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北米留学上級技術マニュアル - まえがき


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猫も杓子も留学

 猫も杓子も留学の御時勢である。40年前なら外国留学などよほどの秀才かお金持ちの御曹司/御令嬢だけがすることと思われていたが、いまや「語学留学」と称して北米やイギリスあるいはオセアニアで数か月間を過ごし、その間現地の大学で開かれる外国人対象の英語学校に通うのは、学生時代の海外観光旅行と同列の恒例行事になってしまった感すらある。

国際化って何だ?

 そして、口を開けば「国際化」。しかし、国際化ってなんだろうか?外国へ行ってしばらく過ごし、現地のことばが少しばかり話せるようになれば、それで「国際化」が進んだと言えるのだろうか。その人は「国際人」になったといえるのだろうか。

実のある留学

 英語がしゃべれる人なんかは日本中にうようよいる今、英語屋さんの時代はもう終わったと思う。ましてや、インターネットや衛星通信放送を使えば日本国内にいながらにして生の外国語教材にふんだんにひたれる時代である。英語ができるだけでは「国際人」ともいえない。今求められているのは、語学力を駆使しながら自分の持てる専門知識、技能を発揮して、語学屋さんにも専門バカにもできないような高度な交渉や案件がこなせる人である。「英語ができる人の時代」から「英語でできる人の時代」へ、とでも言おうか。語学力の強化だけを目的に長期の留学を行うのは、外交官のような特殊な職種の人でもない限り、有効な時間の使い方とは思えない。せっかく外国で学ぶ機会があるなら、現地の教育機関で、高度な専門知識・技能を身につけたいものである。

留学は得か、損か

 これは、「留学は得か、損か」という問題にもからんでくる。容易に陳腐化せず、将来のキャリア形成の上で有力な武器となるような技能や知識を身につけることが留学の目的でなければならない。留学生や海外駐在員が必ずしもエリートでなくなった今日、むしろ数年の留学を終えて帰ったら日本はすっかり様変りしていて、浦島太郎となりはてた、という話も聞く。それだけに、留学を計画するにあたっては、卒業後までも見すえた、堅実な計画をたてる必要を感じる。(但し、就職なんか関係なく自分の好きな学問を思いっきりやれれば悔いはない、という覚悟がおありなら、「どうぞ頑張ってください」と申し上げるのみである。)

「留学上級技術」とは

 「留学上級技術」と銘打ったのは、留学を初級、中級、上級の3つのレベルに類別するのが問題を整理する上で好都合だと筆者が考えているからである。

  • 「初級留学」とは、言語や文化慣習を含め見聞を広げるためのもの。短期の語学研修などがこれにあたる。ここでは、専門知識の習得はそもそも目的に含まれない。
  • 「中級留学」とは、外国でのアカデミックな生活を経験するためのもの。大学間の交換留学などがこれにあたる。期間は1学期か、せいぜい1年であろう。いずれは日本に帰って日本の大学を卒業することが見込まれている。専門分野の科目を受講することがあっても、その成績によって卒業の可否が決まるわけではないから、まだまだ気楽な身とも言える。
  • そして、「上級留学」とは、専門知識・技能の確立のためのもの。留学先で学位を習得しようという目的の留学がこれにあたる。通常少なくとも一年半から2年、場合によっては10年以上を要する大仕事である。

留学生は自営業者

それを達成する最小限の三つの鍵は、

  • 「資金」
  • 「学業」(「成績」や研究の進行)

そして

  • 心身の「健康」

である。この三つをバランスよく維持しなければ、留学は中断されてしまう。それに対して責任を持てるのは、最終的には本人しかいない。 留学生は一人一人が独立採算の自営業者だと思っておかれたい。

 このマニュアルの狙い

 人生の岐路になるような重大な決定なのだから、他人の敷いてくれたレールの上を疑いもなくそのまま走るわけにはいかない。刻々と変化する状況に応じて様々な意思決定を、自分でしなければならない。長期留学はまさに七転び八起き、思わぬ計算違いで当初の予定が狂った時も、即座に頭を切り替えて次善の策を練らないといけない。いつまでも過去の失敗にこだわってくよくよしていると、次に訪れたチャンスも逃してますます傷を深くしてしまう。留学を志される方はぜひ、転んでもただで起きないしぶとい(= tough)留学生になっていただきたい。不測の難局を最小限の被害で乗り切る危機管理(risk management)ともに、運良く回ってきた好機を最大限活かす機会管理(opportunity management)──などということばはないが──の技術も必要である。そのようなオーダーメードの留学の技術に関する情報を提供するのが、このマニュアルの目的である。

