FrontPage 地図 一覧 履歴 検索 メール sasac MyWiki.jp
タグ一覧

研究能力を伸ばす方法を考える - 研究テーマを育てる


目次



このページへの通算アクセス数 = 7401 件

研究テーマは「見つける」のではなく「育てる」

 いい研究テーマを見つけることは、研究者にとって最重要の課題といえる。いや、テーマを「見つける」というのはあまり適切な表現ではなく(研究テーマ探しは、道端に落ちている金貨を見つけて拾い上げるようなものではない)、 テーマを「練り」「育てる」という方が的確である。「いいテーマが見つかって運がよかったですね。」というのは相手に対して失礼千万な言い方であって、そこにたどり着くまでの目に見えぬ精進・研鑽にこそ思いをいたすべきである。
 ともあれ、そのテーマの核になるのは、research questionsである。Term paperや学位論文を書かなければいけない時期になって急に「何をしようか」と考えはじめるのでなく、日頃から研究テーマを育てあげる努力が肝要だ。授業中、論文を読んでいる最中、実験や野外調査の最中、さらにはテレビを見ている時や知人との雑談中など色々なきっかけからresearch questionが浮かんでくるものである。 思いついた疑問や研究テーマや問題意識は、とにかくかたっぱしからメモしておく ことをお勧めする。スパイラル式のメモ帳に細身のノック式ボールペンをはさみ常にポケットに忍ばせておくといつ何時でもメモがとれる。そして、折りにふれてそのメモを読みなおしてみると、その中に愚問もあれば自分でも感心するようなキラリと光る鋭い観察もあることに気づかれることだろう。その、愚問と良問の見分けがつくようになったということが、専門家としての成長を如実に示している。

 逆に、このように常に自分からresearch questionを追いかけていると、それにまつわる論文の読みも格段に深く、鋭くなっていくものである。論文の著者が自分の疑問に答えるためにわざわざその論文を書きおろしてくれたような気がすることすらある。そうなれば論旨も先読みでき、ひとことひとことが浸みいるように頭に入ってくる。速読のテクニックはいろいろあるが、知識獲得を促進する究極の方法は、情報の受け皿を知的にもその他の点でも頭の中に構築していくこと以外ない。

Research questionとHypothesis(仮説)

 Research questionとHypothesis(仮説)は、どちらも学術論文に頻繁にあらわれる術語である。ごく大雑把にいうと、Research questionとは、研究の核になる「何を知りたいのか/何を明らかにしたいのか」を端的に言い表わしたもの。それに対してHypothesis(仮説)とはResearch questionをさらに具体化して「こういう結果になるはずだ」という予想を述べたものである。予想であるからには、「〜は〜となるであろう。」という予測文形式でいいあらわすことができなければならない。

 実験科学においても、新しいテーマのとっかかりや「やってみないとわからない」ような状況では特に仮説を設けず、手探り的な試行を行なうこともある。そうやって手探りしているうちに仮説がうまれてくれば(ここまでの段階を「探索的」あるいは「仮説生成的」研究とよぶ)、今度はそれを検証するために次の研究をはじめることができるのである。

 いずれにせよ、自然科学に範をとった研究分野(実験心理学や計量経済学を含む)では、Research questionは必ずある。逆にいえば、Research questionがなければいかに洗練されたデータ収集技法や分析を駆使しようと「研究」の態をなさない。

この点を確認したいなら、自分の研究計画のResearch questionは何なのかを一文で表現してみるとよい。Research questionは「〜か?」という疑問文で述べることが可能である。その疑問文がイエス/ノーで答えられるもの(例:「火星の地表には水が存在するか。」)であればそれに対応する仮説(肯定命題「火星の地表には水が存在する。」あるいは否定命題「火星の地表には水が存在しない。」)が成立するはずであり、仮説検証型の研究といえる。一方、Wh型の疑問文(例:「火星の地表にはどのような物質がどの程度の比率で存在するか。」)であれば対応する仮説を考える必要はなく、どちらかというと探索型の研究とみなすことができる。

 いずれにせよ、そのResearch questionは、自分のやりたいことを端的に言い表わしているだろうか?これができないようなら、「何がやりたいのか」自分でもはっきりつかめていないということだから、もう一度練り直す必要があるだろう。学会や雑誌で研究成果を発表する時も、Research proposalを指導教官に提出する時も、まず何がResearch questionなのかを明確にわかってもらうのが先決である。先行研究のレビューも、そのための伏線という役目を担っている。

