北米留学上級技術マニュアル - されど、ハーバード
目次
別格の大学↑
前章「「ハーバードよりいい大学」がたくさんある」で縷々例証したとおり、いろいろな指標を持ち出してそれぞれの観点からランクづけすれば、その全てにおいてハーバードが最高峰というわけではない。
とはいえ。一つの社会現象としてみると、何かにつけて大学評価の比較対象として持ち出されるのがHarvardであることは間違いない。さらには、Harvardの卒業生というだけで、アメリカ社会では(外国でもそうだが)後光がさしてみえる。「創立〜周年」の節目にあたって全米のマスコミがこぞって特集記事を組む大学もHarvardをおいて他にない。「「ハーバードよりいい大学」がたくさんある」にあげたたとえ話に戻れば、孫をHarvardに送っているおじいちゃん、おばあちゃんの得意満面ぶりは、他大学の比ではない。やはりHarvardは、別格の大学なのである。
今もHarvard神話はアメリカ人の心に生きている。しかも、田舎へ行けば行くほど、そしてアカデミックの世界から遠い人ほど、素直にHarvard信仰を抱き続けている。
財テク年収6000億円↑
大前研一氏が、ハーバードの金融資産運用について解説している。
http://caspeee.jp/channels/ohmae/nYzNMWRHh0/
4兆円の大学基金を15%の利回りで運用するから、年に6000億円の利益という圧倒的な資金力である。桁が大き過ぎて実感が湧きにくいが、2008年度の京都府(人口約260万人)の一般会計予算額がだいたい8000億円だというから、在籍学生数約2万人の大学が財テクで稼ぐ金として6000億円がいかに凄いかおわかりいただけよう。
その金にものを言わせて優秀な学生や教授や事務職員を集めるのだから日本の大学と同じ次元でくらべようがない。むしろ、日本の大学は金のないわりにはよくやっているというべきか。
日本人の感覚だと大学の資金運用など「武士の商法」という目で違和感をもってみられ、あまりクレバーに利殖をやるとむしろ学問の府としてイメージダウンになりかねない。それにひきかえ「最高の知性を集めて最高の投資をする」と考えるのがアメリカ流らしい。
体制内野党、Harvard↑
YaleやPrinceton、MITに比べると、概してHarvardの方が野党的(必ずしも「反体制」という意味ではない)で、時の政治権力から一歩距離を置いている。イデオロギー的にも、おしなべて明らかにHarvardの方がliberalである。Harvardの所在するMasachusettes州はアメリカの中では最もliberalで民主党寄りの州の一つとして知られ、長きにわたってKennedy家の鉄壁の政治的地盤として金城湯池を誇ってきた。Harvardはminority学生の勧誘でも先進的で、そのための奨学金制度も非常に充実している。そういう大学がナンバー・ワンとして君臨しているあたりが、アメリカという国のおもしろいところである。(もっとも日本でも、他の大手商業紙にくらべるとより多くの紙面を野党的な主張に割く傾向のある朝日新聞が、長年にわたって最も代表的な新聞とみなされていたが。)
ただしこれもあくまで大雑把な傾向であり、リベラル派の新大統領が就任すると同時に、Harvardの政治学部や経済学部の教授陣が大挙White House入りする、なんてこともアメリカの政治風土では大いにおこりうることである。またHarvardがliberalというのもあくまで全体的な傾向に過ぎず、保守派の論客もいる。たとえばHenry Kissingerも、かつてHarvardの教授陣に名を連ねていた。
もっとも、Kissingerはもともと、共和党内では穏健派で対ソ融和志向のネルソン・ロックフェラー系のお目付け役として、ニクソン政権に送り込まれたのだそうである。同政権の大統領補佐官・国務長官として国際舞台で辣腕を奮ったためKissingerにはタカ派的なイメージがつきまとうが、ニクソンとは違ってイデオロギー的な反共意識は薄い人物らしい。それにしても、米ソ接近を実現せんとニクソン政権に参画したKissingerが米中接近・ソ連包囲網形成の密使役を果たしたとは、皮肉なめぐりあわせである。
ハルバースタムのHarvard論↑
