北米留学上級技術マニュアル - 留学志望者のためのかんたん北米地理
目次
地域差と留学↑
「やりたい勉強ができるなら、どんな酷寒、酷暑も厭わぬ。」という覚悟を期待したいが、実際問題として田舎暮し・都会暮しが向かぬ人もいるもの。痩せ我慢で何とか乗り切れる1〜2年の短期決戦ならとにかく、長丁場の博士課程では、特に家族連れの場合周囲の環境も一応調べてから結論を出すことをお勧めする。
見逃されがちだが、子連れ族に向いた物価低廉・治安良好・高文教の土地を探すなら、中西部の田舎の大学街がそのニーヅをみたす場合が多い。地元の学校には大学教授の子弟が大挙して通っているから、おのずと教育熱心になるのは当然とも言える。(ただし酷寒・酷暑に加えて、娯楽刺激の少なさはどうしようもない。とはいえ、Indiana University本校のあるBloomingtonやUniversity of Michigan本校のあるAnn Arborは、それなりに落ち着いた文化のかおりが馥郁とただよう学園街である。)
研究の面でも、アメリカの議会制度を調べるならやはり首都Washington, D. C. に近いのは有利だし、国連を研究するならNew York、Mark Twain研究ならミシシッピ州、と、それぞれ適地はあるものである。
アメリカ大陸ところどころ↑
因みに、米国各地区のステレオタイプ的なイメージを列挙すると:
- 東部=洗練/俗物
- 中西部=質実剛健/田舎っぺ
- 南部=伝統文化/頑迷固陋
- 西部=新取革新/軽佻浮薄
- Hawaii =諸民族和合/雑居地区(植民地)
- ロッキー山脈地帯=大自然/人外の地
ということになろうか。あくまでステレオタイプなので、あまりこれにこだわらないように願いたい。
筆者は一年だけ南部テネシー州に住んだことがあるが、気風が保守的であまり露骨な自己宣伝を嫌うあたり、いささか日本に似ているという印象をもった。しかし、人種的な階層が如実に見えるあたりは、どうもあまり愉快な土地ではなかった。
とはいえ、当時の筆者の受け持ちクラスに在籍していた民主党員の白人青年F君と共和党員の黒人青年K君は喧嘩友達の好敵手で、寄ると触ると二人が口論するのを楽しく観戦したのは、今となっては懐かしい思い出である。
Midwest(中西部)ってどこ?↑
「Midwest(中西部)というからにはアメリカの真ん中よりは西寄りにあるのだろう」と思うのが当然だが、実際には米国で Midwestと呼ばれるのは五大湖周辺、すなわち東海岸諸州のすぐ西側で、アメリカ全体の中心線よりは遥かに東側にある。Midwestという呼称は、米国領の西端がまだ太平洋岸に達していなかった西部開拓時代の名残りなのである。New England(東部)から少し内陸に入ったところにあるAppalachian 山脈を越えてしばらく西へ行くとMidwestがはじまる。そこからさらに西に進んでMississipi川を越えるとthe West(西部)に至る、というのが伝統的な地理区分である。
Mississipi川が流れているのは、大雑把にいってアメリカを東西方向に三等分した東寄り3分の1のあたりの位置である。いくらなんでもこれでは「西部」が広くなりすぎて実用上意味がない、というので、現在では「西海岸」・「ロッキー山脈地帯」などとさらに細かく地域をわけて呼ぶのが普通である。
中西部がわかる映画↑
米中西部の気候風土を一目でつかみたければ、Meryl Streepが主演した映画『マディソン郡の橋』を見るのが手っとり早い。夏のどうしようもない蒸し暑さ、平坦な大地に延々と広がる畑、人々の質素な生活ぶり、単調な日々の生活、保守的な気風などが見事に描かれている。映画の舞台になっているのはIowa州だが、そこから東に連なる Illinois、 Indiana、 Ohioの風土も大同小異である。この4州のいずれかに所在する田舎町の大学に留学を考えておられるなら、是非この映画を見てから覚悟を決めるようになされたい。(もっとも、『マディソン郡の橋』には、中西部の冬の厳しさは描かれていない。真冬は零下20度があたりまえという土地である。)
南部って何?↑
同じ大西洋岸にあってもMaryland以南は「東部」ではなく「南部」と呼ばれている。その「南部」の西端はメキシコ湾岸・内陸部に広がって遠くTexasにまで及んでいる。アメリカでいう「南部」というのはおおまかにいって南北戦争の時に南軍側についた州のことであって、緯度や経度によって定義されているわけではない。したがって、同じくメキシコに境を接する州でも、Texasが南部なのに対して、そこから西に連なるNew Mexico, Arizona, Californiaは西部に組みわけされているわけである。(Texasの伝統衣装はカウボーイ風のテンガロンハットにブーツで、完全に西部劇の世界である。)
もちろん南北戦争当時に奴隷制度を維持していた州の多くは南軍側についたが、なかにはMaryland、Missouri、Kentuckyのように奴隷州でありながら連邦(北軍)内にとどまった州もある。そのうちMarylandが「南部」に入れられるのに対してMissouriは「西部」と、このあたりは一貫性がないようである。