 なお、文化人類学などフィールドワークを重視する学問分野では、研究者が現地に行く前にあらかじめ仮説や絞り込まれたリサーチクエスチョンを設定することを戒める場合もある。「仮説を検証しようという気持ちが強すぎると、現地で起きているダイナミックスを虚心坦懐に眺めることができず、観察が偏ってしまう」というのが理由の一つである。

 とはいっても何らかの興味がなければ研究を始めることはないだろう。いわゆる質的研究法ではそういった研究興味を「リサーチクエスチョン」とよぶこともあるようだが、それは本稿でいう「リサーチクエスチョン」のような絞りをかけたものではない。むしろ敢えて絞りをかけすぎないのがプロの研究態度というものらしい。

 筆者はこういうアプローチについては専門知識がないので敢えて触れない。これらについてはそれぞれ専門家の教えを乞われたい。



ライブ講義・質的研究とは何か (SCQRMベーシック編)
作者:西條 剛央
出版社/メーカー:単行本
新曜社
発売日:2007-09-10
メディア:新曜社
Wiki



ライブ講義・質的研究とは何か (SCQRMアドバンス編)
作者:西條 剛央
出版社/メーカー:単行本
新曜社
発売日:2008-05-20
メディア:新曜社
Wiki



動きながら識る、関わりながら考える―心理学における質的研究の実践
出版社/メーカー:単行本
ナカニシヤ出版
発売日:2005-04
メディア:ナカニシヤ出版
Wiki



フィールドワークの技法と実際―マイクロ・エスノグラフィー入門
作者:箕浦 康子
出版社/メーカー:単行本(ソフトカバー)
ミネルヴァ書房
発売日:1999-03
メディア:ミネルヴァ書房
Wiki

 上に掲げた4冊はいずれも質的研究法といわれる研究方法論にもとづくものだが、実は量的な研究においても探索的なアプローチ(データマイニング)はありうる。こちらについても筆者は素人なので、入門書を紹介するにとどめる。



金鉱を掘り当てる統計学―データマイニング入門
作者:豊田 秀樹
出版社/メーカー:単行本
講談社
発売日:2001-03
メディア:講談社
Wiki

Research questionと研究テーマ

「それではResearch questionと研究テーマはどう違うんだ?」と疑問をもたれるかもしれない。例によって非常に大雑把にいうと、Research questionに答えることが各回のミッション(実験や調査など)の目的であるのに対し、研究テーマはそれら一連の研究ミッションを連ねたプロジェクト全体の達成目標であると考えることができる。

 宇宙開発を例にとってみよう。1960年代、アメリカ政府は月面の有人探査という大プロジェクトを目標(テーマ)に掲げた(アポロ計画)が、これをいきなり一度で達成するのは不可能であった。そこで、この大きな目標を目指して十数次のミッションを積み上げ、毎回のミッションでは「月まで行けるような大型ロケットエンジン(サターン)を搭載した無人機を地球の周回軌道に乗せる」、「有人宇宙船を月の周回軌道に送り、地球に帰還する」などの下位目標を一つ一つ達成していったのである。ただ単に「月に人間を送る」と言っているだけでは夢物語に過ぎないが、それを達成可能な下位目標に分割してそれぞれを当時の科学技術の粋を集めて実現したところにアメリカの底力がある。医薬品の研究開発などの分野では、このアポロ計画の場合と同じく研究テーマを具体的に言い表わすことが可能だろう(例:「AIDSの特効薬を開発する。」)。

 こういう些か「軍隊的」なやり方は、原理的に「できる」ことがわかっている分野ではとりわけ威力を発揮する。(「月に人間を送る」ことがニュートン力学に照らして原理的に可能なことは、当時既にわかっていた。)

一方、基礎的な領域の研究テーマはこのような具体的な産物と直接に結び付けられないことの方が多い。「幼児は動詞をどのように習得していくか。」とか「平安時代の庶民はどのような暮らしをしていたか。」というようなテーマも大いにありうるのである。いずれにせよ、こういった大きな問いかけに答えるべく研究活動を行なおうとすれば問題をより細かいResearch questionに分割する必要があり、逆にResearch questionをうまくたてられるかどうかが研究の成否の分かれ目にもなる。

 ともあれ、漸くResearch questionを絞り込むことができて卒論や修論を書いている最中は、ともすれば当面のResearch questionに答えることで精一杯で「木を見て森を見ず」となってしまいがちだが、こんな時こそ時には大家の講演を聞いたり尊敬できる先達に相談するなりして大局を見失わないようにしたいものである。

仮説はどこから導くか?