Harvardの性格づけについては、『アメリカジャーナリズム報告』(文春文庫)で立花隆氏のインタビューに応じてディビッド・ハルバースタム(1955年のHarvard卒業生)が面白いコメントをしている。
ハーバード大学というのは体制側というものをあくまでも包容し、エスタブリッシメント【原文どおり:引用者注記】を育てはぐくむ学校であるということになっております。…ハーバードは伝統的に上流階級のための学校でした。むかしはハーバードにいく学生の八割ないし九割が、立派な予備校【prep schoolのこと:引用者注記】を出た人たちで、予備校というのはやはり上流階級のシンボルだったわけです。私が少年であったころ【1940年代:引用者注記】には相当の金持ちでなければ入れなかった。ところがコネント氏が学長をしていたときに、ハーバードは民主化しなければならないということが言い出されて、いままでのようにエリート的な学校であってはならない、変化しつつあるアメリカの社会の中でいつまでもエリート子弟のためだけの学校として存続していくことはできない、もっと一般の子弟に門戸を開放すべきであるという方針が打ち出されました。…かつて民主化がなされたという背景の裏には、いままで支配階級の子弟だけを入れていた学校の門戸を開放することによって、非【原文どおり:引用者注記】支配階級の子弟にもこれを開放する。そして非支配階級の子供たちの中で一番できのいい子供たちがこのような学校にいくことによって体制側に対する奉仕をするような立場で教育を受けることができるようになる。そういう意図でもって門戸が開放されたんです。この結果出てきた人物としてキッシンジャー【ドイツ系ユダヤ米人:引用者注記】だとかブレジンスキー【ポーランド系米人:引用者注記】のような人たちがいるわけです。…これは相当にやはり緻密な計算がなされた上でのことだったと思います。いままで支配階級でなかった家族の子弟をハーバードに学ばせることによって、支配階級あるいは体制側のもつ価値体系というものを彼らに植え付ける。そして彼らがそれを自分の一部として巣立っていくということを目的にしたわけです。
(147〜150ページ)
うぅむ、伝統を打ち破って時代の先取りをした大胆な改革も、逆にさすがestablishmentの「本家」ならばこそできたとわけであろうか。「改革こそが米国establishmentの本領」とでもキャチフレーズをひねりたいところ。(ただし、学問的な面ではHarvardはやはり概して守旧派らしい。Harvard内部の方から「うちの大学は古くさくて新しいことがなかなかやれない。」と不満の声を聞くこともある。そのせいか否か、人文社会科学や理医学系の令名にくらべると、Harvardの工学部は地味である。)
なお、ハルバースタムは「ハーバード大学というのは体制側というものをあくまでも包容し…」と語っているが、「必ずしも体制側を包容しない大学」としてはどの大学がハルバースタムの念頭にあったであろうか。これについてはハルバースタムは語っていないので想像をたくましくするほかないが、本人に尋ねたらあるいはUC Berkeleyの名を挙げたかもしれない。
長文の引用をさせてもらったから言うわけではないが、『アメリカジャーナリズム報告』はアメリカ社会論としても秀逸である。是非、ご一読を。
この御威光を見よ!↑
"The acceptance letter you received from Harvard is not a mistake."↑
Harvardの教育学部修士課程を卒業した女性から聞いた話。
Harvardの大学院から入学許可通知の手紙をもらって、まず大抵の応募者はわが目を疑う。毎年秋の新入生歓迎セレモニーでは、
「みなさんに届いた入学許可通知は、間違いではありません。」
とアナウンスして笑いを誘うのが、恒例だとのこと。次に続くせりふは、
「私もHarvardから入学許可をもらった時は、間違いだと思いました。」
(実際、いつの日にか名門大学の教育学部大学院──できればスタンフォードかシカゴかハーバード──に進みたいと夢みている教育関係者が、とりあえず最初は小手調べのつもりでハーバードに出願して手応えをみようとしたところ合格通知が来てしまった、というのも珍しくないそうである。志願者の選考に学生を参加させるのも、ハーバードの教育学大学院のユニークな伝統である。)
