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北米留学上級技術マニュアル - 最初の学期をのりきる


目次



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科目の選択と準備

楽な科目から

 最初の学期の辛さは、留学経験者が口を揃えて強調する。いくら英語に自信があっても(自信がなければなおさら)、宿題や予習の重圧、生活習慣の違い、外国の大学制度へのとまどい、それに加えて「本当にこの学期を乗り切れるのだろうか。」という不安感等が重なって、15週間の一学期が無限の長さにも感じられる。体力的にも、精神的にも、そのプレッシャーは大変なものである。

 これを乗り切るためには、まず負担の軽い科目からとりはじめることである。基礎科目や、「楽勝コース」(これは先輩から聞き出そう)、得意分野、日本で既に勉強したことのある科目などを一学期目にとることにしよう。筆者の経験から言って、まとまったterm paperを2本ないしそれ以上学期末に書かなくてはいけなくなると、初学期は心身ともにほとんどパンク状態になる。ところが、同じことが2学期目には多少余裕をもってこなせるようになってくるから不思議である。

一年先のコースがわかる

 多くの大学では学期の半ばに翌学期の時間割を配付し、学生がそれを見て前学期のうちに授業登録できるようにしている(pre-enrollment)。とはいえ、来学期の時間割だけを見てどの科目をとるか決めるようでは、まだまだ初心者である。各学科では、最低でも1年先に出す科目の予定までは建てている(1年半〜2年先の計画までわかることもある)。留学道の上級者たるもの、それを見せてもらって長期計画をたてるべきである。

 また、多くの学科では、授業の内容についてのある程度詳しい説明冊子を準備している。自学科、他学科を問わず、貪欲に集めて内容を見極めてから取得科目を決めよう。

 ただし、予定は常にかわるものである。一番よくあるのが、

  • あてにしていた先生が他の大学に移ってしまう

というパターンであるが、それ以外にも、

  • 先生が大きな金額の研究助成金をもらってきて、それを元手に、1年間コースを教えず研究に専念することにした

というケースもある。(アメリカでは、このように自分の研究費で「自分を雇う」ことがしばしば許される。大学側は、浮いた人件費でかわりの講師を雇ってきて授業を穴埋めさせる。)筆者も、これでとりたいコースを4本もとりそこねた。

なお、大学院生向けのコースなら、登録前に先生のところに行って内容を問い合わせても一向にさしつかえない。質問の要点をまとめてから行くとよかろう。優秀な友人と一緒に行くと相手の時間を節約できるし、こちらも友人の質問から思わぬ視点で物が見られたりして、一挙両得になる。(なお、教授を訪ねるとき、人数は通常2人が限度であろう。3つ以上も来客用の椅子を準備している教授は少ないし、いくら相手が学生でも4人も5人も来られるとプレッシャーを感じて身構えてしまう。)

系列性のある授業の受講を再開する場合

数学や外国語などでは、基礎から上級まで授業が一連の系列に並べられているのが普通である。たとえば貴方が「中国語1」を受講したあと1年ぐらい休学し、復学して今度は「中国語2」を履修したいとする。こういう場合、担当教員に事前に連絡して指示を仰いだ方が無難である。貴方が勉強を中断している間に教科書が変わったり授業の方針が転換したりして、旧課程で学んだ学生がいきなり新課程の授業に合流するととまどったりすることがあるからである。もし授業方針に大きな変化が生じているようなら、ギャップを埋めるためにどのような準備をしたらよいか教えてもらうと余裕をもって新学期を迎えられる。(逆にこうやって貴方の側から教員に指示を仰いだのに適切な指示がもらえず、それが成績に影響したとしたら、担当教員にも責任の一端を負わせることが可能になるのである。)

教授の評判を知る

 先輩に相談するのは勿論だが、学生からのcourse evaluationの結果を図書館で閲覧できることがある。学生はそれぞれ自分の都合で意見を書くものだから一々真に受けなくてもいいが、あんまりみんなから悪く言われるような先生の授業をとるのは、やっぱり考えものである。特に上級の大学院生からの評価は、ある程度的を得ている場合が多いと思う。

新任教授の授業

 次の学期に赴任してくる教授の授業をとるかどうか迷っているなら、学科から連絡先を聞き出して直接連絡をとり、授業の内容を教えてもらってもいいと思う。準備のいい先生なら、シラバスを送ってくれるかもしれない。(教授の方としても、そうまでして自分の授業の中身を知りたがる学生がいるのは、悪い気がしないものである。)