立証できれば、どこから出た仮説でもいい

 例:エジソンの電燈発明(フィラメントの素材:金属→糸くず→竹→京都石清水の竹)

仮説に反する結果が出た時(これが多い!)、根拠不明の仮説では報告価値がない

  ⇒どんな結果が出ても報告価値があるような研究計画が安全

  ⇒間違いであることを確認することにも意義があるような(妥当な)仮説

   妥当な仮説源 ―― 先行研究/通説からの演繹/類推、常識、慣行など

【御参考】少数サンプルに基づく定量的研究が「危ない」理由

「英語母語話者よりもアラビア語母語話者の方が漢字習得がたやすい」という仮説を検証する場合を考えてみよう。

  1. サンプル数が少ないと、母集団を正確に代表しない例外的なサンプルばかりをたまたま選んでしまい、それがデータをゆがめる可能性がかなり高い。(⇔たくさんサンプルをとれば例外値はうちけしあって平均化される確率が高くなる。)
  2. ちょっとした統制外条件のばらつき(例:「試験の当日風邪をひいていた…」)によって全体の結果が大きくゆがみやすい。(一般に、統計分析ではサンプルが多い方が検出力が高い。)
  3. 予想に反する結果が出た時、それが母集団の傾向を代表しているのか、それともサンプリングや統制外条件の偏りによるのか判断が難しい
  4. 最悪の場合、何の結論も下せないで終わるおそれがある―「仮説が間違いだ」「このやり方では予想した結果は出ない」という確信すら持てない(徳川幕府の埋蔵金を発掘しているのに、表土を20センチだけ掘って何も出ないとやめてしまったようなもの。もう1メートル掘れば見つかったかもしれない、という思いがいつまでも残る。)
  5. したがって、少数サンプルに基づく定量的研究を確実に成功させるためには特に確かな見通しや高度な研究技能が必要になる(逆に数さえ多ければいいというわけではないが…)

典型的な失敗例―リサーチクエスチョンのない「研究」

 学生「ボランティア日本語教室で教えている外国人生徒の発話を100時間分テープにとりました。これをどう整理したら修論が書けるでしょうか?」
 教官「ウッ…」

 ただし、非常に興味深い稀少な、あるいは全く未開拓の事例領域(例:「半年間で6カ国語をマスターした外国語学習の天才」)を調べるために意図的に対象を選んだ場合は、このように特定のRQをたてず集めたデータでも有益な資料となるケースもありうる。(とはいえ、目的と見通しをもってデータを収集した方がよいことはもちろんである。)

先行研究が全くない分野を開拓する時

 一般には若い研究者には勧められない(リスクが大きい)

 どうしてもやりたければ、こんな出発点がある。

  • 既にわかっていることと比較(例:「日本語学習者(JSL)は、母語話者幼児(L1)と同じように「大きいのおもちゃ」というか?」)
  • 常識の確認(例:「子供の時に外国語を習った方が、大人になってから始めるよりも発音が上手になる。」) → 常識と異なる知見が出てきてからが学問としての成熟期を迎える。

記述枠組みが整っている分野と未整備な分野

言語記述の枠組みや母語話者の言語行動の解明自体が未発達な分野の習得や教育をテーマに選ぶと、苦労が倍(あるいはそれ以上)になる。〜研究者自身が解けない算数の問題を子供がどう学習するか、研究するのは困難。

  • 枠組みが比較的整っている分野の例:「名詞修飾節の習得」
  • 枠組みが未整備な分野の例:「モダリティーの習得」「turn-takingのルールの習得」

思考実験

 せっかく考えたresearch questionなら、それを究明するためにどのような研究デザインを用いるのがいいか、あれこれ考えてみるのもいい練習になる。たとえ当面実施できる見込みはない研究であっても、手順、機材、所要期間、予算などを具体的に考えてみると、逆に自分のresearch questionsの曖昧さがわかってきたりして「本番」の時に大いに役にたつ。こういうのは頭の中で考えるだけでなく紙の上に書いてみると、整合性のない部分などが目に見えてくるものである。一人でやってもいいが、興味を同じくする友人といっしょにやると、互いに学びあえるところがあろう。現に、こういう研究計画書(研究の結果報告ではなく)をタームペーパーとして出させる先生もいるぐらいである。(10週間や15週間の学期中に関連文献の収集、研究計画の立案、データ集め、分析、考察、論文執筆までするのは、実際問題として非常に苦しい。一つのコースで文献レビューをやり、次のコースで研究計画をたて、その次の学期のコースで実施・分析をする、というようなことができれば、いい研究がしあがるだろう。)