入学後はことあるごとに、
「Harvardの卒業生だというだけで、周囲はみなさんを特別な目で見る。その期待を裏切らぬように活躍してほしい。」
と言われたそうである。やはり、Harvardの卒業生には後光が映して見えるのである。
とかく教育学部というのは大学の内部では些か軽く見られがちだが、その教育学部においてすら然り。ましてや、HarvardのMBAや、不動の全米第一位の医学部の鼻息の荒さは、想像するに難くないであろう。
"Harvard: The Michigan of the East"↑
筆者が1988年、ミシガン大学(University of Michigan, Ann Arbor)の夏期講座参加中にBookstoreで見つけ、いたく気にいって即刻買い求めたTシャツの胸には、次のようなフレーズが刻まれている。

つまり、
「東部の片隅にあるハーバードという学校の学生が、「名門中の名門、ミシガン大学にあやかりたい」との切ない思いでこのシャツを作りました。」
という設定の洒落なのである。ハーバードの校章らしきものがちゃんとついているあたりが御愛敬。University of Michiganといえば最も伝統のある名門州立大学で昔はUC Berkeleyよりも格式が高かったというほどの老舗なのであるが、その在校生にしてなおHarvard complexからは脱却しがたいらしい。Michiganの学生は好んで自校を"State Ivy"、つまり「州立のIvy League校」と呼ぶ。中でも特に愛校心旺盛な学生が、「在学中4年間にわたる猛勉強でアイビー・リーグの学生を追い抜くのがミシガン大学の伝統だ。」と解説してくれた。
因に、"Harvard: The 〜 of the East" というフレーズはミシガン大学の専売特許ではなく、Duke Universityなど全米あちこちの大学で似たようなTシャツを売っているとのこと。"State Ivy"という言い回しも、方々で聞いたことがある。
一方、西海岸やHawaiiに行くと、HarvardよりもStanfordやUC Berkeleyの方がよく引き合いに出されるようになる。Harvardは遠すぎて、ピンと来ないということか。かたや筆者の母校University of Illinoisの工学部にはMITに対する敵愾心を露にする教授が多かったが、ここでもHarvardはあまり意識の対象になっていなかったようである。文理医法営が本体のハーバードと農学・工学を起点として発展したイリノイでは大学のカラーが違いすぎて同じ次元で比べようがない、というのが正直なところである。翻ってミシガンの学生は、なまじ人文社会科学系やビジネス、医学の強いハーバードと同系統の大学である上に東部とは距離的にも近いだけに(ミシガン州は伝統的な地理区分では中西部にあるとはいえ、ニューイングランドと同じく東部時間を採用している)、余計にハーバードを意識せざるをえないのかもしれない。
最後に、University of Michigan関係者の方々の名誉のために申し添えておくが、ミシガン大学は実に素晴しい大学である。筆者も大学院生時代にAnn Arborで一夏を過ごした折りは、母校University of Illinoisにはないuserへの細かい気配り、サービス部門の職員の質の高さとプライド、風情のある学園町のたたずまいなどに感激してしまったものである。老爺心から、現地で知り合ったミシガン大学の若い学生たちには"You should be proud to be a part of this great institution."とことあるごとに言っていた。
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ささき(巻主) [合格おめでとうございます。暑さ寒さに負けず、御活躍ください。] 04/20 17:49
Cara_glen [来学期からUIUCの博士課程に進むことになりました。ミシガンも受かったのですが、UIUCにしたので、ずいぶん高い評価が書かれていて嬉しくなります。HPは本当に参考になります!] 04/20 14:52