
勤め先の大学によっては、手続き上の理由から客員は全て契約書類上"lecturer"と記載 する一方で、博士号ないし博士候補生資格の保持者は外的(名刺や電話帳など)には "associate/assistant professor"と呼ぶことにしているところが結構ある。(募集広告やジョ ブ=オファーの手紙では"assistant professor"だったが、いざ赴任して 契約書類をみると"lecturer"になっていた、なんてこともある。)こういう場合、契約 書類で「講師」になっているからtenure trackのassistant professorより給料が常に下かと言えば必ずしもそういうことはなく、逆のケースも珍しくな い。(客員の給料が外部のグラントから出ている場合などにこういうことが起こりう る。)ともあれ、大学公認なのだから、学会や履歴書などでも遠慮なくそれにしたが って"assistant professor"、"associate professor"などと 名乗ればよい。
ただし、将来在職を証明する書類を出してもらう場合、こういう大学の人事課や学科 の記録書類は「講師」になっているので、当時の事情を覚えていない人に頼むと「〜 =プロフェッサー」の肩書きでの証明を出すことを渋られることもありうる。こうい う時に備えて、「〜=プロフェッサー」と明記した大学発行の名刺や関連書類などを 手許に備えておくのも大切な心がけである。辞めた大学関連の書類などつい祖末にしてしまいがちだが、しっかり専用フォルダーを作って保管するぐらいの心がけで臨みたい。
また、「博士号をとるまではInstructor、博士号がとれればAssistant Professor」というような条件付きで採用された場合、それがきちんと給与に反映されているか確認した方がよい。首尾よく9月までに学位を取得して就職したがその情報が人事課に伝わっておらず、ずっとInstructorレベルの給料のままだったことを1年経ってから知った、なんていうのも実際にあった話である。
研究と教育↑
(準備中)
労働組合に入るべきか↑
大学教員の労組が結成されている大学は珍しくない。組合費ぐらいはおつきあいで出しても生活に響くほどの金額ではないし、経営上の理由で解雇されそうになった時には組合が守ってくれるかもしれないが、ストになった時が面倒である。組合員でありながらストに参加しない「スト破り」は道義上避けたいが、どうしても休講にしたくない授業の日にストを決行することが決まってしまった場合、非常に苦しい思いをすることになる。このあたりのことは先輩教員にも事情を聞いておかれた方がよろしかろう。
就職した先が気に入らなかったら↑
北米の大学教授がよく職場を移ることはよく知られている。とはいっても、何年も続けて毎年転職しているようだとさすがに履歴書を見た時に「?」をつけられる可能性もある。筆者の聞いた話では、一ケ所に3年ぐらいいて次にステップアップするのは差し支えないそうである。
今の職場ではやりたいことが充分にできないが次の仕事がすぐにはみつからないという場合、ふてくされていないで今のうちにできることを考えよう。たとえば大規模な実験やカリキュラムの大改革は今すぐにはできなくても、パイロット研究をしたりプロトタイプを開発することなら可能かもしれない。今のうちにしっかりした文献レビューをやっておき、ランクの高い雑誌に投稿する、あるいは徹底して持病を治すことなども考えてよい。そうやって下準備を着々と進めていれば、チャンスが到来した時に思う存分腕を奮うことができる。こういう不遇な時期をどうやって有意義に過ごすか、などを考えるにあたっては、色々な分野の経験豊かな先輩に相談するとしばしば盲点を指摘してもらえて非常にプラスになるものである。
次の仕事の探し方↑
(準備中)
サバティカルの過ごし方↑
基本原則↑
北米の大学の多くは、教授が6年間働いた時点でtenure取得済みである場合にはサバティカル(研究休暇)を与える制度がある。(逆にいえば、tenureをとれなかった場合はサバティカル休暇をもらうことなく他所へ移らないといけないということ。)この間、北米では大抵の大学は半年分の給料は無条件で出してくれるが、残りの半年は無給ということが多い。つまり、もし一年間サバティカルをとりたければ、その間半年分の収入でやりくりしなければいけないのである。(もっとも、所得が少なければそれ以上の比率で所得税が安くなるから、手取り収入では通常の年の半分よりもう少し多くなるはずである。)
「6年働いて1年のサバティカル」のかわりに、「3年働いて15週間のサバティカル」(セメスター制度の場合)あるいは「2年働いて10週間のサバティカル」(クウォーター制度の場合)を認める大学もある。
他の土地でサバティカル休暇を過ごす↑