 この手は、逆に自分が夏期講習などで他大学の授業をとる際にも使える。どんな授業があるかをもとに夏を過ごす場所を決めるというなら、こういう下調べが肝要である。

教室を下調べ

 入学してからかなり経って大学に慣れた後でも、それまで行ったことのない教室の場所はわかりづらくて探しあぐねることがよくある。(部屋番号のつけかたに一貫性がない建物も多いし、内側から鍵がかかっていて閉め切りになっているドアもある。)ましてや 入学後最初の学期なら、なおさらである。新学期開始の前にキャンパス探検を兼ねて教室の場所や建物への出入り口を確認しておいた方が安心である。特に、取りたい授業が同一時間帯に重なっており実際に聴講してから決めたいという場合、授業の途中で別教室に移る必要があるので、余計に教室の位置関係などについての予習が肝要である。

学期はじめのショピング

 学期開始後2〜3週間は、登録科目を変更できるような融通を持たせている大学が多い。これを利用し、多少なりとも興味のある授業の開講日にはとにかく顔を出して資料をかきあつめ、先生の話しぶりなどを観察したうえで、最終的に受講科目を決めるという手もある。こういうのを学生ことばではshoppingという。Course syllabusなどの資料は、授業開始前に直接担当教官のオフィスに行ってもらうこともできる。なお、もし途中で教室を退出するかもしれないことがはじめからわかっているなら、後列の出口に近いところに席をとるのが礼儀であろう。なお、いくら規約上は科目変更可能といっても、初回から欠かさず授業に出て勉強した方がためになることは言うまでもない。

Course syllabusを熟読する

 Course syllabusとは使用教科書や授業のスケジュール、成績評価の基準などを記載した書類のことで、通常初回の授業の時に学生に配布される。これは一種の契約書のようなものなので、この書類に書かれている規定を読まずに宿題の期限を逃したりしても言い訳はきかない。Syllabusを手に入れたら、とにかく徹底的に内容を検討なさるべきだろう。

大教室にはオペラグラス



ビクセンオペラグラス 3倍28mm ブラック
出版社/メーカー:エレクトロニクス
ビクセン
メディア:ビクセン
Wiki

 大教室の後列で授業を受けていると、板書やオーバーヘッド・プロジェクターがほとんど読めないことがある。こんな時は、オペラグラスを持参すれば、最前列にすわっているのと同じ条件になる(普通の双眼鏡では焦点距離が遠すぎて室内では使いづらいこともあるので、よほどの大講堂でないかぎり、オペラグラスぐらいが適当のようである)。なお、折り畳み式のオペラグラスというのは海外では入手が存外困難である。日本から買ってもっていった方が安全ではある。

 しかし不思議なもので、前列にすわって先生のそばにいる方が、何となく授業に集中できるものである。気が散って困る、というのなら遠慮なく最前列に陣どればよいであろう。

聴講の勧め

 授業の内容に興味があるが、宿題や試験の準備までは手が回らないなら、聴講(audit)という手がある。聴講といっても、大学に正式にauditorとして登録することもできるが、担当教官とじかに話をつけて、授業に顔をだすだけという場合もある。個人差はあるものの、州立大学の先生は概して聴講希望者に寛容なようである。

 もしreading assignmentをこなすだけの時間の余裕がなさそうなら(読んでいった方がいいのは勿論だが)、なるべく話をまとめるのが上手な先生の授業を選んで聴講することをお勧めする。先生によっては関連論文を全部読んでいかないと全く脈絡のつかめないような授業をする人がいる。こういうのは、耳学問をモットーとする「聴講マニア」には向かないコースといえよう。

 なお、大学によっては、一度聴講した科目は、その後正規履修して単位を取得することを認めないこともあるから、そういう大学では必修科目などを不用意に聴講しないように気をつけよう。

 また、コースによっては、学期末に学生の研究や作品の発表会をする場合もある。そういうタイミングを見計らって顔を出すと、誰が何をやっているかが短時間で掴めて便利である。次の学期にそのコースをとろうか迷っている場合など、意思決定の参考資料にもなる。おもしろそうなプロジェクトをやっている学生にコネをつけて情報を仕入れる機会でもある。(先生も翌学期に向けてコースの宣伝になるから見学をOKしてくれることが多い。)

 なお、筆者は博士課程の所要単位をとりおわった後、かなりの数の科目を聴講した。(博士論文のプロポーザルが認可されて「博士候補生」を名乗れるようになってからさらに聴講したコースもある。)テストも受けず、term paperも出さないので気楽な気分で授業に出られたが、その方がかえって勉強がおもしろくなり、予習も結構まじめにやっていった(ただし多少なりとも予備知識があるから精神的に余裕があるのであって、新しく習いはじめた外国語のコースなどではこうはいかない)。今から思うと、あのころが一番勉強するのが楽しい時期であった。あれこれ浮気したおかげで卒業は遅れてしまったが、後悔はしていない。ただし、こういう余計なことをせずに所要単位だけとって学位論文に専心した先輩たちが、4年ぐらいで博士号をとって早く就職していることは確かである。