各地の大学事情↑
大学での研究教育だけに関していうと、東部はIvy League SchoolsとMITのお膝元だけあって完全に私立大学が優位に立っており州立大学の影が薄いが、中西部には
- University of Michigan
- University of Wisconsin
- University of Illinois
- Indiana University
- University of Iowa
- University of Minnesota
- Ohio State University
など優れた州立大学が林立していて、どちらかといえば州立の方が学問的にも主流をなす。(この地域で学問的にみて文句なしの一流私立総合大学といえば、
- University of Chicago
しかない。
- Northwestern University
を入れても、二校である。この近隣にあるもう一つの名門私立
- Washington University
のあるSt. Louis市はMississipi川の西岸にあり、伝統的な地理区分ではすでに西部に入ってしまう。)
西海岸地区、特にCaliforniaは私立の雄
- Stanford University
と州立の最高峰
- University of California, Berkeley
をともに抱えているが、UC Berkeley以外にも
- University of California, Los Angeles (UCLA)
- University of California, San Diego (UCSD)
など質の高い州立大学が多い分、全体としての学問的影響力ではやはりいくらか州立優勢といえよう。
南部は、長らく学問的に不活発な土地と思われていたが、
- University of Texas
- Rice University
- Duke University
などが着実にレベルを上げつつある。
ロッキー山脈地帯では、州立
- University of Colorado at Bounder
が一枚看板といえよう。それ以外には、全米規模で名の知られた総合大学はほとんどない。
カナダはもちろん、東岸Quebecはフランス文化圏、西岸British Columbia はアジア指向、首都Toronto のあるOntarioは経済、行政の中心である。冬のカナダはどこへ行っても寒いが、特に内陸部の三州は凄まじいとのこと。カナダの有名総合大学は全て州立である。
生活費の地域差↑
生活費は地域差によって、格段のひらきがある。食費や衣服費の差は知れたものだが、都会と田舎の住居費の違いは文字通り天と地ほどの差である。筆者が通ったUniversity of IllinoisのあるUrbana市では、大学から少し離れたところにある1ベッドルームのアパートなら月300ドルぐらいでかりられたが、同じ時期にBoston 近郊へ行くと、月1000ドルでは収まらなかったとのこと(1990年当時)。
参考までに、食料品が全米で一番高いのはHawaii で、それに迫るのがAlaska 。輸送にコストがかかるから、やむをえないが。といっても、牛肉や米は日本よりずっとずっと安い。
花粉症だより↑
花粉アレルギー症の方は、全米どこへ行っても症状が出ると覚悟しておかれた方がよかろう。筆者は幸いにもHawaiiにいた2年間だけは症状が出なかったが、同じ時期に筆者の同級生はひどいアレルギーで苦しんでいたから、土地との相性があるのであろう。それが事前に予測できないのが残念の限りである。どうしても知りたければ一年ほど現地で暮らしてみるしかない。短期間の滞在経験だけで結論をくだしては危ない。というのは、地域、季節、個人差の三つが連動して交互作用をなすことがあるからである。
因に、筆者もHawaiiでの2年を終えてIllinoisに移るや、アレルギー族に逆戻りしてそれ以来毎年、抗ヒスタミン剤のお世話になった。いずれにせよアレルギーは針葉樹の花粉が原因だから南国では起こらないと思いきや、12月にフロリダ半島中部を旅した際にはいきなり症状が出てしまって悲惨だった。
不思議なのは、Illinois滞在中ある年を境に、それまで春だけだったアレルギーが春と秋の両方出るようになったことである。正確に言えば、地域、季節、個人差プラス年齢の4要因の交互作用というわけであろうか。できれば新薬でなく漢方薬を使いたかったのであるが、アメリカではまだまだ漢方薬を処方してくれる保険医は非常に少ない(とはいえ皆無ではないから、探してみる価値はある)。
住みやすい街ランキング↑
US News & World Reportは、毎年「住みやすい街ランキング」を発表している。同様に、「住みにくい街ランキング」もある。「住みやすい街」の上位にあがっているからといって誰でも快適な暮らしができるとは限らないが、逆にワーストランキング上位に挙がるような街にある大学への留学を考えているなら、一応その悪評の背景を調べるぐらいのことはしておかれた方が安全だろう(特に家族同伴の方)。