多くの大学ではサバティカル休暇も地元に居残ることが可能だが、他の土地に移って新しいネットワークを築いたり見聞を広げたりする人が多いようである。筆者は最初のサバティカルを過ごす場所を探す時あちこちの大学や研究所にかたっぱしから手紙を出して問い合わせたが、これは異例。研究仲間の招待や紹介で行き先を決めるのが正攻法のようである。
大学によっては、サバティカル期間中は他の機関で過ごすことを強く勧めるところがある。とはいっても、旅程の都合で1〜2週間遅く出発したり逆に少し早く戻ったりせざるをえないこともある。余計な書類事務をしないで済むようにするためには、「近隣の大学の図書館で文献調査をする」などの名目で地元に居残ることが考えられる。(そうすれば、地元にはいても「他の機関でサバティカルを過ごしている」という大義名分ができる。)
大学での知的活動は概して学期中の方が休みの時期より活発である。(休み中では授業を聴講できないし、講演やコロキアムもあまりやっていない。)そういう点からいうと、北米の場合、年の前半はクウォーター制の大学で、後半はセメスター制の大学で(夏休みは独立した研究所で?)過ごすのが効率的といえる。できれば休みの間に現地入りして周囲の人達の手が空いている間に落ち着くのを助けてもらい、しかるのち学期がはじまってからは知的活動に精を出すというのが能率のいい時間の過ごし方だろう。(休み中なら、アパートがみつかるまでの間を学生寮にとめてもらえる場合もある。)
特に日本でサバティカルを過ごす場合、しかるべき機関からの「招待」という名目にしてもらうと国際交流基金などの団体が資金援助をしてくれることがある。
サバティカル先ではいろいろな人と知り合う機会がある。自分がどんな研究をしているのかすぐに説明できるよう、論文のコピーと簡単な履歴書ぐらいは準備してもっていきたい。パワーポイントなどを使ってコンピューター上でプレゼンテーションができるのであればさらに便利である。
サバティカルの間にたくさん本や論文を読んで充電するつもりなら、そのレビュー論文を書くことをサバティカルの目標の一つにするとよい。漫然と読んでいるよりずっと深く考察することができる。
サバティカルを他の土地で過ごすことにした場合。持ち家がある方はもちろんだが、アパート暮らしの方も「ひきはらうのがめんどうだ」というなら、その間入居してくれる人を見つけると家賃収入がなにがしか入ってくる。ずっと空家にしておいては不用心だし、誰かに定期的に窓のあけしめをしてもらわないことには、家も家具も傷んでしまう。
こういう場合、逆に他の大学からサバティカルで移ってくる人に入居してもらうのが定石である。相手を探すためには、大学内の教職員向けの定期出版物に広告を載せるとよい。(締切が早いことがあるので、時期を確認して早めに出稿のこと。)しかるべき学内メールリストがあれば、当然利用すべきである。適当な相手がみつからない場合、信頼できる大学院生を格安で(あるいはただで)住ませて家の面倒を見てもらっていた人もいた。
もしアパートをまた貸しする相手がみつからないなら、荷物を貸倉庫に預けることも考えられる。料金は、アパートを借り続けるよりはずっと安い。イエローページで探すとよい。また、もし荷物の運び込みを運送業者にたのむつもりなら、見積りに来てもらった時に「どの貸し倉庫屋がいいか」相談してみるのもよかろう。運送業者はプロだけに、「どのぐらいのスペースの貸し倉庫が必要か」かなり正確に見積もってくれる。
貸し倉庫が近隣にあるのなら、荷物を積み出したあと業者のトラックに乗せてもらって倉庫におもむき運び込みを確認するのがよかろう。荷物を倉庫に入れるのは結構時間がかかるものなので、退屈しないよう雑誌でも持っていくとよい。
貸し倉庫にあずけた荷物には、保険をかけることができる。大した金額ではないから、"peace of mind"のために加入しておくのも悪くなかろう。
逆に自分も、サバティカル先で他出中の教授宅をリースすることも考えられる。こういう手配は、スポンサーになってくれる学科がしてくれる場合がある。
サバティカル中は一箇所に定住した方が住居の手配など便利である。あちこち移動すると見聞を広げることができる反面、あれこれ余分な手間がかかる。
外国でサバティカルを過ごす場合、スポンサーとなってくれる機関が必要である。たとえ複数の機関に顔を出すにしても、スポンサーはどこか一校に頼んだ方が面倒が少ない。その場合、当該校にいる期間とビザの必要な期間が一致しなくなるので、ビザの発行時期・有効期間については事前に充分にうちあわせておくことが必要。ビザが遅れているようなら、催促した方がよい。
サバティカルに出ている教職員からはオフィスをとりあげる大学が多い。(スペースは貴重なのである。)こういう時あたふたしたくないので、大学のオフィスにはあまりものをおかない方針にしている人もいる。
飛行機代などを大学が補助してくれることがあるので、払戻方法を確認しておこう。また、サバティカルで海外に出る場合は、通常の従業員国内医療保険とは別に海外医療保険を大学が契約してくれることがある。渡航時には必ず保険契約の書類を持参し、緊急連絡先も確認しておこう。