題目は同じでも中身が全然違う授業がある

 題目は同じでも、教官の専門を反映して中身が全然違うということがよくある。たとえ既に受講したことのある科目でも、別の先生が別の内容を教えるとなれば、もう一度聴講することを考えてみてもよい。こんな時、「既にこの科目の単位を取ってしまっているので、正式な登録はできないのですが是非先生の授業に出たいので許可してください。」といえば、気をよくして許してくれる先生が多い。

授業を中座する時は

 たとえばリサーチアシスタントの仕事の都合で、3時間のセミナーのうち最後の1時間を残してどうしても中座しなければならないとしてみよう。一度や二度の中座ならとにかく、毎回となるとかなり目障りなものである。しかし、その担当の先生が次の学期から別の大学に移ってしまうような場合、その学期に受講しなければ一生チャンスはない。こんな時、ただ黙って中座するより、あらかじめ先生に事情を話して了解を得ておいた方がいい。できればクラスの同級生にもそれとなく事情を告げておくと、「あいつは変なやつだ」と言われなくて済む。(逆に、最初の1時間はどうしても出席できない、という場合も然り。)

 もっとも、正規に受講しているクラスでこういうことをするのはお勧めできない。あくまで聴講科目に限っての例外と御考えいただきたい。

試験対策

宿題の回答を手作り教材にする

 宿題やterm paperを提出する前に、その控えをとっておかれることを御勧めする。(ワープロ打ちしたなら、ファイルをうかつに消去しないことである。)提出された宿題を先生が紛失する、なんてことも皆無ではないから、後日のために手元に証拠を残しておいた方が安全なのである。

 また、先生が忙しくて宿題の採点が遅れ、返却してもらう前にその科目の定期試験を受けなければいけなくなる場合もあるが(筆者もこれをやられて、泣いた)、試験前には自分で解いた宿題の解答をぜひ見たくなる。特に数学や統計学などの場合、宿題にはその授業のエッセンスが凝縮しているから、それを復習するのが一番効率的な試験対策になるわけである。(先生の側も、それなりに考えて宿題を課している場合が多い。大学教授ともなれば、たとえ授業自体はそんなに上手でなくても、宿題の選択についてはそれなりの目利きができる場合が多い。)苦労して自分で解いた解法の道筋を目の前にすれば、記憶がすみやかに蘇ること間違いない。これは、市販の教科書や参考書にはかえがたい「手作りの教材」の強味である。試験準備のためには

(1)まずこの手作りの資料で骨組みをしっかり頭の中に入れ、

(2)次いで時間に余裕があれば教科書や参考書で肉づけし、

(3)テストの直前にはもう一度手作り資料で整理する、

というのが必勝法だろう。時間がない場合は(1)と(3)だけでも、やらないよりはマシである。

 こういう後日の用に備えて、宿題の解答は単に答えだけを記するだけでなく、そこへ至る道筋を後でたどれるように丁寧に書いておくとよい。

  • 紛らわしい箇所にヒントを入れ
  • 教科書の参照ページを記入し
  • 索引を入れ
  • 解法のパターンを分類整理しておく

など、工夫次第でどんどん充実させることができる。

 こういう改訂作業を重ねるためには、提出物は手書きよりも電子文書化しておいた方が便利である。数式を頻繁に使うような分野の勉強をするのであれば、日本にいる間にワープロの数式機能を練習しておくとよろしかろう。
 ただし、ワープロソフトで多少こみいった数式を書くとどう頑張っても手書きよりは遅くなるし操作に気をとられるので、問題を解きながら数式を操作する用途には向かない。どちらかというと、レポートの清書用だと思っておかれた方がよろしかろう。

「教科書ガイド」を自作する

 教科書が大部すぎてどこに何が書いてあるのか一目でつかめない場合も、そこにある情報を「使う」(「問題を解く」)ことを前提として必要なページが即座に検索できるような早見表や概念図などを作っておくと科目の全体像が一目でつかめる上、後日の役にもたつ。特に教科書/ノート持ち込みのテストの場合、必要な情報をいかに素早く資料から取り出せるかの勝負になるから、そういう準備を事前にやっているのといないのとでは雲泥の差がつく。(そのためにも、その先生の出題傾向を事前につかんでおくことが重要である。)

 こういう準備を丁寧にやっておくと、何年かたってそのコースの内容を思い出そうとした時にも重宝する。実際、“博士論文を書き始めて昔ならった統計技法を使わなくてはいけなくなったが、どういうやり方だったかすっかり忘れている”というようなことはしょっちゅうある。そうやって忘れてしまっていても、すぐに思い出す術を知っていれば広義の「知っている」範疇に入るのである。

