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北米留学上級技術マニュアル - 右-左の対立軸はどこに?


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Buchananの政策

 1991年の大統領選挙では、湾岸戦争に快勝して一時圧倒的な支持率を記録した現職George Bushがそのまま押し切るかと思われた。ところが党内右派の論客Pat BuchananがBushの政治姿勢を厳しく批判して党の予備選挙でかなりの票を集め、Bush陣営としては身内の反乱で大いに足を引っ張られることとなった。これが災いしたのか本選挙では、最初全く無名だった民主党のAlabama州知事Bill Clintonに破れ、再選を逃すこととなった。

 この時Buchananが唱えた対外政策は一種の「小アメリカ主義」といってよく、日本人からみると外交・軍事に関する限りBushやClintonよりBuchananの方がよっぽど「左」かと思ってしまうぐらいである。いわく、

  • 在外米軍削減(在日米軍も含む)
  • 海外派兵の抑制(湾岸危機の時も、Buchananは最後まで開戦に反対していた)
  • イスラエル支持の再検討
  • North American Free Trade Area (NAFTA) に反対

と、政策レベルではNoam Chomsky(アメリカの有名な左翼言語学者)や日本共産党とも限定共闘ができるかと思わせるぐらいである。「NAFTAはアメリカ人労働者の職を奪う。」なんていうのは、Chomsky の主張とピッタリ一致する。もちろんBuchananは進歩主義や反戦・平和主義の立場からこういう政策を打ち出しているわけではなく、過剰な対外関与がアメリカの国力・国富を不必要に消耗し、国益を損ねると主張しているのである。(Buchananが「左翼」でない証拠に、御当人は故R. ニクソンを師と仰いで尊敬していると今でも公言している。)



病むアメリカ、滅びゆく西洋
作者:パトリック・J. ブキャナン
出版社/メーカー:単行本
発売日:2002-11
メディア:成甲書房
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対イスラエル政策

 概して、共和党よりは民主党の方がイスラエルに対して甘いようである。現に、イスラエル承認に踏み切ったのは民主党のトルーマン大統領である。ユダヤ人は黒人とならんで民主党の重要な票田の一つであるから、その意向に逆らうのには政治家として勇気がいる。特にユダヤ系アメリカ人は投票率が驚異的に高い(90%以上)うえに、概して民主党寄りとはいっても一辺倒ではなく(これも政治的影響力を高めるための民族の知恵だろうか)、しかも医者や弁護士、実業家など社会の要職にある者も多いから、組織的に造反されたらかなりの有力政治家でも次の選挙はあぶなくなる。単純小選挙区制のアメリカでは中間派の票の取り込みいかんで勝負が決まるから、「まとまった票」を動員できる相手を正面切って敵に回すのはもっとも危険な行為である。

 一方、共和党の右派はキリスト教会系運動家に牛耳られているから、どうしても反ユダヤ的な傾向を帯びやすい。宗教を抜きにしても、共和党の中には「トルーマンが国際情勢を考慮に入れず意気がってイスラエルを承認したばかりに、アラブ諸国を敵側に追いやり、アメリカの国益が損なわれた」と残念がっている人が少なくない。(共和党というのは、こういう点では確かに「現実的」である。)

 いや、民主党員の中でも内心そう思っている人は結構いるようである。「イギリスがイスラエルという国を中東に作ったおかげで漁夫の利を得て一番得をしたのはソ連で、損をしたのはパレスチナ人とアメリカだ。」と言った人がいたが、結果論としてはあたっていなくもない。イスラエルに対する義理立てがアメリカの国益を損ねているというのは、今やかなり行き渡った「声なき声」である。(余談ながら、ソビエトが日本の北方領土を占拠したおかげで、外交・安保上日本をしっかり抱き込み一番得をしたのはアメリカだろう。)

 その「声なき声」も、軒並み親イスラエル系の主要テレビ局ではあまりとりあげられない。主要テレビネットワークが親イスラエル的だというのは別にあやしげな「怪情報」でもなんでもなく、アメリカでは常識に近い。それが証拠に、かつてイスラエル軍がパレスチナ難民居住区を攻撃したりしてイスラエル非難が高まると、間もなく決まってホロコーストを題材としたテレビ番組が放映された。無論「これだけ迫害をうけ虐殺された民族なのだから、安住の地を確保する権利がある。」というのが裏のメッセージである。つまり、もし日本での慣行にしたがってイスラエル支持を「右」と定義するなら、ホロコーストを題材とするアメリカ製ドラマは非常に「右翼的」な意図を持った番組なのである。(そういうアメリカ製の番組を日本で放送する時は、番組作成の背景を説明しないまま「左」とおぼしき評論家や学者が何やらムズカシイ顔をして解説を加えているから、何ともトンチンカンな印象を受けてしまう。もっとも、この種の番組が日本で放映されるころにはもともとの中東の緊張がヤマ場を越えてしまっていることが多いから、無理がないのかもしれないが。)