サバティカルで他出している間に学会発表をすると、通常のサバティカル経費補助とは別に学会発表の経費が支給してもらえてトクである。
サバティカルのついでにあちこち旅行したいと思っているなら、世界一周航空券を使うと長距離を割安で旅行できる。ただし、西回りか東回りのどちらかを選ばなければならず、経度上の逆戻りはできない。
世界一周券や大陸間往復券を購入してその飛距離をFrequent Flyer's Clubに登録すれば、国内便の航空券ぐらいは稼げる。サバティカル先で学会旅行をする時など、この手を考えてみるとよかろう。
サバティカル先でもこれまでどおりの電子メールアドレスが使えるか、確認しておくと便利である。もし無理なようなら、とどいたメールをhotmailのようにどこからでもアクセスできるアカウントに自動転送することも考えられる。
勤務先に届いた手紙などをサバティカル先に転送してもらえるよう、転送用のアドレスラベルを担当者にわたしておくと、これまた便利。逆に、サバティカル先を離れる時も、その後届いた郵便を転送してもらえるようアドレスラベルをわたしておくとよい。
デスクトップの環境をそのままラップトップコンピューターに移植して持っていくと、平素と同じ環境で仕事が継続できる。(デスクトップとラップトップのハードディスク内容を同期するソフトもある。)この場合、サバティカル先のネットワーク環境(イーサーネットが部屋につながっているか、など)があらかじめわかれば、それにあわせて必要なカードなどを装備していくこともできる。
最近では勤務先のサーバーに遠隔地からアクセスすることも可能になりつつある。詳細は、担当者とうちあわせられたい。
サバティカルが終ったら、その間の活動の報告書を書かされることがある。あらかじめ報告用紙を手に入れ、何を報告するか考えながらサバティカルを過ごせば、後で書類作成の時間が節約できる。どの程度詳しい情報まで報告する必要があるのかあらかじめわかっていればそれを落とさず記録しておくことで報告書がしあがっていくわけだから便利である。書き方がわからなければ、遠慮なく同僚や学科長にきけばよい。
テニュアをとり損なった神様↑
以下は、筆者がイリノイ大学在学中に心理学科の掲示板でみつけていたく気に入り、さっそく手帳にメモしたジョークである。テニュア審査の一端をうかがい知るものとして、御参考までに引用しておく。
Why God did not get tenure at the Hebrew University
1. He had only one major publication.
2. It was in Hebrew.
3. It contained no references.
4. It wasn't published in a refereed journal.
5. Some doubt He wrote it Himself.
6. He may have created the world, but what major work has He done since?
7. His cooperative efforts have been quite limited.
8. The scientific community has had difficulty replicating His results.
テニュアをとり損なった神様がいるかどうかは知らないが、ピュリツァ−賞受賞の大作家がテニュアをとれずに大学を追われた、というのは実際にあった話。
留学カウンセラーにならなかった理由↑
私事で恐縮ですが。筆者は留学中に「卒業したら、専門課程への留学を目指す若い(若くなくてもいいが)人達を支援する仕事をしたい」とかなり真剣に考えたことがあった。志望校選びや効果的な応募書類の準備方法など、有益な支援ができる自信もある程度あった。
結局その道に進まなかったのは、本気で各人に最適化した留学支援をしようと思えば初期カウンセリングからはじまって書類の点検添削や事後フォローまで大変な手間と時間がかかり、かなり高額な料金をいただかないと生計がたてられないことに気づいたからである。逆に料金を抑えるためには、マスプロ的なやり方にならざるをえず、ありきたりの留学斡旋業者になるのがせいぜいである。
というわけで、現在はこういうWikiサイトという形でノウハウを提供し、生計は別の方法でたてている。あくまでアマチュアとしてボランティアでこの道に関わった方がやりたいようにやれる、というのが現在の心境である。「そんなことはない、低廉な価格でレベルの高い留学サポートが可能だ」という自信がおありの方は、そういうビジネスモデルを掲げ起業していただけたらご同慶の至りである。
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