 こういう準備を通じて快心の「教科書ガイド」ができたら、自分のホームページで公開なさってはいかがだろうか。人助けになることはもちろんだがそのサイトが評判になれば学生時代から名を売ることもできるし、将来自分で教科書を書いてやろうと思い立った時も、その基盤になる実績として出版社の編集担当者を説得する材料になると思う。学生時代の苦労などいったん就職してしまうと細部を結構忘れてしまいがちである。

 さらに、「この教科書はここがわかりにくい!」という欠陥を学生の視点から補った資料が手元にあれば、将来自分の手で「理想の教科書」を完成させる上で強い味方になってくれるだろう。学生時代は自分が教科書を書く立場にたつことなど現実問題として考えにくいが、特に日本で研究が遅れているような分野では、海外で最新の研究成果を学んで帰れば教科書執筆の機会が巡ってくることもおおいにありうる。海外で通用するような一流研究者になって英語で教科書を書けるようになれば、益々もってご同慶の至りである。

例によって失敗談をご披露

 筆者がイリノイ大学に進学した最初の学期に分散分析/実験計画法の授業の期末テスト(教科書持ち込み可で、時間はたしか2時間だったと思う)を受けたおりは、いきなりぼーんと実験結果の要約が与えられ、「この結果を分析しなさい」という問題だった。予想外の出題に慌てふためいてしまい、1時間ほどは、なす術もなく呆然としていた。結局、教科書のどこかから同じ実験デザインを探し出しそこに書いてある解法をあてはめればいいのだと気づいて教科書("Experimental Design"という、910ページの大著)を必死にくりはじめ、時間ぎりぎりにようやく問題を解き終って辛くも提出したという苦い記憶がある。



Experimental Design: Procedures for the Behavioral Sciences (Psychology)
作者:Roger E. Kirk
出版社/メーカー:ハードカバー
Wadsworth Pub Co
発売日:1994-11-11
メディア:Wadsworth Pub Co
Wiki

 今にして思えば教育心理学専攻の学生のための統計学コースなのだから所与の実験結果を分析するという出題は理に叶っているし、アンテナを伸ばしていれば過去の出題傾向の情報も入ってきたはずである。(こういう場合、大部屋でresearch assistantをしていると先輩から話が聞けて有利。)そうでなくても、将来自分の研究に統計技法を使うことを考えれば、あらかじめ実験デザインの類型を分類整理してそれぞれの該当参照ページをまとめた表を準備しておくべきであった。その表さえあれば、あの問題は1時間以内で解けたはずである。上述した"Experimental Design"のような本は、何ヶ月あるいは何年か後で自分が研究計画をたてる時のための事典だと考え、その使い勝手をよくするつもりで勉強しておけばよかったとつくづく思う。

教科書選択のウラ

 わざわざ"required material"に指定して学生に買わせた教科書を全く参照しないで終る教授がいる。なかには、教科書に載っている解法と先生のやり方が異なるので、なまじ教科書を読むと余計に混乱する場合すらある。学生にとってはいい迷惑である。

 たとえばもともとその科目を教えることになっていた先生が急遽降板し、別の先生がピンチヒッターに立った場合などにこういうことがおこりうる。教える方にしてみれば、「使いたくない教科書を押し付けられた」というところなのだろう。

 また、「教科書がないとサマにならない」などというわけのわからぬ理由でテキトーに教科書を指定している先生もいるようである。新任の先生が、教科書なしで教えるのは不安なので中味をろくに調べないままとにかく名の知れた本を教科書に指定する場合もある。(教え始めてみると使いにくいことがわかってほとんど参照しなかった、と。)このあたりの背景事情も、事前の情報収集である程度はつかむことができるが、学期がはじまって「ようすが違う」と思ったら、学生側はそれにあわせて柔軟に作戦を切り替えるしかない。

スタディグループ(初級編)

 中間テストや期末テストにそなえて学生がスタディグループを作り情報交換をするのは、日米共通の慣行である。こういう時、優秀で面倒見のいい学生のグループに入れてもらうのが得策であることはいうまでもない。

 論述式のテストで論題があらかじめある程度限定されている場合など、それまでの講義ノートをつきあわせて「担当教官はどんな答えを求めているのか」を推測する作業になるから、優秀な学生の見解を聞くメリットははかりしれない。先輩などから過去問を入手し、情報を交換できるのもグループワークの強みである。特に入学一学期目の方は北米の大学の出題形式を探る意味でも、ぜひこういうグループに入る(あるいは作る)ことをお勧めする。