 初心者に多い失敗の一つは、研究デザインがresearch questionへの答えを産み出すように考えられていないことである。これを防ぐためには、

  • 「Aという結果が得られればaと結論できる。」
  • 「Bという結果であればbという結論になる。」

という具合に予想をたて、その結論がresearch questionに対する答えになっているかどうか確認しておくことが望まれる。(それだけの準備をしたつもりでも、思いもかけぬ結果が出てしまって解釈に四苦八苦する、ということはよく起こる。もっとも、そういう苦闘の中から思わぬ新発見が生まれることもあるのだが。)

追試の効用

追試の学術的意義

科学研究は先行研究の成果を踏まえて行なうのが本道である。実験科学の分野では、ある研究者が発表した研究手続きを他の研究者達が追試し、同じ結果が出ることが何度 も確認されてはじめて「定説」とよばれるようになる。したがって、まだ「定 説」としての評価が確立していない先行研究の知見をとりあげ厳密な追試を行なって その正しさを確認することは、それ自体重要な学術上の貢献となりえる。逆に先行 研究の結論を覆すような結果が得られれば、それもまた報告価値のある知見となる。

また、ある先行研究の手続きを踏襲して異なる被験者群や対象言語で新たな研究を行 ない、同じ結果が出るかどうか(先行研究の結果はどこまで一般化できるのか)を調べることも意味ある研究たりえる。

ただし、今さら追試を行なうまでもなく既に確立された知見をさらに追検証してそれとほとんど全く同じ 結果を出してもそれだけでは学問的に高い評価は得られない。どの先行研究が追試に価するか、どの結果を追検証するためにどのような研究戦略で臨むべきかを判断するためには、これまでの研究の流れや研究方法論をよく理解している必要がある。

学位論文の予備研究としての追試

新しい分野の研究をはじめる準備の一環として、追試を通じて研究ノウハウを学んだり新しい研究テーマを見つけたりすることは実験科学ではよく行なわれる。現にノーベル賞級の大発見ですら、最初は先行研究の追試がきっかけとなって研究テーマにたどりついた例が稀ではない。

実際、他の研究者が書いた研究報告論文を単純に鵜呑みにするのでなく、実際に自分で同じ手続きを踏んでみることにより、その研究をより深く理解することができる。紙面の制限などのため細かい施行手続きや詳細なデータは雑誌論文には記載されていないことが多いので、自分の手で研究を再現してみることによりはじめて勘所に気づくことがよくあるからである。また、そうやって実際にデータを集めて自分で一から分析してみることにより、先行研究の著者が言及していなかった異なる結果解釈にたどりつく場合もある。そういう意味では、追試は先行研究を深く批判再吟味するための一つの有力な手段であるともいえる。

修論研究の準備としてこういったテーマ探しのための探索的な追試を行なうのであれば、修士課程在学1年目の間にデータを収集しておくとその後の見通しがたてやすくなるだろう。貴方が興味を持っている分野の専門家が所属大学にいるならば、その追試研究の指導を頼んでみるのもよいだろう。先達のノウハウを吸収するのには効率的な方法である。

追試はオリジナルな研究になるのか?

例え先行研究と全く同じ手続き・分析を繰り返すつもりでも、被験者や対象言語が異なれば それに応じて計画・実施・分析・論考の各段階で新たに解決しなければならない問題が生じてくるものである。先行研究をそのまま踏襲するだけではリサーチクエスチョン に対する答が得られないことが明らかになれば、いやでも自分で智慧を絞る必要が生 じてくる。(もちろん、はじめからオリジナルで良質のテーマや方法を考えだすこ とができれば素晴らしいことだが、実際には「叩き台」となる試行があ ってはじめて地に足のついた研究プランが産まれてくることがよくある。)
したがって、「追試研究ではオリジナリティーを発揮する機会がない」と心配する必要はない。むしろ先達の研究ノウハウを摂取しながら第一線の研究者達に伍して智慧比べ を挑みあわよくば「金星」を狙うためには、先行研究の追試をしてみることが研究の格好の出発点であるといえる。

研究の「基軸」をたてる

 Research question はまさに、研究を導く「基軸」といえる。枝葉をとりはらって単純化すれば、下の表にあるとおり論文の「はじめに」や「先行研究」はなぜ然々のResearch questionや仮説を探究あるいは検証する意義と必要性があるかを読者に納得させるためのものだし、「方法」はその研究結果にどうやって答えるかを説明するもの、そして「結果」はその答えを述べるところである。この表における横方向の論理の流れがしっかりしていてはじめて、研究論文として体をなしているといえる。

リサーチクエスチョン整理表

ところが実際には、この横方向のつながりが怪しい、あるいは読者に伝わらない論文原稿が多いのである。そういう原稿を一流どころの学術雑誌に送っても、査読をする側はプロだからたちまち見抜かれてボツになるのはぼぼ確実である。