 以上要するに、アメリカではヨーロッパと同様、左翼のほか極右も反イスラエルである。その他、回教徒・アラブ系住民はもちろんだが、黒人運動家もどちらかというと反イスラエル的な人が少なくない。そのためイスラエル支持のユダヤ人と反イスラエルの黒人運動家がともに民主党内で呉越同舟する一方、反イスラエルという点で「右」と「左」が一致してしまうという一種の「ねじれ」が起こっている。

新旧ブッシュ政権

 2001年に就任したG. ブッシュ大統領(共和党)の外交政策は前任のクリントン政権(民主党)以上に親イスラエル的で、イスラム圏を不必要に刺激しているような気がする。これは「イデオロギーよりも実利を優先する」という共和党外交の現実主義的な伝統を逸脱しているように思うのだが、かつて共和党中道派のプリンスと目され現在はテキサスで引退生活を送っている先代のG. ブッシュ元大統領(1988〜1992在任)は、右派(「ネオコン」?)に取り囲まれた息子の政権運営を本音ではどう評価しているのだろうか?父ブッシュが湾岸戦争終盤で圧勝にも関わらずとどめをささずに敢えて延命させたイラクのフセイン政権を、息子ブッシュが強引に倒してしまったことについても意見を聞いてみたいが、もちろん本人は墓場の中まで持っていくつもりなのだろう。

「ねじれ」って何?

 上では「ねじれ」という表現を用いたが、アメリカの政界模様を「ねじれ」と見るのは日本人の謬見かもしれない。かつて日本で進歩派と言えば反イスラエル・ベトナム反戦と相場が決まっていたが、アメリカではベトナム早期撤退を唱えたロバート・ケネディが熱心なイスラエル支持派だったことなど、この二つの軸は全く一致しないようである。

 ひょっとしたら、「リベラル」の方が「保守」よりも平和愛好家が多いはずだ、というのも単なる偏見だろうか。アメリカが長期戦を戦った第二次世界大戦(ルーズベルト)・朝鮮戦争(トルーマン)・ベトナム戦争(ケネディ)はいずれも民主党の大統領の時にはじまっている。【明治日本でも、対韓強硬論を先頭になって唱えたのは、板垣退助など藩閥政府を攻撃する自由民権運動家の方だった。】

対日開戦に積極的だった民主党のF. Roosevelt 大統領に対し、当時の共和党は非戦派が主流だったそうである。とはいえ一端開戦したら率先して国のために戦うのがアメリカのエリートというものだったらしく、共和党上院議員P. Bushの息子であったGeorge Bush Sr. も大学を休学したうえ海軍に志願し戦闘機パイロットとして太平洋戦線で日本軍機と空中戦を交え、一度は撃墜までされている。

 なお、もう一つ不思議なのが、

民主党(リベラル)= 妊娠中絶自由化;死刑反対;銃砲規制賛成;動物権利擁護
共和党(保守派) = 妊娠中絶禁止 ;死刑支持; 銃砲規制反対;動物権利擁護運動に批判的

という図式である。「命は大切」という原則を通すなら、妊娠中絶禁止派が同時に死刑反対・銃砲規制賛成・動物権利擁護に回る方が単純明快でわかりやすいと思うのだが、宗教上の教義ではそうはならないのかもしれない。
もっとも、両党内でも上のような図式で完全に意見統一がなされているわけではない。例えば「妊娠中絶自由化で死刑支持で銃砲規制賛成で動物実験支持」(あるいはその逆)というような人達がどちらの党にもたくさんいる。個別の問題についてそれぞれの立場を代表する圧力団体が強い影響力をもつ政党を整理してみると、ほぼ上のような区分けができるという話である。たとえば妊娠中絶自由化;死刑反対;銃砲規制賛成派のAmerican Civil Liberty Union(ACLU)の会員は圧倒的に民主党支持者が多いが、逆に民主党内でACLUに批判的な人もたくさんいる。(「過激なリベラル ACLU」参照。)