 とは言っても、一方的にお世話になりっぱなしでは仁義に反する。外国人をお客様扱いして特別に親切にしてくれるアメリカ人も中にはいるが、そういう好意に甘えてばかりいては、いつまでたっても対等な関係になれない。自分なりにノートをきちんと整理しておくなり、講義を録音(もちろん教官の許可を得て)してテープを提供するなり、自分のアパートを勉強会の場所として提供するなり、勉強会の際におやつや飲み物を準備するなり、なんらかの形で貢献したいものである。

過去問を公開

こういう情報ルートを持っているか否かで成績が左右されるのは不公平だというわけか、過去問を公開している先生がいる。筆者も後日大学教員として就職してからは、授業資料の一部に前年度の試験問題を含めていた。(そして同じような形式の問題を出題すれば当然前年よりは出来がいいだろうと期待するものだが、その期待に応えてくれないと心底がっかりする。逆に傾向を察知してしっかり準備してきていることがわかると単純に喜んでしまうのである。)

タームペーパー

Term paperを学位論文の基礎に

 さらに理想を言えば、毎学期のterm paperがそのまま修士や博士などの学位論文の一部をなすように周到に計画をたてておけば、最短距離で卒業できる。
 もっとも、色々なコースをとっている間に新しい興味が湧いてくるのが普通だから、あまりはじめの計画にこだわるのも善し悪しである。たとえ卒業研究には直接つながらなくても、違う分野の研究方法を学ぶことで視野が広がることだってある。昔書いたタームペーパーが、就職してから新しい研究をはじめる端緒にならないとも限らない。
 要は、「paperの為のpaperを書くのは時間の無駄だ。」ということである。

書きやすいところから書く

 初心者が犯しやすい誤りの一つが、論文を第1ページ目から順番にゴリゴリ完成させようとすることである。実は学術論文の冒頭は要約や導入などは、全体像がつかめてからでないと書きにくい箇所である。こういう箇所は後回しにして、書きやすい箇所から書くのが効率のいいやり方である。そのうちに、導入や要約に何を書いたらいいか、頭の中がだんだんまとまってくる。

 筆者がよく使う実験報告論文の執筆順番は:

仮説→手続き→結果→考察→結論→先行研究紹介→導入→要約

という順番である。「付録」は必要に応じて書きたしていく。

 もちろんこれは大雑把な流れであり、逆に「要約」を書いているうちに「手続き」の書き方が不備なことに気がついてそこに手を入れる、なんていうことはよくある。「考察」と「結論」を書いている最中に、仮説を書き換えた方が論旨がまとまると気付く場合もある。ワープロが遠慮なく使える今日、原稿書きは漆塗りやカンナがけと同じく何度も手を入れて徐々に完成させていく作業であると考えた方がよい。

 とにかく、行き詰まったらそこに固執せず、書きやすい他の部分を先に書くとよい。(たとえば同じ「考察」でも、難しい論点をまとめるのに行き詰まったら、先に易しい論点を書くとよい。)なお、文献データベースソフトを使っていれば、文献リストは自動的にできあがる。本文に収めきれなかったデータを報告する「付録」も、スプレッドシートやデータベースソフトなどの用法に習熟していれば、結果を整理していく過程で自ずとできあがっていくことが多い。

 書いている最中に頭がパンクしていよいよこれ以上頭の中で考えが考えが進まないと感じることがあるが、そういう時こそスペルチェッカーや文法チェッカーをかけたり、草稿を印刷したりするとよかろう。印刷した草稿を喫茶店にでも持って行って、おいしいコーヒーをすすりながら普段とは違った環境の中で眺めてみよう。モニターの上では気づかなかった論文の穴が、紙の上で見ると歴然とするということがよくある。特に構成上の欠陥を発見するための媒体としては今のところ、何枚も横に並べて一目で見渡せる紙の方に軍配があがるようである。(これはこれでインターフェース研究の面白いテーマである。)こういう目的のためには、草稿といえどもページ数を表示して印刷するようにしよう。

 それでも頭が働かないというなら、2〜3日休んで他のことをやってからもう一度見直すといいアイデアが涌いてくることがある。その間に草稿を知人にわたしてコメントを求めるのもいい手かもしれない。ページの左側に行数を表示させるという機能も高機能ワープロにはついているが、これは第三者に草稿を渡してコメントを求める場合に便利である。(もっとも草稿の余白に直接コメントを書き込んでもらった方が相手の手間が省けるし、最近では“電子メールにファイルをくっつけて送ってくれ”という人が増えているが。)

 ただし、友人に助けを求めるのなら後でその分何らかのお返し(相手の書いた草稿を読んでコメントしてあげるなど)をしなければいけないのは大人の常識であろう。それができないようなら、まだ対等の仲間としてグループに加わる資格がないことになる。