そうならないためには、研究計画の段階から下の例のような形式の表を各自作ってみられることをおすすめする。

全体デザイン: 日本経済新聞の過去30年間の記事における、ラ抜き動詞形の使用比率の推移を、20の高頻度一段活用動詞について無作為に抽出調査する。


(1)(2)(3)(4)
章名「はじめに」「先行研究」 「研究目的」 「方法」 「結果」
内容背景(動機・先行研究)リサーチクエスチョン/仮説指標・データ収集方法・分析方法得られた(あるいは予想される)結果
話し言葉においてはラ抜き動詞形(「食べれる」など)の頻度が年々増加しているという報告がある(辛 2002)が、書き言葉においては充分な検証がなされていない。 仮説1. 書き言葉におけるラ抜き動詞形の比率は時代が下るに連れて増加しているであろう。記事中のラ抜き動詞形の比率(ラ抜き形:非ラ抜き形)を最近15年間とそれ以前で動詞ごとにそれぞれ集計し、両時期間でT検定を行なう。最近15年間のラ抜き動詞形の比率は、それ以前より高いであろう。
ラ抜き動詞形はインフォーマルな話し言葉に多くあらわれる。一般に推敲に費やす時間が短い文章の文体は、口語的な特徴を有すると考えられている。仮説2. ラ抜き動詞の出現頻度は、推敲に費やす時間が短い文章の方が高い。 社会面記事と社説のラ抜き動詞の使用比率を動詞ごとにそれぞれ集計して両者間でT検定を行なう。社会面記事は社説よりもラ抜き動詞の出現比率が高いであろう。

眺めているだけだと「こんなの簡単!」と思うかもしれないが、実際に自分でやってみると思いのほか論がつながらなくてびっくりすることがあろうかと思う。逆にいえば、こういう表を活用することにより、自分の構想の「穴」(ギャップ)を早期発見することができるのである。その「穴」がわかればそこを埋めるために必要な文献を読んだり教官ほか第三者に的を絞って相談したり、対策を講じることが可能になる。

 データをとりおわり一通り分析が済んだら、再度この表に記入して抜け落ちがないか確認しよう。そうやって全体の見取り図ができあがれば、あとは強引に力業ででも文章化して論文にまとめることが可能である。ところが逆に全体像をつかんでいないと、書いた本人ですら長い論文の流れがつかめなくなることもある。(特に何百ページもある博士論文では、著者自身ですら全体の構成を完全に把握するのは思いの外難しい。口頭試問で「あなたはこの章にこんなことを書いていますが…」と質問を受けて、一瞬「そんなこと書いたっけ?」と戸惑うことがあったりもする。)

 学位論文に取り組むのはまだ当分先の話だというなら、雑誌に掲載されている論文や先輩の学位論文を上のようなフォーマットにしたがって分析するのもいい勉強になると思う。漫然と読み流すよりはるかに深く、批判的に読むことができる。(上に示した例も、ひょっとしたらどこか怪しいかもしれない。どこがヘンか探してみよう!)そうやって分析的に読むことにより、自分の研究へのヒントもつかみやすくなる。

 さらに、大学院でのトレーニング第一段階の目的は、この表がきちんと埋まる研究ができるようになることだ、と「極論」することも可能である。文献サーチのしかたにしても実験テクニックの練習にしても統計学の勉強にしても、そういう観点からみると今自分が何のために勉強しているのか位置付けがはっきりしてくるだろう。

 さて、こういう表をわたされると論文の中から関連がありそうな文や語句を適当に抜き書きして「分析が終わりました」と持ってくる人がいるが、それだけでは充分な分析にならない場合が多い。以下、各項目ごとに、この表を埋めていく上での注意点をかいつまんで説明する。

(1) 背景:

「なぜこの研究をすることに価値があるのか」読者に納得させるべきところ。ただ単に「誰もやっていないから」としか書かない著者もいるが、これでは動機が薄弱とみなされる。先行研究から説き起こすなら「これがわからないためにいかに当該分野の研究の進捗が阻害されているか。」「これがわかればいかに研究が進捗するか。」が伝えられていれば言うことなし。実用性から話を進めることも可能。(「〜は社会的に重要な領域であるのにもかかわらず、これまで不当に軽視されてきた。」などなど。)
もし分析対象とした論文にあてはまる記述がない(どこからそのリサーチクエスチョンが生まれてきたのかわからない)なら、正直に「記載なし」とすればよい。

(2)リサーチクエスチョン/仮説:

リサーチクエスチョンあるいは仮説が複数ある場合、「仮説1」「仮説2」などと番号をふっておくと、論文の後段で言及するときに便利である。
リサーチクエスチョンなら「〜か?」という疑問文、仮説なら「〜である。」「〜する。」など断定文で言い表すと論点がわかりやすい。(論点を明確にするため、上の表では「〜を明らかにする。」「〜を探る。」「〜検討する。」などという言い回しは避けよう。)
一つのリサーチクエスチョンは一つの問いをあらわすものでなければならない。(突き詰めれば、一つの答えに対応させることが可能でなければならない。)たとえば
「日本では何%ぐらいの家庭がインターネットにブロードバンド接続され、外出時も接続したままにされているか。]
は、実は

  1. 「日本では…ブロードバンド接続されているか。」と
  2. 「日本では…外出時も接続したままにされているか。」

という二つの問いをあらわしている。それぞれに対して

  1. 「〜%がブロードバンド接続されている。」
  2. 「〜%が外出時も接続したままにされている。」

という答えが対応するわけである。
実際の論文の中では簡潔に表現するため上のような書き方(「…常時接続され、外出時も接続したままにされているか。」)をしていることもあるが、リサーチクエスチョン整理表は論点を明示的に表示するのが狙いだから、それぞれ分けて書くようにしよう。もしこの二つの問いが内容的に関連していて一つのグループにまとめた方がいいと思うなら、

  1. 「リサーチクエスチョン2-a: 日本では…ブロードバンド接続されているか。」
  2. 「リサーチクエスチョン2-b: 日本では…外出時も接続したままにされているか。」

などとすればよい。
逆に論文によっては一つの研究課題を2文以上であらわしているものもある。例えば、

  • 「東京の住人のうち何%が四国出身か。徳島県、愛媛県、高知県、香川県のいずれかから移ってきたか。」

という研究課題では、前半と後半は要するに同じ問いを言い換えただけのようである。つまり、これは全体で一つのリサーチクエスチョンをあらわしているのである。こういう場合、どちらか一方、わかりやすい方だけを整理表に記入してもよいし、もし両方とも残したいなら、

  • 「東京の住人のうち何%が四国出身か。(=徳島県、愛媛県、高知県、香川県のいずれかから移ってきたか。)」

という風に書けば二つの問いが同じことをあらわしていることがはっきりする。
先にも述べたとおり、リサーチクエスチョンは研究結果にもとづいて明確な決まった答えを出しうるものでなければならない。

  • 「日本ではインターネットはどのように使われているか。」

というのはいろいろな答え方が可能である。裏をかえせば、何を尋ねているのかが幾通りにも解釈でき、リサーチクエスチョンとしては漠然としすぎている。一方、

  • 「日本の家庭ではインターネットは娯楽用、学習用、実務用のうちどの目的のために最も頻繁に使われているか。」

という問いであれば、「娯楽用」「学習用」「実務用」それぞれの指標さえ決まれば明確な答えを出すことが原理的に可能なので、リサーチクエスチョンに必要な明確化・特定化がなされているといえる。

(3)指標・データ収集方法・分析方法:

どういうやり方によってリサーチクエスチョンに答えを出そうとしたのか、を書くところ。「このやり方なら確かに答えが出せる」と納得させるものでなければならない。複数のリサーチクエスチョンにまたがって共通する情報(調査対象者の人数・構成や調査時期など)があればその部分は欄外に別立てで書き、個々のリサーチクエスチョンに直接対応する部分だけを表に書き入れてもよい。
「データ収集方法」だけでなく、「指標」と「分析方法」も書くことをお忘れなく。単に

  • 「日本人の3歳児、5歳児、7歳児各十名の自然発話を録音した」

というだけでなく、

  • 「録音を文字化し、そこにあらわれる主語明示文と主語省略文の比率を調べた」

というところまで書いてあってはじめて「何を」「どう」分析したのかについての情報が得られる。

(4)結果:

ここでは・のリサーチクエスチョンに対応して箇条書き形式で結果を書くようにしよう。リサーチクエスチョンが3つあるなら、それぞれに対応させて3つの結果があるはずである。(「全部まとめて一文で」などと欲張ると論の流れがつかみにくくなる。)リサーチクエスチョンに番号を割り振っておくと、対応関係をさらにはっきりさせることができる。