黒人保守派の言い分

 共和党支持で保守派の黒人学者がトークショーに登場して弁を奮っているのを見たことがある。その時は、「肌の色で人権の有無を決めるのはナンセンスだ。同じようにして、受胎後の経過時間や分娩以前か以後かによって生きる権利の有無を決めるのもナンセンスだ。」という主旨から妊娠中絶の禁止を訴えていた。黒人の保守派というのはいわばマイノリティの中のマイノリティだけに風当たりも強く、そこで突っ張るためにはそれなりの理論武装をして備えているようである。【なお、民主党左派の黒人指導者ジェシー・ジャクソン牧師は中絶解禁派。】

アメリカ右翼は「反権力」か

 日本で「右派」というと学校教育に政府が介入するようないわゆる国権主義的政策の支持者とみられやすいが、アメリカの生粋の右派はむしろ地域共同体が運営する小中学校の教育内容に連邦政府が介入することに反対する傾向がある。ファンダメンタリストが強い地域だと、地域レベルで反進化論を教育にとりいれるなどの「自由」がほしいので、連邦政府に口出しされると困るわけである。当然、全国共通学力テストのような集権的政策にも反対する。
 政府の税金の使途についても右派から厳しい追及がなされることがよくある。筆者がイリノイ大学に留学していた時は授業料とは別に「PCラボなど学生用のコンピューター施設を充実させるため」と称して毎学期施設費を徴収されていた。その施設費の一部が、学生がアクセスできないスーパーコンピューターの充実に流用されていたことを最初に追及したのが共和党系の学生団体で、この時は「アメリカの右翼って、結構やるじゃん!」と感動してしまったのであった。

カーター「いい人」(?)

 アメリカ大統領のうち、アラブ系住民の間で特に評判がよかったのがJimmy Carterである。筆者のイリノイ大学時代の友人(パレスチナ人)も普段の毒舌に似合わず、「Carterは在職中、中東和平の仲介役を果たすにあたってまず史書をひもとき3000年来の中東史をつぶさに研究した上、パレスチナ人の固有の権利を認めて裁定してくれた。」と大変なもちあげようであった。あのCarterには猛勉強のシーンが似合いそうであるが、上院議員のテニスコートの割り振りまでCarterが自分でやったという噂の方はまさか本当ではあるまい。しかし、そういう噂がホントっぽく聞こえてしまうところがCarterらしい。

 それはともかく、Carterはアメリカの選挙民にはとんと人気がないが、人間的には誠実で正義感と責任感が強くて勤勉で頭がよくてとても「いい人」なのだそうである。昔ホワイトハウスで経済担当官を勤めていた某大学の教授も、ReaganとBushは「イラン・コントラで国民をだました大嘘つき」、ClintonとQuayleは「徴兵逃れをした卑怯者」と酷評したけれども、Carterについてだけは「あんなに素晴しい人は他にいない。」とベタぼめだった。(身近な人からほど好かれるCarterに対し、Reaganの方は傍にいるほどわからなくなる男らしい。)Reagan夫妻やBush夫妻に講演を頼むと目玉がとびでるほど講演料をとられるが、Carterは話があえば手弁当で来てくれることすらあるのこと。要するに、アメリカ大統領は善人には勤まらない仕事だ、ということであろうか。



信じること働くこと―ジミー・カーター自伝
作者:ジミー カーター
出版社/メーカー:単行本
発売日:2003-09
メディア:新教出版社
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 Harrison Fordが主演した"Air Force One"は全く荒唐無稽なストーリーで、自ら銃をとってテロリストと闘う大統領が実際にいるとは到底思えないが、Carterならひょっとしたらやりかねない、という印象を与えてしまう。(しかし、あんなことをやる大統領が本当にいたら困りものである。)もっとも、あの映画はもともとクリントン支持のためにつくられたのだといっているウヨクさんがいる。もしそうだとしたらHarrison Fordとクリントンのイメージが全く重ならず、政治的には完全な失敗作であった。


エアフォース・ワン 特別版
俳優等:ハリソン・フォード, ゲイリー・オールドマン, グレン・クローズ, ウェンディ・クルーソン
ブエナビスタ・ホームエンターテイメント
発売日:2004-03-19
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