こんなプロジェクトも可能

 タームペーパーというと、大抵は何かのテーマに関して調査実験をしたり、文献をレビューしたりとお決まりのパターンが多い。しかし、智恵を絞ればそれ以外にもいろいろなプロジェクトが考えられる。たとえば将来の学位論文の準備としてやっておくといいのが、特定のテーマをめぐるannotated bibliographyの作成。初級レベルの授業ではあまり専門化したテーマを選ぶよりもこういう全体を眺め渡せるプロジェクトを選んだ方が視野が広がっていい場合もある。

 教授としても本音をいえば、新奇な分野に関して大学院生が文献の下読みをしてくれると助かる。(特に、教授が読めない外国語の文献を要約して整理してあげれば便利この上ない。)研究方法論の授業なら、関連するインターネット上のリソースのリンク集を作るのも自分にとって、周囲にとって、将来役にたつプロジェクトである。

ただし、こういう目新しいプロジェクトを選ぶにあたっては、あらかじめ教官の承諾を得ておくことが絶対必要である。

裏紙を使うなら

 紙資源を節約するため、草稿を印刷する時は使い古しの紙の裏側に印刷することを励行しておられる方がおられる。【環境問題の専門家の間では、「危機に瀕しているのは熱帯の広葉樹林であって、紙の原料となる針葉樹林は関係ない」という議論もあるのだが】「地球に優しい」環境保護の姿勢と「もったいない」精神は大いに結構だと思う。
 とはいえ、何かのはずみで紙がばらばらになってしまうと、どちらが表かわからず大混乱に陥ることがある。これを防ぐ方法は簡単、「使用済み」の裏面にあらかじめペンか濃い鉛筆で斜線をサッとひいておけばいいのである。わずかの手間で後日の混乱を防ぐことができるから、億劫がらずに習慣づけよう。(このぐらいの軽作業なら電話をかけたりテレビを見ながらでもできる。)特に使い古しの紙に印刷したものを第三者に渡す時は(たとえ相手がクラスメートや後輩でも)、このぐらいの気遣いは必須である。

アウトライン機能

 マイクロソフトワードやワードパーフェクトのような高機能ワープロには、草稿作りを支援するための「アウトライン」という機能がついている。論点を箇条書形式で並べ、順番を入れ替えたり章の構成を組み替えたりする作業を簡単にできるようにしたものである。特に論考中心の論文を書く場合に、役に立つ機能だと思う。(少し長い論考になると、こうやって考えをまとめそれを適切な順番に配列するのがタイヘンなのである。)

 とはいえ、これにも好き嫌いがあるので、読者がそれぞれご自分で試してみられたい。特に学期末プロジェクトで文献レビュー論文を書く際など、試しにアウトラインを使ってみて慣れておくと後で大きい論文を書く時に億劫がらずに使えるだろう。

 ご参考までに、アウトライン機能には各社ワープロ間の互換性がない。例えばマイクロソフトワードで作ったアウトライン文書をワードパーフェクトで読み込むとただのテキストになってしまい、オリジナル文書の階層関係が失われてしまう。(逆も然り。)

同じペーパーを2度出してはいけない

 無断で複数の科目に同一のペーパーを提出するのは一種の不正行為とみなされる。(「自分で書いたペーパーだからいいじゃん!」という理屈は通用しない。)複数科目にまたがって関連の深いプロジェクトを行なうつもりなら、あらかじめその旨の了解を双方から得ておくべきである。

 同様に、先学期「認知心理学」に提出したペーパーを次の学期にそのまま「心理言語学」に提出する、というのも反則である。ただしその科目で勉強したことを反映させてさらに内容を充実させるのであれば、OKが出る場合もある。いずれにせよ、「このペーパーは、XX年に〜教授の 〜セミナーに提出したプロジェクト報告に加筆したものである。」などときちんと記載しておこう。そうしないと、ばれた時のお仕置きがこわい。

ペーパー提出時の体裁

 アメリカの大学では、タームペーパーを提出する際にプラスチック製のかっこいい表紙(文房具店で売っている)をつけたり袋状の半透明なケースに入れたりする学生が結構いる。確かに見栄えはいい。

 しかし、そういうペーパーを100枚近くも受け取って採点する教授の側は果たしてどう感じるだろうか?受け取る側にとっては、こういう凝った体裁のペーパーがさして有り難くないのである。大論文ならいざしらず、10ページやそこらのペーパーにプラスチック製の表紙をつけるのは大袈裟だし、持ち運ぶ際もかさばる。(自宅に持ち帰って採点したい時、少しでも軽い方がありがたい。)ページをめくるのも面倒である。それよりも、ホッチキスでパチンととめて提出してくれる方がよほど便利である。