  • 結果1
  • 結果2
    • 2-a
    • 2-b
  • 結果3


 なお、上の表にどうして「考察」が含まれていないのか、という疑問を抱いたようならあなたはスルドい!その答えは、「考察は必ずしも個々のresearch questionや仮説に一対一で対応しないから」である。たとえば3つの仮説のうち2つが支持され1つは棄却されたとすると、それぞれの結果に対して個別に考察を加えるのではなく、その結果のパターン全体を説明できるような全体像を描くべく論を展開する場合がある。そういう可能性を想定したので、それぞれのresearch questionに考察が対応するような表を作ることを避けたのである。(もちろん、一つ一つのresearch questionに対して個別に考察を加えても一向に構わない。それは著者が選択すべきことである。)

リサーチクエスチョン同士の関係

上に述べたのは主としてRQ表の横方向(背景--RQ--方法--結果)の整合性を保つための心構えだが、この表の縦方向の整合性、とりわけRQ相互のまとまりも重要である。全く無関係なRQが雑然と並んでいるのでは、一本のまとまりのある研究報告とはいえなくなる。
RQ相互の関係にはいくつか類型がある。以下に主なものをいくつかあげよう。

(1)一つの事象を様々な角度から問う一連のRQ

例:
 RQ1:電話会話におけるあいづちは、外国人より日本人の方が多いか?
 RQ2:電話会話におけるあいづちは、男より女の方が多いか?

(2)外的な形態や理論体系に対応する一連のRQ

例:
 RQ1:電話会話の開始部におけるあいづちは、外国人より日本人の方が多いか?
 RQ2:電話会話の展開部におけるあいづちは、外国人より日本人の方が多いか?
こういうRQが並んでいれば、当然
 RQ3:電話会話の終結部におけるあいづちは、外国人より日本人の方が多いか?
を期待するのが自然だろう。電話会話を開始部・展開部・終結部に3分割して研究するのは会話分析の定石であり、そのうち二つが話題にのぼれば「最後の一つはどうなんだ?」と思って当然である。むろん、納得のいく理由(たとえば、「既に先行研究によって結論が出ている」、「技術的にデータ収集が難しい」など)があってRQ3を外すというのはありうることだが、それならその理由を説明しておくべきである。

(3)先行するRQを受けてさらに深く問うRQ

例:
 RQ1:電話会話におけるあいづちは、外国人より日本人の方が多いか?
 RQ2:電話会話における「へ〜」型のあいづちは、外国人より日本人の方が多いか?
 RQ3:電話会話における「そうなんだ〜」型のあいづちは、外国人より日本人の方が多いか?
ここではあいづち一般の多寡を問うたRQ1を受けて、様々なあいづちのパターンごとに個別に問いをたてたのがRQ2以下である。

(4)上記の変形として、先行するRQにある結果が出た場合にのみ意味を持つ追加のRQをたてることがある。

例:
 RQ1:電話会話におけるあいづちは、外国人より日本人の方が多いか?
 RQ2:もし電話会話において外国人より日本人の方があいづちが多いとすれば、その差は年齢を問わず一定か。
実際には、RQ1の答えが「日本人の方が多い」である場合のみRQ2を論文に記し、それにもとづいて分析を行なうのが通例である。逆の結果が出た場合はRQ2は意味がないので論文に記載しないことが多い。その場合には、それにかわる別のRQをたてることがよくある。こういう結果にもとづく分析手順の場合分け(シミュレーション)は研究計画の立案段階で済ませておいた方が安全である。なお、論文の冒頭でこういう場合分けをフローチャートで示して「これにしたがって研究を進めます」と宣言し、そのとおりに実行して結論を出せば確かにかっこよかろう。

RQ相互の関係をはっきりさせるためには

まずは、研究の中でとりあげられている変数/要因を書き出してみることをおすすめする。次にそれぞれのRQがどの変数とどの変数の関連を問うているのかを図に示してみる。(変数が多すぎて図解しきれないようなら、相関表形式にするなど工夫してみる。)こうやってRQを視覚的にあらわしてみると、「当然問われるべきなのに問われていない変数」や「他のRQと関連の薄いRQ」などがはっきりしてくる。

Research questionの組み直し

 いざ分析が終わって整理してみると、はじめにたてたresearch questionや仮説では全体がうまくまとまらないことに気づく場合がある。そういう場合は、research question や仮説そのものを組み換えるという作戦も「あり」である。学術論文の場合、予想に反する結果があたかも当初からの仮説であったかのごとく書いたとしても、別に不正とみなされることはない。それどころか逆に、予想どおりの結果をあたかも期待を完全に裏切るものであったかの如く描くことによって、発見の新規性と重要性を印象づけることすらある。

 こういうレトリックは学問の世界では許容範囲内である。やや専門的にかっこよくいうと、学術論文における「research question → 結果報告」の展開は数学における計算式の推移のようなもので論理的に整合していればよく、研究者の思考過程の経緯を時間的にそのまま追う必要はない。要は最終的に読みやすく報告価値のある研究論文になっていればいいのである。