アメリカあれこれ↑
読む地図↑
地誌を兼ねたアメリカ入門書として、『アメリカ50州を読む』(浅井信雄、新潮文庫)を推したい。文字どおりアメリカ各州についてそれぞれ数ページの簡潔な紹介記事を連ねた、「読む地図」である。別に一度に通読する必要はない。出願しようかと考えている大学が所在する州の項を拾い読みしておくと、何となくその土地の雰囲気がつかめるように思う。アメリカ留学を志す外国人にとっては手軽で便利な「アメリカ入門」の書である。
特に州立大学に進む場合、州政府の財政状況や教育への熱意が大学運営にも影響するから、こういった下調べを怠るべきでない。また、ニュースで名前があがった政治家の出身州の情報を本書から仕入れれば、それをネタに留学先の学生食堂で蘊蓄を垂れ、いっぱし通を気取ることもできる。
人外の地↑
米国の内陸部西側、すなわち北のモンタナ、ノース・ダコタから南のニュー・メキシコにかけては、面積広大で人口稀少な州が続いている。(例えばワイオミングは26万平方メートル(日本の本州より広い)の州土に住む人口がわずか45万人強(1990年)である。)
しかし実際に大統領選挙の勝敗を決める選挙人の数は人口に比例して各州に配分されるため、この広大な地域の選挙人を全部集めても全米の1割にも満たない。千万人級あるいはそれに近い大人口を抱える東部のニューヨーク、ペンシルバニア、南部のフロリダ、テキサス、中西部のミシガン、オハイオ、イリノイ、西部のカリフォルニアなどが大統領選挙の主戦場(battleground)であり、そこに共和・民主両党の人員と資金が集中的に注ぎ込まれることになる。ご存知のとおり、アメリカ大統領選挙では各州で他候補より一票でもたくさん得票した候補がその州の全ての選挙人を総取りすることになっているから、選挙人の少ない州、勝利確実な州や敗戦必至の州には力を入れず、当落ぎりぎりライン(swing states)の大票田州に戦力を結集するのが戦略的に正しいわけである。これらの州の都市部に住んでいれば各党の大統領候補が頻繁に遊説に訪れるから、見物に出かけるチャンスである。
逆にまず絶対に大統領候補が選挙運動中にやってこないのがハワイ。4人しか選挙人がいない州にわざわざ何時間もかけて飛んでくるのは戦術上ひきあわないのであろう。
もし大統領候補がハワイを遊説することがあるとすれば、それはハワイの選挙人目当てというよりは、何らかの理由でハワイが全米の注目を集め、それにかこつけてマスコミ目当ての選挙イベントを行うような場合だろう。そうなると真珠湾がらみである可能性がかなり高く、日本人にとってはあまり居心地のよくない事態となる。(「普通の国」)
一方、両党の公認候補者を選ぶ予備選挙でとりわけ注目を浴びるのがアイオワ州。全米のトップを切って1月早々に予備選を実施するため、そこで勝って波に乗りたい各候補が一斉に足を運び、テレビコマーシャルなどあの手この手で得票を目指すからである。また、アイオワ自体はさほど大きな州ではないが、人種別の人口構成など様々な点でアメリカの平均値に近いと言われているため、ここで大負けしてしまうと「勝てない候補」と思われその後の選挙戦で後手に回ってしまうということもある。したがって、予備選序盤の論戦は農業州・アイオワ州の有権者の関心を得やすい農業政策などを中心に交わされることになりやすい。これに対して他州の州民からは不満の声があがり、予備選挙を早めようという動きもあるようである。
それはさておき、コンピューターを駆使して各州の面積が選挙人数に比例するような変形アメリカ地図を作成しWeb上で大統領選挙の開票速報を流せば、戦況がよりリアルに掴めるので好評を博すかもしれないと思うのだが、どなたか挑戦してみられてはいかがであろうか。
ニューヨーク州は田舎↑
ニューヨークといえばマンハッタン島の摩天楼しか思い浮かばない日本人が多いが、ニューヨーク州の陸地面積は約12万平方キロあり、日本の本州の半分を上回る。そしてニューヨーク市はその広大な州土の南端にあり、それ以外の大部分は田園地帯である。「ニューヨーク州立大学」というと大都会にあると思いがちだが、実はとんでもない田舎かもしれないから、願書を出す前にちゃんと地図で確認しよう。
同じく、イリノイ州もシカゴ以外はほぼ全域が農業地帯である。University of Illinoisのシカゴ校とアーバナ=シャンペーン校は別世界にあると思った方がよかろう。
アメリカ混んでるか、空いてるか↑
日本にくらべてアメリカの人口密度が低いのは当然だが、実際のところその国土はどの程度空いている(あるいは混んでいる)のだろうか。詳しい統計は専門書をご覧いただくとして、筆者自身の経験を一つご報告しておこう。アリゾナ砂漠やロッキー山脈、グランドキャニオンなど米国でも特に人口稀少な地域の上空を夜何度も飛行機で飛んだことがあるが、晴天である限りよくよく目をこらすと高度約1万メートルの上空から見わたせる範囲内にどこか一箇所は必ず灯火が見えた。つまり、その範囲内に少なくとも一人は人が住んでいるか定期的に立ち寄る施設があるということである。