 なお、ペーパーをホッチキス止めするときは、左上の一ケ所だけにしてほしい。(そうするとページが簡単にめくれるから、便利なのである。)

 ましてや、ペーパーを袋に入れて提出されると、中身を点検するために一々袋から取り出さなければならず、面倒なだけである。袋に入れて提出するのは、テープやフロッピーディスクなどホッチキス止めできない資料を添付する時だけに限った方がいいと思う。なお、中身の散逸を防ぐのが目的なら、ジッパーなどで袋を閉じることができるようなものを使った方が安全だろう。

 もっとも、これも先生によって方針が異なるので、一応当人に確かめておかれるのが安全だろう。学科によっては統一したガイドラインを作っているところがあるが、これは教官にとっても学生にとっても便利だと思う。MBAなどでは、タームプロジェクトがそのまま将来企画書や稟議書を作成する練習になる場合もあるから、本番に備えて「体裁もできるだけかっこよく」と言われるかもしれない。また、コーヒーを飲みながら採点する習慣のある教授の場合、コーヒーをこぼした場合に備えてカバーがあった方がいいと思うかもしれない。

授業を利用して論文を推敲する

 筆者はハワイ大学の修士時代(1984〜1986)に書いたタームペーパーを膨らませて卒業研究にし、イリノイ大学の博士課程に進んでからはそのペーパーに加筆した上でMaster's thesis equivalent paperとして提出した。(修士時代に正式な修士論文を書かなかったので、その分余分に仕事をさせられたわけである。)

 その間、分析のために統計学の授業を余分にとるなども必要になり、結局その研究が雑誌に掲載されたのは初稿から数えて5年後の1991年春、就職する直前であった。こういう悠長なことはマイナーな研究分野だから許されることで、同じ分野に多くの研究者がひしめいている領域では一刻も早く発表しないと研究そのものが時代遅れになりかねない。

 とはいえ、筆者の場合はその間にいろいろな授業に出て見聞を広げる機会があり、そこで新たに仕入れた関連情報を件の論文の論考部分にどんどん書き足していったので、最終的には初稿よりははるかに充実した論文になったと自分でも思う。(修士時代に書いたものを今読みなおすとあまりに幼稚な論考で、恥ずかしくて人様にはお目にかけられない。)

 筆者は「たまたま」めぐりあわせでこういうやり方になってしまったのであるが、この手を計画的に使うこともできると思う。何か気にいったペーパーが手元にあれば、関連科目を受講するたびにその内容を拡充していく(その一部をタームペーパーとして提出できれば一石二鳥)。何学期かたてば最初のものとくらべて見違えるように充実していることに気づくだろう。そうやって自信がつけば、どこかの雑誌に投稿することを考えてみてよい。

 特にレビュー論文をこの手で書くのは非常にうまいやり方だと思う。異なる教授・授業の視点をふまえて論考をどんどんふくらませていくことができるからである。これは学生時代の特権ともいえる。教授として就職してしまうと他の教授のコースをたくさん聴講しているような時間の余裕はない。

 なお、こうやって推敲したペーパーが学位論文に結び付けばいうことなしだが、そこまで先のことは決められないにせよ、授業から自分の役にたつものを最大限引き出せれば受講した甲斐があったというものである。

中心トピックを決めて受講しよう

 成績評価が試験によるものなら、毎回の予習をしっかりやって授業についていけばおのずと好結果が残せる(はずだ)が、term paperを書くコースだと、これだけではすまない。理想論としては、あるコースを受講するにあたっては、開講前にあらかじめterm paperのトピックを何にするか決めておきたい。一つのトピックにしぼり込むのは無理でも、せめていくつか案ぐらいは持っていると的を絞った勉強ができる。学期のなかばでトピックを報告させる先生が多いが、まだ分野の全容がわからないのに、どんな研究をするか決めさせるなんて無理な話である(最後の週に扱う内容が一番おもしろいかもしれない)。しかし、授業が全部終わってからトピックを決めるのは、制度上困難である。そんなことをしたら、休みは毎回積残しのterm paperをかかえて、他のことなどしていられなくなる。term paperを学期終了以後に出す(incomplete)のを嫌がる先生もいる。こういう事態を避けるためには、コースの概要を事前に研究しておいて、あらかじめ絞り込んだトピックに焦点をあてて勉強するのが理想的である。そのためにも、情報収集が大事である。

Proposalを持って相談に

 余分な周り道をしないためにも、term paperを書き始める前に、1度は担当教官に相談に行きたい。論題の適確性、研究の進め方など、色々アドバイスをくれるものである。たとえ大した助言はくれないにしても、一応教官の承諾を受けておかないことには、「そんな論文は受け付けられない」と後でつむじを曲げられたら大事だ。