ただし、既にどこかで発表した自説を引っ込めたり覆したりする際にはそのことをことわっておかないと読者を混乱させるもとである。学界に大きな影響力を持つ人であれば余計にその責任が大きい。

RQ道 昇段・昇級判定基準表(試案)

【級外】

既存論文をRQ表で分析する課題を与えられると、本文から適当に関連のありそうな語句を抜き書きするだけ。表の目的・機能やそれに対応した構造が理解できていない。実証研究の研究課題(RQ)と考察の中での論点の区別がつかない。「なんでこんな無駄な表を作らされているのだろう?」と内心疑問に感じている。あるいは、何も考えていない。

【7級】

既存論文の「リサーチクエスチョン」はほぼ的確に抽出できるが、RQに対応して「動機」「方法」「結果」を整理することがまだ不得手。ついつい、記入欄を併合したRQ表を作ってしまう。

【6級】

既存論文の背景・研究課題・方法・結果を的確にRQ表に整理できる。
反面、デザインの概要や変数/要因の整理はまだ苦手感が残る。

【5級】

既存論文の背景・研究課題・方法・結果を手際よくRQ表に整理でき、デザインの概要や変数/要因も簡潔に、しかも要点を落とさず、わかりやすくまとめられる。RQ表の横方向の整合性の観点から、既存研究を批判できる。
反面、自力でたてた研究計画ではしばしば横方向の整合性に破綻(「ねじれ」)がみられる。そのねじれに気がつくが修正する術を知らず、「こことここがどうしても繋がらない!」と悩む。内心、「こんな表さえなければボロを出さないで済んだのに」と逆恨みする。

 ↑↑↑できれば博士前期課程出願まで、
    遅くともM1春学期終了までに達成すべし↑↑↑

【4級】

横方向の整合性のある研究計画を自分でたてることができるようになる。RQ表に従って研究計画をたてるのが、たとえ苦しくともやりがいのあるチャレンジと感じられるようになる。

 ↑↑↑できれば博士前期課程出願まで、
    遅くともM1夏休み終了までに達成すべし↑↑↑

【3級】

上記に加え、既存論文を縦方向の結束性の観点からも批判検討できるようになる。
反面、自分で作った研究計画では縦方向の結束性にしばしば破綻がみられる。一線の研究者と自分の力量の較差が具体性を伴って実感できる。

 ↑↑↑できれば博士前期課程出願まで、
    遅くともM1秋学期終了までに達成すべし↑↑↑

【2級】

自分でたてた研究計画のRQ表に、縦方向の結束性の目立った破綻がなくなる。まとまりのいい修論研究が立案可能。分野が違っても、他の学生の修論計画への助言がある程度できる。若葉マークつきながら、一応研究者として路上運転できる段階。
反面、理論的動機に基づいて単発の実験や調査を連ね、より大きなテーマに貫かれた継続性のある研究プロジェクトを企画することはまだ難しい。

 ↑↑↑できれば博士前期課程出願まで、
    遅くともM2の春学期末までに達成すべし↑↑↑

【1級】

当初の予測と異なる結果が得られてもそれに応じて柔軟にリサーチクエスチョンや仮説を組み直し、全体として整合性と結束性のある研究報告を組み立てることができる。この段階に達すると、自分の専門分野に関しては先輩院生や指導教員とガチンコで議論ができる。

 ↑↑↑できればM2進級まで、
    遅くともM2の12月末までに達成すべし↑↑↑

【初段】

上記の条件を満たした投稿論文を書き上げることができ、かなりの高打率で学術誌に掲載される。学会発表が注目を浴びる。他大学・他機関の研究者や大学院生からも「〜の研究をしている〜大学の〜さん」と、研究者として認知されるようになる。

 ↑↑↑できれば博士前期課程修了まで、
    遅くともD1の春学期末までに達成すべし↑↑↑

【二段】

当該研究分野の背景となる理論に通じている。明確な理論的動機にもとづき、単発の実験や調査を連ねて一貫性のある研究プロジェクトを企画実施し、分野に貢献できる。大学院生がこのレベルに達すると、指導教員は安心して、博士論文を書くように勧めることができる。

 ↑↑↑できれば後期課程進学まで、
    遅くともD3進級までに達成すべし↑↑↑

【三段】

分野の異なる他の学生の博論計画に対しても、上記の観点から適切な助言が与えられる。後輩から頼られ、所属ゼミの重鎮として誰からも一目おかれるようになる。いつ就職しても即戦力として大学院生の指導ができる。



Wiki内リンク元