 いかに各人各様のオーダーメードとは言え、服地の見分け方やデザインの選び方には様々なノウハウが存在する。むしろ、自分で様々な決定をくださないといけないだけに、そのような経験則を一応頭に入れておく必要が高いとすらいえる。 絶対こうやったらうまくいく、といえる場合ばかりではないが、

「こういうケースでは、少なくともこれこれの可能性を検討してみる必要がある。過去に、しかじかの失敗例があった。」

というようなノウハウはある程度一般化できるものである。特に、出願から現地入りまでの間に起こる手続き上のご相談の8割は、このような「想定問答集」によってお答えできるか、有益なヒントをさしあげることができると思う。現地での学生生活がはじまってからは、さすがに起こる問題も千差万別であるが、それでも5割ぐらいの質問はいわゆるFrequent Asked Questions (FAQ)つまり多くの人が一度は抱く疑問であり、それに対する処方も共通化できる部分があると思うのである。

 「肝心のこと」を伝えたい

 ここで御紹介するのは、筆者が1984年に20代なかばで渡米して以来、ハワイ大学(University of Hawaii at Manoa)で英語教育学(English as a Second Language)の修士号、イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)で教育心理学 (Department Of Educational Psychology)の博士号を取得するまでの8年間の留学生活および、その後大学教官としての経験を通じて、「あの時これを知っていさえすれば!」とほぞをかんだ数々の経験の集積でもある。実際、「5年前、10年前、あるいは20年前に人生の岐路に立って難しい選択を迫られていた自分自身に対して、今日の視点から最善のアドバイスを送ることができたら…」と夢みたことが一度もない人は少ないのではないだろうか。この留学技術マニュアルは、筆者のそんな夢を別の形で実現しようとした、留学を志す読者に対する「未来からのメッセージ」でもある。

 無論筆者も渡米に先だってはいくつかの留学案内書に目を通していたが、実際に志願者、学生として様々な問題にぶつかってみると、通り一遍の案内書には、志望校側の手ごたえの探り方や学期なかばで精魂尽き果てた時の緊急対策など、こちらが一番知りたい肝心のことが書かれていないということにいやでも気づく。むしろ留学経験者の生の体験談の方が「いざという場面」に直面した時の臨場感が伝わってくるが、反面、個人の成功談や失敗談はしばしば特殊すぎてそのままでは異なる状況下に転移できないことが多い。そのギャップを埋める留学技術の徹底した解説書の必要性を痛感した。その後筆者は大学教官として多くの方の留学相談に応じてきたが、そこでも基本的な留学のノウハウをお伝えする必要をひしひしと感じたのである。過酷な状況下でのサバイバルのノウハウの集約としては、次の世界的名著の域に一歩でも近づきたいと願っている。



民間防衛 新装版―あらゆる危険から身をまもる
出版社/メーカー:新書
原書房
発売日:2003-07
メディア:原書房
Wiki

 敢えて技術論にこだわる

「またマニュアルか。」と眉をひそめる方もおられるだろう。何でも技術の次元に還元してしまう風潮が批判を浴びているのは、筆者も承知している。技術論を補う留学の目的論が求められるところだが、筆者が今回技術論に絞って情報提供を企てたのは、そのような目的論の重要性を認識していればこそである。専攻分野、研究テーマ、将来目標などによって目的論はそれこそ各人各様であり、ほとんど哲学にすら通ずるといえる。そのような訓戒を、せいぜい狭い自分の専門のことしか知らない筆者が垂れるのはそれこそ僭越であろう。このマニュアルに述べるようなノウハウを参照することでいらざるトラブルを未然に防ぎ、節約できた時間とエネルギーを本来の勉学および将来設計の立案にあてていただくよう願ってやまない。安全な登山やセーリングの方法論を学ぶためには時に書物をひもとく必要があるように、留学を成功させるためにもやはり技術論は必要だと信じるものである。