 教官に相談に行く時は、簡単な(1ページ前後)proposalを持って行きたい。これがあると、教官もコメントがしやすい。2〜3プランがあってどれにしたらいいか迷っているなら、それぞれについてproposalを書いて持っていき、助言を仰ぐことをお勧めする。

Proposalの構成

  • Title (論文の題目)
  • Rationale(何のためにプロジェクトをするのか、そういう研究をする学問的/実用的な意義は何か)
  • Nature of the project(具体的に何をするのか、実験や調査ならその手続き、文献研究なら範囲と目的)
  • Literatures(参考文献)

 なお、学位論文の執筆にとりかかる段階になれば、いやでもプロポーザルを書かざるをえない。タームペーパーのプロポーザルは、その練習にもなるだろう。

先輩のトピックを参考に

 Term paperの題目を決めないといけない時期になっても、いいアイデアが浮かばず困ることがある。そんな時は、先輩がそのコースでどんなterm paperを書いたか、参考にするといい。教官もそんな資料は大概そろえていないので、人脈を頼るしかないが、先輩の道をたどるといい知恵が出てくるものである。(本来なら、こういう情報はインターネットで公開してもらいたいものである。)最近の研究雑誌を覗いてみるべきことはいうまでもない。

論文の形式を学ぶ

 北米では学術論文における文献の引用のしかたから見出しのつけかた、図表の作り方などに至るまで、ことこまかな約束ごとがある。これを守らないとまともな学術論文だと認めてもらえない。この約束ごとのことを「スタイル」とよぶ。学位論文や雑誌投稿は、所定のスタイルを守っていないとつきかえされることすらある。

「なんで書式なんかにそんなうるさいことをいうのか?」というと、論文の書式というのはいわば紙上のインターフェース規格だからである。その一貫性が高いほど読者はどこに何が書いてあるか迷わず探しだすことができ、スムーズに読めるからである。逆にスタイルの統一性のとれていない学術雑誌はいわばインターフェースが一貫していないソフトウエアやOSのようなもので、ユーザー(読者)にとっては紛らわしいことこのうえない。学術論文というのは忙しい研究者諸賢に「読んでいただく」ものであるから、こういう点にも心を配りたいものである。

 このスタイルを詳述した虎の巻が「スタイルマニュアル」とよばれる文書で(「留学関連文献解題」参照)、書店経由で入手できるから自分の専攻分野でよく使われるものをなるべく早く(できれば入学と同時、あるいはそれ以前に)手に入れてマスターしておき、学位論文や雑誌への投稿はもちろんのこと、タームペーパーなどもそれに則って作成したい。

 Term paperなら最初は多少形式が不備でも大目に見てもらえるかもしれないが、どのみち覚えないといけないことなら、早くなじんでおいた方がいい。形式がしっかりしていると、先生にも好印象を与えられる(ボーダーライン上の学生の場合、こういう「印象点」が結構成績判定に響くのである)。後日タームペーパー(の一部)を卒論/修論/博論や雑誌論文に引用することは大いにありうるのだから、最初からスタイルを守っておいた方が何かと便利である。

 このスタイルにはいくつか種類があって学問分野によってもどの形式にしたがうかが異なるので、学科の先生に尋ねてみるべきであろう。おなじく人文系でも、文学のような分野ではMLA styleが使われるが、応用言語学のように実験や調査をともなう分野だとAPA styleが一般的である。それぞれのstyleを解説した詳細なmanualが出ているから、一冊は手元において、常時参照なされたい。

 なお、本格的な英文ワープロにはStyle sheetという機能がついていて、これを使うと指定の書式にあわせて論文を書くのが非常に楽になる。一度準備すればあとあとまで使えるものだから、なるべく早くStyle sheetをマスターすることを御勧めしたい。せっかくなら、学位論文に必要なstyle sheetを一学期目に作ってしまって、それを使って毎学期term paperを書くようにすればあらかじめ形式に慣れることができるし、将来term paperの一部を学位論文に再利用するのもぐっと簡単になる。

 なお、style sheetは簡単にimportできるものだから、友人数人と協力して作って、共用することも可能だろう。(本来なら、主要なワープロソフトの標準style sheetは学科で準備してもらいたいぐらいである。逆に、自分で開発してクラスメートに配布すれば、「頼れる奴」として印象づけることができる。インターネットに強い方なら、自分のFTPサイトにおいて公開なさってもよろしかろう。)

中間報告

 Paperの草稿を早めに書き上げて持っていくと、コメントしてくれる先生がいる。それをとりいれて加筆すれば、先生のオボエがめでたくなるのはいうまでもない。(先生によっては、こういうフィードバックを与えるのをunfairとみなす人もいるから、事前に方針を本人に確かめるしかない。)



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