「それがどうした」と言われるかもしれないが、アメリカよりやや狭いオーストラリアの中央砂漠地帯の上空を夜飛ぶと下界は文字どおり完全な漆黒で文明の痕跡がまったく見られないことがよくある。こうなると、海の上を飛んでいるのか陸の上なのかすら、肉眼では判別できない。
アメリカのここが紛らわしい↑
紛らわしい大学名・地名↑
私立の名門Washington University は内陸部のMissouri州St. Louis市にあるが、州立University of Washingtonの本校所在地は西海岸のWashington州Seattle市である。首都Washington, D.C.市にも、ちゃんとGeorge Washington University というのがある。
さらに紛らわしいのは、Ohio 州にあるMiami University。一方、Florida州Miami 市近郊には勿論University of Miamiがある。
Pennsylvania州にはIndiana University of Pennsylvaniaというのがあり、これはIndiana 州Bloomington 市にある州立Indiana Universityとは全く別の大学である。
そういえば、Columbia University (New York City)が南米のColumbia共和国にあると思っていた学生もいた。一方、University of British Columbiaの所在地は勿論、カナダの西海岸British Columbia州である。
University of Wisconsinの本校が所在するMadison市はMidwestの美しい湖都で、「プロレスの殿堂」Madison Square GardenのあるNew York City とは何百キロも離れている。一方、映画『マディソン郡の橋』の舞台になったのはIowa州Madison Countyで、Madison市のあるWisconsin州と同じMidwestとはいうものの景観は全く異なり、広大な平地にひたすら畑が広がるのみである。
同名の市がある↑
- Springfield (Illinois; Missouri; Vermont; Massachusettes)
- Pittsburgh (Pennsylvania; California)
- Portland (Oregon; Maine)
- Bloomington (Indiana; Illinois)
これらは全米に散らばる同名の市のほんの数例に過ぎない。KentuckyとOntario(カナダ)には
- London
という街まであり、紛らわしいことこのうえない。こういうわけなので、宛名を書く時は国名はいうにおよばず、州名も省略せずに必ず記入するようにしましょう。
日本でこういうことが起こらないのは、法令で同名の市を禁じているからである。京都府長岡町は市制移行にともない、新潟県長岡市との重複を避けて「長岡京市」と改称した。県名を略しても市名以下さえ書けば手紙が届くのもそのおかげである。アメリカには旧自治省(現総務省)にあたるお役所がないので、こういう調整の世話をしてくれる連邦機関も存在しない。
〜Cityとはいわない↑
日本だと「長岡市」「札幌市」など、都市名の後に「市」をつけるのがあたりまえだが、アメリカではColumbus, San Diegoなど市の名前だけで呼ぶ方が普通である。敢えて〜Cityをつけるとしたら、New York City, Kansas Cityのように州名と同じ名前の都市のため、区別する必要がある場合が多い。同じようにして、州名のあとにStateをつけるのも稀である。
アメリカは合衆国?合州国?↑
紛らわしいついでにこの件もここでとりあげてしまおう。実は筆者は「合衆国」と「合州国」のどちらを使ったらいいかン十年にわたり迷っていた(というか、ひょっとしたら「合衆国」は誤訳ではないか、と心配して書くのをためらっていた)のである。つい最近、「合衆」の語源を知って漸く目から鱗が落ちた。
「アメリカ合衆国が「合州国」ではない理由についての資料集」
http://www.kotono8.com/2004/06/17united-states.html
をご覧あれ。
思えばアホなことで人知れず長い間悩んでいたものである。自嘲せざるをえない。
州か、邦か↑
上記のサイトに書いてあることにしたがえば、そもそもアメリカのstateを「州」と訳したのが間違いで、正しくは「邦」と呼ぶべきだということになる。実際、アメリカの中央政府を日本では「連邦政府」と呼ぶことが多い。そういわれてみればたしかに「テキサス州」より「テキサス邦」の方が「らしい」ような気もするが、既に定着している訳語を今から変えるのはタイヘンである。
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