 がめついユーザーガイド

「留学を成功させる」とは、ただ単に目指す学位を取得するというだけのことではない。多大の資金または時間/エネルギー(多くの場合、両方)を投入する以上、そこから最大限の配当を得ようとするのは当然のことである。専門知識を深め、専門外の教養を高め、異国の文化・風土に接して見聞を広め、心身の健康を増進し、人脈を構築し、教官や先輩の知恵を拝借し、将来のキャリアへのステップとする…このマニュアルはそうやって大学というサービス機関から目いっぱい引き出せる限りの利得を引き出すためのがめついユーザーガイドでもある。そういう意味では、『東京ディズニーランド徹底攻略』の類の本と張り合っているつもりである。

勝手にライバル宣言しておく
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決定版 東京ディズニーリゾート史上最強のリピーターズ裏ワザBOOK
作者:TDR DE GO情報局
出版社/メーカー:単行本
双葉社
発売日:2006-11
メディア:双葉社
Wiki

 本マニュアルの構成

 このマニュアルの構成は基本的には留学計画の段階から卒業後まで時間軸に沿っている。必要なところだけ参照してもらえるようにとの配慮からそうしたのだが、今はまだ「留学でもしてみようかな〜?」とぼんやり考えている段階でも、できればざっとでいいから全体に目を通しておいていただきたい。入学後・卒業後にどんな事態が起こりうるか多少でも見当がついていれば、それに合わせて留学計画を練ることも可能だからである。

 本マニュアルの範囲と限界

 とはいえ、本書に書かれている留学技術がいついかなる場合でも有効なものであると誇大宣伝するつもりは毛頭ない。筆者が見聞した事例の時期・地域・条件等の制約は免れない。筆者が見逃し、書き落としたことがまだまだ多くあるであろうとも思う。本書を一つの参考資料として、さらに、他の色々な方の意見も検討した上で、読者御自身にeducated decisionをくだしていただくことが筆者の願いである。そしてその結果、読者が独自の留学技術を編み出されたなら、是非後進のためにそのノウハウを公開していただくようお願い申し上げたい。そういうライバルサイトが続々と現われてくれることを筆者は心待ちにしている。
 もし「自分でサイトを立ち上げるのは面倒だが、何とか後進にこのノウハウを伝えたい」と御希望なら、当サイトのスペースを提供するので、コメント欄に投稿なさるかあるいは筆者あてに直接御連絡をいただきたい。

 なお、留学テストの受験料などの統計数字的なデータはあえて詳しく書かなかった。そういうデータは刻一刻変化するものであるから、受験が必要になった時点で各自お調べになった方が間違いがないと思ったからである。同様の理由で、各種の奨学金についても、最新のデータがアルクの『留学事典』シリーズなどに詳述されているから、参照なさるようにお勧めする。



大学院留学事典 (2007-08)
出版社/メーカー:ムック
アルク
発売日:2006-10
メディア:アルク
Wiki

 それ以外の点でも、このマニュアルが海外留学に関する情報の全てをカバーしているわけではもちろんない。このサイトはいってみれば隠居親爺が道楽でやっている裏通りの骨董品店みたいなもので、調度も品揃えも亭主の個人的嗜好を露骨に反映している。もっとバランスのとれた品揃えの総合デパートや名店街にあたる留学サイトをリンク集でご紹介しているので、そちらもあわせて参照なさるようお勧めしておく。
 
「品揃え」といえば本マニュアルでは日本アマゾンのデータベースを中心に様々な書籍やその他の商品情報へのリンクを貼っている。ただしこれは画像やユーザーのコメントも含めあくまで一つの情報源として掲載したものであり、必ずしもその特定の製品をお薦めしているわけではない。(特定商品を薦める場合は原則としてそのことを本文中に明記している。)紹介した書籍やビデオソフトも必ずしも著者や主演俳優の代表作とは限らず、表紙に著者の顔写真が載っているなどの理由で選んだものもある。(有り体に言えば、著作権料不要の挿絵として使わせてもらっているわけである。)

 書籍を紹介するにあたっては日本在住の読者の便宜とリンクの作りやすさを考慮して日本アマゾンの当該レコードにリンクすることを原則としているが、洋書(特に英書)に関しては当然ながらアメリカアマゾン( http://www.amazon.com/ )の方が読者評(「ユーザーレビュ―」)が豊富で充実しているので、興味がおありならあわせて参照なさることをおすすめする。

 また、この上級(advanced)技術マニュアルは少なくとも入学後の初期は「教えを受ける」立場で研鑽を積むことを想定している。入学したその学期からいきなり指導教官の共同研究者としてばりばり共著論文(場合によっては単著も)を執筆しはじめる「超上級(superior)」のレベルまではカバーしていない。



インターネットの子どもたち (今ここに生きる子ども)
作者:三宅 なほみ
出版社/メーカー:単行本(ソフトカバー)
岩波書店
発売日:1997-07
メディア:岩波書店
Wiki

逆に初級留学や中級留学にも、おのおの固有の達人技があろうかと思う。各レベルならではのノウハウについては、それぞれの経験者に教えを乞われたい。

「初級留学」(語学留学)のノウハウ本
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語学留学指南―知っておきたい語学留学の幻想と成功条件
作者:本橋 幸夫
出版社/メーカー:単行本
ナカニシヤ出版
発売日:2005-11
メディア:ナカニシヤ出版
Wiki

 反面、筆者が見聞した範囲の知識をもとに、留学生にとって重要と思われるような面に関して筆者なりの北米社会の考察を試みた部分もある。「低次元の素人文明論に過ぎない。」という御批判に対しては「全くその通りです。」と開き直ってしまうつもりであるが、少しでも読者の御参考になればと思って、あえて恥をさらす覚悟で掲載した。御笑覧いただければ幸いである。政治や近代史を専門としない素人が成年に達してから北米圏に渡り10年近く過ごした場合にどういう状況理解あるいは誤解をしたかという、一つの実験としてみていただいてもよかろう。

 最後に(あたりまえすぎて書くのも気がひけるが)、筆者はいついかなる場合にも北米の高等教育機関に進むのが最善の進路選択だと考えてお勧めしているわけではないし、政策的にも現アメリカ政府に全面的に賛同しているわけでもない。日本の企業に職を求めること、フリーランスの道に進むこと、あるいはたとえ大学院に進学するにしても日本や、北米圏以外の外国の大学を選ぶことが将来の大目標を達成するための再短距離である場合も多々あるであろう。筆者は日本の大学院には行ったことがないのでその長所については多くを書けないが、北米の大学院の欠点については多少思うところもあるので、それもこのマニュアルの中でおりにふれ御紹介していきたい。

 「北米」って

 なお、以下で「北米(North America)」と称しているのは、ハワイ、アラスカを含むアメリカ合衆国およびカナダのことである。厳密にいうとメキシコ共和国も地理学上は北米大陸の一部といえようが、ここでは便宜上メキシコを除外している。(その理由はといえば、筆者はラテン・アメリカのことについてあまりにも無知であるので、書きようがないのである。遠からぬ将来、ラテン・アメリカそのほか世界各国で留学生活を経験なさった方が、それぞれこのようなホームページを開設してくださることを祈るのみである。)したがってより正確にいえば「北米英語圏留学上級技術マニュアル」とするべきところであるが、あんまり長ったらしいのも語呂が悪いという安易な理由により、「英語圏」という部分は割愛したようなわけである。

 米加両国のうちでも、筆者自身の留学および教官経験はアメリカに限られているので、カナダのことについてはアメリカからの類推の域を出ない。(実はカナダのある大学の博士課程から入学許可をいただいたことがあるのだが、一年目の財政援助の保証をもらえなかったこともあり、迷いに迷った末に結局辞退してイリノイ大学に進んだのである。)特に、Quebec州のフランス語系の大学については、筆者は全く内情を知らない。カナダとアメリカの大学制度は共通部分が多いので本書の記述の中でご参考になる部分が多いとは思うものの、筆者がカナダの事情に通じない為の誤りもあるかもしれない。もし間違いに気づかれたら、ご面倒でも即刻お知らせいただきたい。


 お願い

 正確を期したつもりではありますが、筆者はここ数年北米を離れていますので、このマニュアルにある資料等も、あるいは改訂を要する部分があるかもしれません。また、思い違いをしている部分もあろうかと思われます。そのような箇所に気づかれたら、ご面倒でも御指摘いただけたら幸いです。その他、建設的な御批判を歓迎します。なお、文中、個人に関する情報は、プライバシー保護のため一部仮名にした部分があります。


 謝辞

 情報を提供してくださった森美子さん、杉本卓さん、城佳子さん、白井恭弘さん、井上奈良彦さん、留学情報交換ボードへの投稿者のみなさん、草稿に目を通してコメントを下さった千葉浩子さん、川村欣司さん、高木一さん、英文を校正添削して下さったレスター・ロシュキーさん、エリザベス・フランシスさんに御礼申し上げます。



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